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第一話「天下無双の侍」

そのうちこの話は修正するかもしれません。

 強い光に包まれたと思えば、朝倉 陣は見知らぬ町中に立っていた。

 似たような経験を先程したばかりだ。とはいっても、その時は見知らぬ部屋の中に立っていたが。


 レンガなどの建材を使った石造りの街に、陣の格好は酷く目立った。

 

 いわゆる中世ヨーロッパの街並みに、突然現れた侍が目立つのも無理はないだろう。



 幸いなのは、ここが人通りのない路地であることだ。

 もし誰かに突然現れる陣の姿を見られたら、騒ぎになっていたのは間違いない。


「さて」


 すっと陣は着物の裾に手を入れた。

 取りだしたのは、長方形の手のひらに収まる大きさの箱のようなものだった。

 機械とは無縁の環境にいた陣だが、これがどういう物かは聞いていた。



 タッチパネルになっている画面を操作し、周囲の地図を画面に表示させた。

 左上には、セイラン王国城下町と記されている。

 やはり知らない国の名前だ。自信ないが、海の向こうにもそんな国はなかったと記憶していた。

 こうして確認してみると、本当にここが異世界なのだと実感した。


 

 陣は、続けて端末を操作すると、ステータスと書かれた項目を選び、表示する。





名前:ジン=アサクラ

種族:ヒューマン

年齢:25歳

称号:お侍さん

レベル:1

経験値0/100

【英雄特性】

無形風刃流





「これは凄いな」


 聞いていた通りの表示に、陣は少し感動していた。

 経験値というものを貯めて、レベルを上げる。すると肉体と精神が成長する。早い話が、より強くなれる。

 レベル1は初期状態、言い方を変えれば最弱の状態だ。

 英雄間での戦力差を始めからあまり作らないために、神がこの概念を取り入れたのだと聞いた。



「さて、これからどうしよう」



 陣は自分が異世界に召喚された目的は分かっていても、それにすぐに手をつけるつもりはない。

 七人の魔王を倒すとかそんな理由だったと記憶している。

 そんな壮大なことに手をつける前に、異世界に慣れることが先決だろう。 と、陣は考えた。


 考えた。考えたのだが、陣は何をしていいか思い付かず左手に付けられた。通称、ミニステをもう一度操作する。


 開いたのはステータスの画面だ。

 レベル1、初期状態から成長するためにはこの世界に存在するモンスターを倒して経験値を貯めるのだと聞いたのを思い出した。


「ふむ」


 と、短く言ってナビの表示を切ると、頭の中の好奇心に従って行動を開始するため、路地裏を出るのだった。



 薄暗い路地裏を出ると、すぐに大きな通りに出た。

 陣は初めて見る街並みに感動と驚きを半々に抱え、立ち止り辺りを見回した。

 昼下がりの街の喧騒は陣のいた世界とはどこか違うもののように感じた。

 街行く人々は服装から顔からどれを取っても陣の世界の人々とは似ても似つかない。


「あのう……」


「ん?」


 辺りを珍しそうに見渡す陣に声を掛けた人物。

 それは、腰の深く曲がった老婆だった。


「どうかしたか?」


 陣が目を合わせ聞き返せば、


「やはり……!」


 と、老婆は驚きを隠す様子もなく目を見開いていた。

 老婆の様子に何かを感じ取った陣は、数歩後ずさる。

 


 ふと、陣が老婆から注意を外し周囲を見回すと、街行く人々が足を止めこちらに注目しているのがわかった。

 陣に聞こえないような小声で、何かを囁き合っているようだ。

 格好のせいだろうか、と考えながら陣は老婆と再び目を合わせた。


 腰の曲がった老婆と、派手な着物に身を包む侍が見つめ合う。

 足を止めた人々がそれを見守っていた。


 その不思議な光景が、何秒続いただろうか。

 老婆は生唾を飲み込むと、


「英雄様じゃ……」


 絞り出した声が、未だ少し騒がしい街中によく通った。



「な」


 まさか異世界に来て、最初の会話でそれを見抜かれるとは。

 何故分かったのか?との陣の思考は、

 

「うおおおおおおお!やっぱりそうなのか!」


「キャロル様が言うのだからそうなんだろうよ!」


「すっげええ!俺直接この目で見たのは初めてだ!」


「俺もだ! 帰ったら嫁さんに自慢するぞ!」


 口々に騒ぎ出した人々の声により中断された。


「な、なんだなんだ急に」


 安直すぎたかと、陣は反省した。

 周囲と老婆からの空気を感じ取り、早々と逃げ出してしまうべきだったか。

 もしかしなくても、自分のことを言われているのだろうとすぐに勘づいた陣は困惑する。


「英雄様が現われたぞーー!」


 と、周囲の者と肩を組み喜び合うものもいれば、


「ありがたやありがたや……!」


 のように陣に向かって膝をつき合唱をする人々まで、状況を理解していない本人を差し置いて街の騒ぎは広がっていった。


「英雄様、お名前をお訊きしても?」


「あ、ああ。朝倉 陣だ」


 老婆に尋ねられ、詰まりながらも名を答えると、老婆は陣に真っ直ぐと手を伸ばす。


「朝倉 陣様。すぐに街の教会へとご案内致しましょう」


 そう言われた陣は抵抗する間もなく、老婆の無言の圧力のようなものに負けて手を取った。

 老婆は陣の手を引き、ゆっくりと歩き出す。


 街の人々も、その様子を見て我先にと道をあけていた。


「なんなんだ一体……」


 突然始まった自分を巻き込んでの大騒動に、思わずそう呟いていた。

 考えられる原因とすれば、今陣がいる場所が異世界であり、陣が千の英雄と呼ばれる存在としてこの異世界に召喚されたからに他ならないだろう。


 老婆に手を引かれる道中、若干の行き先への不安を抱きながらも、陣は思いだす。


 異世界。千の英雄。七人の魔王。神。天使。


 あげればキリがないほどに、今まで全く考えたこともないことが自分の身に降りかかった原因を。


 その原因を探るために、陣は思いだす。

 少し前、少し前の戦場の記憶を。





 

────────────







 戦場の後。

 地面を埋め尽くす骸の中に、一人だけ仲間外れがいた。

 この場所では、生きている人間が異物に見える。


 その男は、虚ろな目を空へと向けていた。

 男の風貌に、天下無双と謳われる朝倉 陣の面影を感じるのは少し難しいことだった。

 総髪に纏めあげている筈の長髪は解けてぼさぼさになってしまっている。

 着流しにしている派手な柄をした小袖は帰り血で柄が塗りつぶされていた。

 背中に背負っている筈の野太刀はとっくに何処かに失くしてしまったし、腰の太刀はもう役に立たないだろう。

 唯一無事なのは、普段から懐の忍ばせている短刀だけだった。


 空はどんよりと、曇っていた。

 まるで自分の心を水面のように映しているようだ。


「拙者は、なんだ……?」


 空に、問いかけた。


 天下無双を追い求め、数々の果たし合いや戦場を駆け、終いには絵空事のようなことを成し遂げた自分は、なんなのか。

 五百人をたった一人で、地に伏せる骸に変えてみせた自分はなんという存在になったのだろう。


 目線を空から、地へ向ける。

 陣が見渡せる限りの地面は全て骸で埋め尽くされていた。

 その数五百。

 陣は自分を中心に広がる五百の骸を何も言わず見回すと、空に視線を戻した。


 見ると、空が陣の問いかけに答えるように泣きだした。


 戦が終わると戦場に雨が降る。

 陣の師匠が戦の前になるとよく言っていた。

 しとしとと降りだした雨が強くなる前に帰ろう。陣はそう考えていたのだが、その体力も残っていそうになかった。



「朝倉殿!」


 急に頭上から声を掛けられ、我に帰る。

 気付けなかったのは雨のせいなのか、陣が呆けていたせいなのか。

 気配の方向を向くと、馬に乗る顔見知りの具足姿があった。

 

「まさかご無事であるとは!」


 この男の名前はなんと言ったか。思いだせない。

 

「しかし、五百人をたった一人で斬ってしまうとはな……」


 馬上から男が陣に向ける視線には、畏怖の念が含まれていたのだが陣は気付かなかった。


「……一つ、問いたい」


 空耳かと間違える程、陣の声は今にも雨に掻き消されてしまいそうなか細い声だった。

 男が返事を返したのが聴こえたのか聴こえていないのか、陣は空を見つめたまま続けた。


「貴方の目に、拙者は何者に映るか?」


 か細い声である筈なのに、唐突に陣の声はその場に通った。

 男が、陣の問いに答えをすぐに出せずにいると、陣はさらに続けた。


「五百人を一度に斬ってみせた拙者は、どのように映るのか? 人であるように見えるか、悪鬼羅刹の如く見えるのか、それとも……」





「天下無双として見えるのか」


 そして、天下無双の侍朝倉 陣はその場から、幻のように消えてしまった。









────────────



「いらっしゃいませ朝倉 陣さん!チュートリアルルームへようこそ!」


「……は?」


 白い部屋にいた。

 目の前には、天使がいた。


「どういうことだ?」


 頭上に浮かぶ光る輪、金糸のような艶やかな髪に、白いワンピースのような衣服に身を包んでいた。

 陣は天使というものを知らなかったので、その女性を見て天使であるとは思わなかったが、背中に生えた翼を見て人間と認識することはやめていた。


「貴方は集合世界に選ばれたのです!」


 屈託のない笑顔を浮かべ、真っ直ぐ陣を見据えていた。

 陣の口にした疑問に答えたつもりなのだろうが、陣の頭の中に更なる疑問を生み出しただけだった。


「集合世界?ここはどこだ?何者だ?」


「神が作りだした英雄の世界です。ここはチュートリアルルームで、私は下級天使のアルミーと申します」


 申し遅れました。と語尾に付けくわえたアルミーは、陣の質問に間をあけずに答えた。

 というもの、質問をした陣が理解していないのだから意味がない。


「…………」


 ふと、自分の姿を見た陣は言葉に詰まった。

 解けてしまった総髪は再び纏め上げられ、着流しにしている和服の返り血の跡もない。

 腰に差している太刀は抜かなくても、柄に手を掛けるだけでその刀身が万全の状態に戻っていることが分かる。


「転送した際に、朝倉さんの装備とお体は修復させていただきました」


 その声に、陣は数秒遅れて反応した。

 致命傷であった腹の傷も、肩の矢傷も傷という傷は全てない。

 治療された、というよりかは修復されたと言った方が正しそうだ。


「これは何だ?」


 夢か、幻か。


「現実です!」


 ここで、陣がやっと何かに気付けた。といった様子で、瞬きを数回。


「なるほど、拙者は死んだのか」


 静かに目を瞑った。

 ここはつまり冥土というような場所なのだろう。

 これから地獄に落とされるのかもしれない。

 だとしたらこの女性は神の遣いなのかもしれない、と陣は思った。


「ご安心を」


 と、思考を巡らせる陣にアルミーは短くそう声を掛けた。


「朝倉さんが亡くなる前に、チュートリアルルームに転送し、修復を行いましたので」


 ニコニコとした笑みを崩さずに平然と言ってのけるアルミーに、陣の思考が中断された。


「死んでないのか?」


「勿論でございます」


「では、何故」


「朝倉さんは、神に選ばれし千の英雄のうちの一人となったのです!」


 と、アルミーは両手を大げさに広げた。

 陣は、あれこれと考えようとするのやめてみることにした。


「千の英雄?」


「神が作られし数多の世界のうちから選ばれ、集合世界へと送られる者達のことをさしますね」


「集合世界?」


「神がつい二万年前にお作りになったばかりの世界の名称です。朝倉さんを含めた千の英雄にはこれから集合世界へと行っていただきます」


「なんのために?」


「見事七人の魔王を討ち果たし、集合世界の危機を救っていただきたいのです!」


 と、気になった単語を全て訊いてみたのだが陣には到底理解しがたい話であった。

 一体どこから理解を進めていけばいいのだろうか。


「らちがあかないな」


 陣は言って、重いため息を吐いた。

 アルミーはその様子を見ても、笑みを崩すどころか動じてすらいないようだった。

 むしろ、その笑みをさらに深くすると、言った。


「そう思って、今から朝倉さんに加護を授けようと思います!」


「加護?」


「まあまあ。習うより慣れろともいいますし……」


 するとアルミーは、手の平を陣の方へと突きだした。


「なにを……っっ!」


 何をしようとしているのか。尋ねる前に耐えがたい頭痛が陣を襲った。

 一瞬の頭痛。

 頭痛が治まると、陣の頭の中に様々な知識が溢れかえった。

 それは、集合世界に関する知識。

 先程まで聞いたこともなかった話を、まるで昔から知っていたかのように理解している。


「これは……?」


「それぞれの世界の文化、文明、時代に合わせて説明していては時間がかかってしまうのでと、今のように加護として集合世界に関する基本的な知識を与えることが神より許されています」


 確かに手っとり早い方法ではあるだろうが、もう少し心の準備をさせて欲しいものだ、と陣はアルミーに少々の不満を抱かずにはいられなかった。


 とはいえ、やっと陣は自分がここにいる理由を理解した。


 世界を作った神という存在が、新たに集合世界という世界を作った。

 その集合世界の危機を救うために、陣は自分のいる世界から英雄として選ばれた。

 そしてその英雄は、陣を含め総勢千人。千人の英雄で力を合わせ、七人の魔王を倒して世界を救って欲しい。


 簡単に纏めるとこのような内容。

 先程、アルミーに陣が訊いた内容でしかないのだが、加護として知識を得なければ理解はしてもほら話だと信じて疑わなかったことだろう。


「では頭もすっきりしたようですし、次に進みましょう」


 再度、陣に手のひらが向けられた。


「おい待……ぐっ!」


 一瞬の頭痛を感じたと思えば、頭の中に知識が溢れかえった。

 見たことも聞いたこともない形状の道具についての知識だった。


「ミニステ……?」


 ミニステーションの略だということは分かるのだが、どちらも陣には聞いたことのない単語だった。


「その通り、次は集合世界を生きていくうえでの必需品、ミニステについてです」


 アルミーはどこから取りだしたのか、長方形な箱のようなものを取りだした。

 素直にそれを受け取った陣はこれがどういう物であるかは加護によって使い方も把握している、だが酷く自分には馴染みのないものであると感じずにはいられなかった。


 例えば写真という機能。

 その機能一つ取っても陣には未知の機能に思えた。

 なのにその機能はミニステというこの箱のおまけのような機能でしかないのだから仕方がない。


 それは集合世界についても多々思うことだが。


「……ん? ちょっと待て」


 陣はあることに気付いた。


「集合世界に行くというのは、決まっていることなのか?」


「へ? ええ、勿論ですよ」


 アルミーは陣の質問の意図が読めなかった様子ではあったが、首を振り肯定した。


「済まない拙者の訊き方が悪かった。 つまり、拒否権はないのだろうか」


 もっと早く訊くべきことであったと、陣は反省する。

 お伽噺のようなことに巻き込まれ、頭が混乱していたからであろうか。

 そもそも拒否権があるのならば、行く必要もないのだ。

 行きたい理由も特にない。その逆も然りだが。


「拙者には自分の世界でやらねばならぬこともある。悪いが、集合世界とやらに言っている場合ではないのだ」


「やることとは?」


「天下無双になる。それだけだが」


 天下無双。

 ただその称号だけを欲していた。

 ただそのために数えきれないほどの果たし合いも、戦場も経験した。

 数えきれない数の人を斬った。天下無双となるために。誰よりも強くなるために。


「ならば、心おきなく集合世界に行っていただけますね」


 と言う、アルミーの言葉の意味が陣には分からなかった。


「どういう意味だ?」


「朝倉様は、英雄なのですから」


 陣は何を言っているのか。と思わず頭を抱えた。


「悪いが、拙者にその様な心当たりはない。そう呼ばれたことも、自分で思ったこともだ。何故、拙者をそのように呼ぶ?」


 その通り、陣には英雄と呼ばれる心当たりなどなかった。

 そもそもが拒否権以前の話だったのだ。

 自分が英雄として、神に選ばれた理由すらも分かっていないのだから。



 白い部屋。金髪の天使。

 最早見慣れた笑顔を顔に貼りつかせたままの金髪の天使は、言った。


「朝倉様。私は最初この部屋で貴方を迎えた時に、こう呼ぶべきでした」




「天下無双の侍と」

 


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