013話
トネリ村に戻った僕達を、村長さんを含む村民の人達が笑顔で温かく迎えてくれた。
何度もお礼を言われた。
………主に、ゲイツさんが。
まぁ、実際もゲイツさんが1人で討伐したのだから、当たり前なんだけど。
結局、僕達は村長さんの勧めで、空き家に案内されてようやく体を休めることができた。
でも、正直案内された家は、お世辞にも良いとは言えず、心の中で村長さんに謝り、裏の空き地に僕達の家を設置することにした。
「――ほう、立派な家ですのぅ」
「視覚効果が作動しているので、ここに家が在るとは誰も気付かない。なのです」
「取り敢えず、中に入ろう」
ゲイツさんを家に招き入れる。
家の中に入ってからのゲイツさんは、ほぅ!の連発で、落ち着いてもらうのに時間がかかったのは余談である。
「――天界人の生活というのは、正に奇想天外ですのぅ」
1人用ソファに腰を下ろし、まだ興奮冷めやらぬ状態のゲイツさん。
いや、ココは天界人の生活スタイルではなく、前世の僕がいた生活スタイルなんだけど。
まぁ、いっか。
これ以上、ゲイツさんを混乱させたくないしね。
「いくつか空き部屋はあるので、好きな部屋を使って下さい」
紅茶が入ったカップを手に取りながら、自分とイリスの部屋を彼に教えた。
「ゲイツさんも、紅茶で良いですか?なのです」
「ん?あ、いや。儂は、お茶よりも酒が良いのぅ」
「ごめんなさい、お酒は無い。なのです」
うん。
前世の僕は未成年だったから、飲酒経験はない。
イリスは……想像がつかない。
そういえば、僕ってイリスの事、天界人で守護天使で強いって事以外、知らないんだよなぁ。
「あぁ、それは問題ない。」
肩掛けバックから、酒瓶と陶器製のカップを取り出す。
「ゲイツさん、ソレは?」
知っているモノを出できた僕は思わず、ゲイツさんに尋ねた。
「これは、儂が1番居心地が良かった国の酒なんじゃよ。酒の色が透明で水みたいなんじゃが、見た目通りスッキリしたのどごしでのぅ。実に美味い、お気に入りの1品じゃ」
「原材料とか、知っていますか?」
「ん?確か麦で出来ているとか、言っておったかのぅ」
そう言って、美味しそうに酒を飲み始める。
ソレってやっぱり、日本酒じゃん。
しかも麦焼酎じゃん。
父さんは、ビールよりも日本酒、特に麦焼酎が好きで、夕食によく飲んでいたから、味は知らなくても、香りは覚えている。
ってことは、この世界には日本に似た国が在るってことかなぁ?
言われてみれば、世界地図の中に小さな島国があったのを思い出す。
それを見つけた時、日本みたいだなぁって思ったんだっけ。
きっとそこではないかと、考察してみる。
確か、7つ目の国の……。
「しまった、つまむ食べ物がないのぅ」
ゲイツさんは、バックに手を入れてガサガサやっている。
「――イリス」
「はい。なのです」
イリスは鞄から、1つの容器を取り出し、ゲイツさんの前に置きその蓋を開ける。
「おぉ、コレは?」
「分かりません。ですが、絶対美味しいはず。なのですよ♪」
「は?」
そうだね。
分からないよね。
だって、食に関しては完全に僕の好みなのだから。
知らなくても、イリスは疑問を持つことなく食して、その都度その美味しさに感動している。
「――それは、揚げ出し豆腐ですよ」
「アゲダシドウフ?」
「詳しくは分かりませんが、衣をつけ揚げた豆腐に、醤油などの調味料で味を付けたつゆをかけた料理です。まぁ、味は保証しますので」
うん、理解出来ないよね。
でも、理解出来ないって事は、豆腐も醤油もこの世界には無いのかな?
日本酒はあるのに?
「ゲイツさん、そのお酒の名前はなんて言うのですか?」
「コレか?これは極東酒じゃのぅ。なんと!このアゲダシドウフ旨いのぅ。この酒にピッタリですのぅ♪」
ご機嫌のゲイツさんを見て、僕はひと安心。
良かった。
気に入ってくれて。
それにしても、極東かぁ。
極東なんて国名は存在していないから、極東にある国が作っているんだろうケド。
「そういえば、極東酒で思い出したんじゃがのぅ。カナタ殿の得物はカタナではありませんかのぅ?」
「え?はい、ご存知なのですか」
「うむ。極東酒を作っている国の者が、カナタ殿と似たような物を腰に差しておりましたからのぅ」
そこで、僕は気付いたんだ。
ゲイツさんが何の抵抗もなく、箸を使っていることに。
ちなみに天界では普通に使っているから、イリスも僕に合わせて、ほぼ食事は箸を使用している。
だけど、ゲイツさんは生まれも育ちも、グレナ王国と言っていた。
この世界は、中世ヨーロッパ時代に似ているから、食事はナイフ・フォーク・スプーンを使用しているわけで。
もちろん、グレナ王国も例外なくそれらを使っているハズで。
「……ゲイツさん、箸使うの上手ですね」
「ああ。ミカド皇国では、普通に使っておってのぅ。いやぁ、最初は苦労したのぅ」
「ミカド皇国?」
「ホレ。先ほどから話している、極東酒を作っている国じゃのぅ」
7番目の国、ミカド皇国。
日本酒、刀、箸。
って、完全に日本じゃないか!
「……僕、風呂入って寝ます。お休みなさい」
ソファーから立ち上がり、現実逃避ともいえなくもない行動に僕は出る。
そこへ辿り着くのはまだまだ先の事だから、寝て忘れるに限る。
あ〜、疲れたぁ。




