20歳 学生 男
最初は興味本位だった。
遊ぶ相手に困っているわけじゃない。適当に合コンに参加して、意気投合した子をお持ち帰りするなんてザラだったし。改めて考えると、オレって乱れてるなー。
最近、いい財布を見つけて羽振りがよくなった。向こうが勝手に貢いでくる物を質屋に持っていけば、そこそこの金が手に入る。
いや自分でも思う。人間、不相応に懐が暖まるとろくなことを考えない。
『ホ別2でサポお願いします』
「意味分かんねー」
軽い気持ちで覗いた掲示板を前に、首を傾げて呟いた。元々掲示板用語には詳しくない。苺、プチ1、なんだそれ。コトが終わった後のデザートの相談とか?
こちらも初めてなので少々の不安はある。なにせ金目当てに不特定の男とヤる女たちだ。病気を持っていないかどうかとか、ベッドに乗った途端強面の野郎どもが乱入してきて強請られないかとか。
まあ、気の向くまま不特定多数の相手とコトに及んでいるオレが言えた義理ではないのだが。
オレ何してるんだろう、超ウケるー。
内心で自分の行動を茶化しつつ、勘で選んだ女にコンタクトを取った。目指すは女子高生。
「ホ別2はホテル代別で二万円、サポはサポートのこと」
「へー」
そういう意味だったのか。感心するオレを見て、女子高生はおかしそうに笑った。
「おにーさん、こういうの初めて? ていうか、お金出すほど飢えてるように見えないんだけど、どうしたの、まだ若いのに」
「社会勉強? 世の中、実地で体験しないと理解を得られない物事に満ち溢れているのだよ、お嬢ちゃん」
「あはは、変なのウケるー。おにーさんいくつ?」
「ハタチ。そっちは?」
「二つ下。受験生」
「こらこら、受験生がこんないかがわしい遊びしてちゃいかんなー」
「受験生は適度にストレス解消しなきゃいけないんですー。そう言うおにーさんは大学生なんだよね。いーなー、私も早くキャンパスライフ送りたい」
そんな感じで始まった女子高生との関係だった。バカっぽい口調で話す女だったが会話に対して案外気の利いた返事をしてくれて、今現在付き合っている財布と喋るよりよほど楽しいと思えた。
気がついたら来週も会う約束をしていた。
女子高生としてもオレとの関係を長期に持ち込む予定はなかったようだが、特定の相手に援助してもらう方が安心感があると了解してくれた。身体の相性が悪くなかったことも判断材料になったんだろう。
「おにーさん、毎週諭吉二枚なんて太っ腹じゃん。そこそこのグレードのホテルだって使ってくれるし。いいとこ坊ちゃん?」
「オレの懐具合心配してくれんの? ――じゃあ、援助しない関係になるとか」
「援助しない関係?」
「捨てアドじゃなくて本アド教えてくれるとか、ホントの名前で呼び合うとか」
ことさら冗談めかして口に出した。
途端に女子高生の目が冷ややかさを帯び、オレは慌てて前言を撤回した。
「うっそ。本気にすんなって。じょーだんじょーだん」
「だよねー。ちょっとビックリしちゃった。あははー」
本気だった。実は結構緊張して言った。
会う前は金と寝る頭空っぽの女だろうと見下していたのに、どんどんのめり込んでいった。
自分の情報を極力教えようとしない用心深さ。彼女は結構思慮深いのかもしれない。口を割ろうとしないが会話の端々から推測するに、狙っている大学は偏差値が高そうだ。そんな子が、どうしてこんな世間体の悪い行為をしているのか。
ああ、閃いてしまった。
よく言うじゃないか、愛に飢えているって。表向き優等生の子ほど、心に闇を抱えているのがセオリーだ。
彼女を救えるのは、オレしかいないんじゃないのか。
ホテル以外では食事にさえ付き合ってくれない。お互い知っているのは身体だけの、金が繋いでいる関係。そこからなんとか抜け出したい。二つも下の女子高生に、オレはいいように翻弄されている。
本心ではこの子も、オレの胸に飛び込んで自分をさらけ出したいんじゃないのか。
どうしたら懐かない猫みたいな彼女を腕の中に居着かせることが出来るんだろう、素直になってくれるのだろう。
何で愛情を計っている? 餌をグレードアップしたらいいのか? 毎週諭吉が何枚あればいいんだ?
「そうか」
財布を増やせばいいんだ。
「なになにー、機嫌いいじゃん」
ナイスアイディアに口元を緩ませていると、女子高生が頬をつついてきた。なんて甘やかな刺激だろうか。
楽しい未来を思い描き、オレはさらに笑みを深めていた。