神様の小姓
折角なので時期的なものを書いてみたくなってしまいました。
勢いで書いてしまいましたし、短めで恐縮ですが、
よろしければお読みいただけると嬉しいです。
「神様、ねぇ、神様ってば、もうじき人間たちが新年迎えますよ。いつまで寝てるんですか。ほら、早く起きてくださいって、準備に取りかからないとまた例年みたいにあわてることになりますよ」
「うー…………、ダメ……、後数日寝かせて……」
「いや、もう新年まで間がないんですって、お召し物の準備を始めますから早く起きてください」
「……Zzzzzzz」
はぁ、この神様にも困ったものですね。
ああ、紹介が遅れました。僕は“とある神様”の小姓をしています。名前は、つけてもらってないので残念ながらありません。生前の名前はあるんですけど、それは向こうで死亡した際に自分の名前ではなくなるらしいので名乗れないんですよね。だから普段は“おい”だとか“あんた”だとか“小姓”だとかそういう風に神様から呼ばれています。
なんで僕が神様の元で雑用係みたいなことをしているかというと、これにはいくつか理由があるんですよね。
一つ目、生前の僕は神様から見てこれといった大きな悪いことをしていなかったらしいです。この大きなってことが重要で、小さなことまで考慮に入れてしまうと例えば食べるための殺生はどうなのかなどと、どうしようもないことまで考えることになってしまうのが神様には面倒らしいです。
二つ目、僕の気性がおとなしいことらしいです。いや、そんなこと言われてもと思ったものなのですが、どうやら前任者の小姓さんがどうも反抗心が結構ある方だったらしくて。『強く反抗しなさそうってことが目安になったのよー』なんて以前酔っ払いながら言っていました。
三つ目、二つ目のこととも微妙に被ってくるんですが、ちょうど僕が生前の生活を終えた頃、前任者の小姓さんがどうやら失踪したらしいんです。それで、つまりはタイミングが良かったらしいんですよね。失踪してしばらくすると輪廻に戻るらしくて、どうも前任者はここでの生活が嫌になって逃げた、と……。
神様の小姓、まあ召使いですよね、生活は保証されてるし、死ぬようなこともないし、割と恵まれた生活をさせていただいていると思うんですが、いかんせん神様がものすごく怠惰な人(?)でして、これがまた世話のやりがいがあるというか、ちゃんと働いてくれません。
神様のお仕事といってもやっていることは本当に少ないんです。
昔は割と人々の生活にも手を出したりしていたらしいのですが、人の世が便利になるにつれて、どうせ神様が手を出さなくても自分たちでなんとかするだろうという考えが神様たちの中に浸透していったらしく、人々の世に関心を向ける回数が一年ごとに一つ減り、二つ減りとどんどん減っていって、最近は神事やら新年やらそういうときにしか地上に顔を向けることすらせずにぐーたらな生活をしている神様まで居るんです。ちなみに神様って呼んでいる理由が名前で呼ぶのが恐れ多いほどに有名な方だからなんですよ。……とかぼやいてる間に神様の新年のお召し物の準備が整いましたね。
「ほらー、神様。いつまで横になっているんですか、いい加減準備しないと本当に新年に遅刻しちゃうんですって、去年も遅刻しかけて猛ダッシュする羽目になったじゃないですか、忘れたんですか。日頃の運動不足がまた祟りますよ」
「うう……、走るのは、嫌……、起こしてー」
「もう、本当に世話のやける。ほら、あなた様は人で見たら美人な女性の姿してるんですから、いくら小姓とはいえ、僕にあられもない姿見せないで下さいよ」
「気にしなきゃいーのよ、ほら、着替えさせてー」
「襦袢くらい自分で着てくださいよ」
「と言いながらもちゃんとやってくれるあんたが結構好きよ」
「//////、何言ってるんですか、そんなこと言ってもごまかされませんからね」
「ちぇっ、でもどうせ私の姿なんて人間から見れないんだから適当でもいいじゃない」
「だーめーでーすっ、稀には見えてる人居るんでしょう。ずーっと昔に一度絵姿にされて笑われたって言っていたじゃないですか、前任の小姓さんがどうだったか知りませんが、僕はそんなことは許せませんっ」
「なぁに、心配してくれてるの。ありがとね」
なんだかんだと話しながらも、僕は神様に豪奢に装飾された薄布で作られた衣を何枚も重ね着させていく。いくら薄布とはいえ、この数を重ねたらさすがに重いんじゃないかと思ってしまうような量の枚数だがどうも特殊なものであるらしく、重くもなければ動きを阻害されることもないらしい。まさに神秘だ。
「ほら、神様。衣はこれで準備が整いましたよ。次は髪結いをしますから鏡台の前にお願いします」
「しょうがないわねー」
「しょうがないじゃありません。あなたのためなんですから」
鏡台の前に神様を座らせて髪を結いあげていく、この量、長さ、重くないのだろうかというのは常々疑問ではあるが、さすが神様というべきか、傷みや枝毛が一つもない艶やかな髪はまるで宝石みたいだと思う。
単なる小姓である僕が神様に邪な感情を持つことは許されないことだけど、黙って微笑んでいる姿は『ああ、この方はやはり素晴らしい神様なんだなぁ』ということを思ってしまうくらいだ。普段のぐーたらした生活を見ていなければきっと誰もが惚れてしまうことだろう。
「はい、御髪も整いました。では新年に向けて人の世に向かいましょうか」
「おんぶ」
「えっ、駄目ですよ」
「んー、やっぱダメか。歩くの面倒なのよね」
「何言ってるんですか」
「いやー、あんたが来てからほんといろいろやってくれてるからさ、ちょっと甘えてみただけだって、さすがにこれくらいは分別つくから安心していいわよ」
「その割には妙に残念そうな表情をされておりますが」
「しょうがないじゃない、今までここまで尽くしてくれた小姓いなかったんだもん」
「なんですかそれは、やって貰ってたって言っていたじゃないですか、騙したんですか」
「騙してはいないわよ、正確に言わなかっただけだもの、やって貰えない時もあれば、やって貰っていたこともあるだけで」
「今からは時間が無いので新年の神事が終わって戻ってきたらお説教ですね」
「じゃあしばらく戻ってこないで人の世をぶらぶらして……」
「駄目ですっ」
「ちぇーっ」
「ほら、もう日がありません。出かけますよ」
「はいはい、わかったわよ」
「はいは一回で十分です」
「はーい」
古代より神話に語られているはずの神様だが、どうも神話にあるほど威厳のある方ではないように思えてならない。でもかわいいところもあるし、本気を出せばすごい神様なはずなので、縁があって彼女の担当する場所に参拝することがあれば、どうか笑って彼女のために祈りを奉げてみて欲しい。僕もしっかりお手伝いをさせていただくことになるのだろうから。
読了どうもありがとうございました。
山もなければ谷もなく、意味もあまりない話になってしまいましたが、
もしかするとこの二人で日常の生活を書くのもありなのでしょうか……。
唐突に浮かんだ設定ではあるものの、ちょっとした誘惑があったりします。