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010話



「――カナタ殿。あれが、トネリ村ですのぅ」


 ゲイツさんが指差した先に、ちらほらと家が見えてくる。


じゃあアレが、村の門かな?


 太い角材が2本、間隔をあけて立っているだけで、その側には、槍を片手に見張りの人?がいる。


「やっと、着いたねぇ。」


「はい。なのです♪」


 僕と手を繋ぎながら、上機嫌のイリスの目は好奇心でキラキラしている。


あぁ、イリスの機嫌が直って良かったよ。


 頭ナデナデでも、中々直ってくれなくて。


 試しに手を繋いでみると、上機嫌イリスが出来上がった。


うん。

何事も試してみるものだね♪


「まぁ、主に僕のせいだけどねぇ………ハァ」


「ハハハッ。元々は、儂が倒れておったのが原因なのじゃから、カナタ殿がいつまでも気にする必要はないんですがのぅ」


 反対側からゲイツさんが、僕を慰めてくれる。


あぁ、本当に良い人だなぁ。


「………そうですね。ゲイツさんの優しさに甘えて、もうこの話はしないことにします。」


「うむ。それが良いですのぅ」


 出入口に立っていた男性が、僕達に気付いたようだ。


「――何者だ!」


 突然、男は持っていた槍の先を、僕達に向けてくる。


 いきなりの威嚇行動に、呆れ気味の僕とは違い、庇うようにコートの中に手を入れながら、イリスは既に前に出ていた。


 真っ先に槍を向けた先が、僕とイリスって。


この槍男、自殺志願者なのかなぁ?


 お忘れかも知れないので、ここで今一度申しますが、イリスは僕の守護天使です。


 そして、守護天使は主に神族を守るのが役目です。


 槍男は、自分よりも身体の小さいイリスから放たれる殺気にビビったのか、一歩後退する。


「いきなり、子供に槍を向けるとは、普通ではないのぅ」


 のんびりとして、どこか安心感を持たせる声が隣から聞こえ、見ると相も変わらずニッコリ笑顔のゲイツさんが一歩前に出る。


 子供が話をするよりも、大人が話すのがこの場では適任だ。


「――ひっ!?い、いや。こ、この村に何の用だ」


 イリスの殺気でビビっていた槍男は、ゲイツさんが纏う優しい雰囲気に、少し安心したようだ。


「儂らは、王都グレナまで行く途中で、この村に立ち寄った旅の者じゃが?何か問題があるかのぅ」


「で、では。身分証の確認を」


身分証ってなに?

ってか、どんなモノ?


「カナタ殿達は、身分証はお持ちかのぅ」


 小声でゲイツさんが、僕達に聞いてくる。


「ソレってどんなモノですか?」


 こちらも、小声で聞き返すと、ゲイツさんはウエストバックから、金色のカードを取り出して、僕達に見せてくれる。


「き、金色!?ランクAぇ!」


 何やら、ゲイツさんのカードを見て驚愕の表情の槍男。


ん?

ランク?


 確かにゲイツさんは、ランクAの冒険者って言っていたけど………。


 じゃあ、あのカードは、冒険者が持っているもの?


 ランクの基準は、イマイチ僕には分からないけど、ゲイツさんって凄い人なんだなぁ。


 それにしても、コチラの世界の身分証も、カードなんだぁ。


でも、顔写真は付いていないんだ?


 パッと見て、クレカの方が表現が正しいかも。


「――イリス。コレ、持ってる?」


 小声で、ゲイツさんのカードを指差しながら、イリスに尋ねると、彼女は小さく頷き、コートのポケットから2枚の青色のカードを取り出す。


 槍男は、ゲイツさんを見たままフリーズしているから、僕達のやり取りに全く気付いていない。


「身分証って、コレ?」


 その1枚をイリスから受け取り見せると、どこかホッとした表情をする槍男。


坊主(・・)達はランクDの冒険者か。通行を許可する。ようこそ、トネリ村へ」


 槍男の僕達に対する『坊主』発言で、イリスがタガーに手をかけるのに気付いた僕は繋いでいた手を振ると、イタヅラっ子が母親に見つかったかのようなバツの悪い表情を僕に見られないようにプイッと彼女は横に向けた。


 その可愛らしい姿に、僕は苦笑を浮かべるしかない。


成程、僕とイリスはランクDになるのかぁ。


………まぁ。コレ、多分ではなくて確実に、姉さん特製の偽造カードだよね。


「ねぇ、ゲイツさん。この世界では、どこかの村や町に入る時には、ああいう手続きが必要なの?」


「そうですな。村では、先程のように身分証を見せるだけで出入りできますが、町や王都だと、キチンと帳簿に名前などを記入しますのぅ」


「そっかぁ、少し面倒ですね」


 実際入ってみると、1階建ての木造建築が間隔をあけて並んでいて、玄関先には木製の鍬が立て掛けられていたり、何かの野菜が軒先に吊るされていたり、村民の服装などから推察すると、あまり生活水準は高くないらしい。


「イリス、どう?宿泊施設は、ありそうかな?」


「……いいえ、見当たりません。なのです」


「ここは、グレナ王国の最北端の村というのもありますが、海や山はここからでは遠くて、しかもあるのは、未踏の森だけ。定期的に物資を運んでくれる商人以外この村には訪れない、ですから儂達の様な旅人が寄るのは、ここの者達からすれば、珍しい事なのかも知れんのぅ」


 ゲイツさんから、この村の現状を聞いて、槍男のあの態度は、そういう土地柄が要因なのかもと思う。


「確かに、滅多に外から人が来ない村に、子連れ旅行者が現れたら、そりゃ驚くよねぇ」


「しかも、イリス達は未踏の森方向から来た。なのです」


 僕とイリスは人がいそうな場所として、この村を選んだだけで、ゲイツさんからの情報はとても有り難い。


「仕方ないね。宿泊施設が無いなら、ココに長居は無用だね。もうすぐで、日も落ちそうだし」

 

 見上げると、空がオレンジ色に染まりつつある。


「そうじゃな。ここ泊まるとしても、空き地で野宿しかないしのぅ」


「だね。よし、この村を出ますか」


 そう決めて歩き出した僕達に、1人のお爺さんが近付いてきた。


「ようこそ。トネリ村へ」


 そう、挨拶をしてきたお爺さんに、僕達も返礼する。


「私は、この村の村長をしておる者です。ホセから聞いたのですが、あなた方は冒険者だとか?」


………いいえ。冒険者をしているのは、ゲイツさんだけです。

ってか、ホセって誰ですか?


「いかにも」


 僕の心の声が聞こえたように、ゲイツさんが返事をすると、村長さんは突然僕達に頭を下げた。


「あなた方を冒険者と見込んで、お願いがあります!」


あっ、この状況。

嫌な予感しかしない。

ダメなパターンのやつだ。


「この村を、私達を助けてはもらえないでしょうか!」


………ほら、やっぱり。

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