011話
「――あ、イリス。お茶ちょうだい」
「では、準備致します。なのです」
「……カナタ殿?コレは何という食べ物かのぅ」
「それは、玉子焼きですね」
あぁ〜。
弁当美味しい♪
この焼き鮭最高ッス。
「……あのぅ。話聞いています?」
はい。
聞いていますが、聞きません。
ゲイツさんは、僕が渡した姉さんの手作り弁当に、舌鼓を打っております。
ちなみに、今回のおかずを紹介。
玉子焼き・焼き鮭・豚の角煮・いんげんの胡麻和え・きんぴらごぼう・切干し大根。
ザ・和食メニューになっております。
「うむ。儂らに、魔物討伐の依頼であったのぅ」
流石は、僕らの良心という位置を確立しつつあるゲイツさんは、涙目な村長さんの相手も怠らない。
今の僕達は、村長さん宅にいるんだけど、食事を用意してくれると言う村長さんの厚意を丁重に断り、弁当を食べながら、話を聞いている。
「は、はい。そうなんでございます」
そう、僕達に声を掛けてきた理由は、魔物討伐。
村の周辺に、最近ウルフが姿を現していて、その数が多くて困っているらしい。
「村で対処したくても、向こうの数が多いという事もあり、情けない話ですが、我々では追い返すだけで精一杯で、このままでは村が襲われるのは時間の問題なのです」
本当に困っている様子の村長さん。
ウルフって、狼のことだよね。
前世にも野生の狼はいたけど、出会った経験もないから、いまいちイメージできないケド、魔物扱いなのだから、凶暴度がハンパじゃないのだろう。
「カナタ殿」
「なんですか?」
「儂は村の人達の力になりたいのじゃが、よろしいかのぅ」
「良いですよ」
僕が即答するのが意外だったのか、ゲイツさんの目が大きく見開く。
「ゲイツさん1人で、余裕で片付けられるのでしょう?」
「――うむ。任せておれ」
ゲイツさんは、僕の意図を理解して大きく頷いた。
「おぉ!よろしくお願いします」
そうして、食事を再開した僕達。
僕達の食事を見ていた村長の喉が鳴ったのは、聞こえていないフリをした。
夜になるまでの暇潰しにと、僕は読書。
イリスは、僕の為にお茶を淹れたり周囲を眺めたり。
ゲイツさんは、村長さんと雑談に花を咲かせたり。
それぞれの時間を過ごすことになった。
そして、魔物討伐の時を迎える。
村から出て直ぐに、周囲からたくさんの気配を感じる。
「たくさんいます。なのですよ♪」
「――イリス」
ワクワクが止まらない様子のイリス。
僕は笑いを堪えながら、彼女に釘を刺す。
「イリス。忘れてはいけないよ、僕達の役目を」
「う〜、はい。なのです」
ゲイツさんは、肩掛けバックから杖を取り出した。
流石は、魔法使いさん。
杖を持つ姿のゲイツさんは、サマになっていて貫禄さえある。
当たり前か、魔法使い歴60年なんだもんなぁ。
だけど、あれマジックバックだったんだ。
ただの布袋じゃなかったんだなぁ。
「――来ますぞ」
普段の優しい声とは違う、鋭い声と同時に草むらから、黒い物体が飛び出してきた。
「灯りよ」
ゲイツさんの頭上に光球が現れ、周囲を照らす。
そのお陰で、ウルフの姿がハッキリと視認出来る様になった。
勢い良く飛び出したウルフ達は、突然明るくなった事に戸惑っている様で、動きを止めた。
「へぇ、便利だねぇ」
「恩恵、使わないのですか?なのです」
「うん?使ってるよ。この機会に試せるものは試さないと、加減が分からないしね」
天界人の恩恵、その1。
僕達の瞳は、例え夜でも昼と変わらない視界にできる機能がある。
なので、基本天界人は灯りを必要としないが、天界の姉さんの部屋には、いくつか照明器具があったから、使っていない人もいるらしい。
僕的にも情緒にかける気がして、この恩恵を普段はOFFっている。
「氷の矢10本!」
先端が鋭い氷が出現すると、ゲイツさんが手を振り下ろした動きに合わせて、ウルフに向かってスピードにノッて飛んでいき、ゲイツさんを囲んでいたウルフ達の頭に突き刺さる。
まさに、一撃必殺。
刺さったウルフは、「グフッ!」と声と共に倒れて動かなくなってしまった。
ゲイツさんは、倒れたウルフの事など気にもせず、次のウルフの群れに攻撃をするべく行動を移していた。
「雷の刃一閃!」
ゲイツさんの手が、水平に動くと雷の光が、ウルフの首を次々と飛ばしていく。
飛ばされたウルフからは、大量の血が噴き出し周囲が一気に鉄の匂いが漂う。
初めて目にした対魔物戦が、余りにも凄すぎて僕は
言葉を失う。
想像はしていた、剣と魔法の世界では、どうしても避けては通れない道なのだからと。
ココは、殺るか殺られるかという世界なのだ。
魔物は勿論だけど、人同士だってこの世界では日常なんだ。
でも、実際目の当たりにすると、こんなにも胸くそ悪い気分になるんだな。
グロ過ぎて、本当に最悪な気分になる。
だけど、顔には絶対に出せない。
この世界の旅は始まったばかりなんだ、特に魔物は何処にだっているのだから、一々気になんてしてはいられない。
今目の前で戦っている、ゲイツさんの様に前だけ見ていないと。
それに、元々僕とイリスには殺生など出来ないのだから、せめてこういう光景には早く慣れないとな。
「氷の矢30本!」
僕が考えている間にも、ゲイツさんはウルフを倒し続け、屍の数を増やしていった。




