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連鎖  作者: せおりめ
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20歳 派遣 女

「ちょっと、これはなんなの! またこんなに買って。ちょっとは控えなさいって言ったでしょ」

「あたし宛にきたカード明細勝手に見ないでよ! 関係ないじゃん」

「関係ないわけないでしょう、二十歳過ぎて働いてるくせに、まだお小遣いもらってて。……まさかあなた、借金してるんじゃ」

「もううるさいなあ、キャッシングなんて今どき普通だし」

「普通ってあなた――ちょっと、どこ行くの!」


 ああもううるさい。母親の金切り声にうんざりし、家を飛び出した。

 どうして放っといてくれないんだろう。ちゃんと汗水たらして働いて、自分のお金で買い物を楽しんでいるだけなのに。そりゃ、ちょっとはお小遣いにも頼っているけれど。でもそれは微々たるものだ。

 大体、これでも少しは控えている。以前より自分の分はずっと減った。


 買い物は大好きだ。綺麗にディスプレイされた服や小物類。自分で身につけた姿を想像し、実際に試着すると、どうしても欲しくなる。買おうと決めて、包装された商品を受け取った瞬間心がすっとする。


 美しく装っているおかげで素敵な彼氏もできた。ショップでメンズものを見かけると、つい買ってしまう。彼の喜ぶ顔を想像して。もっと愛してもらえることを期待して。

 でも、そうなるとますます出費が増えて、カード明細を見るのが怖くなる。キャッシングの融資額も限度一杯になってしまった。


 欲しいけどさすがに支払いのことを考えると買えなくて、憂鬱な気分を抱えて店を出たある日、妙な男が話しかけてきた。彼氏には遠く及ばないものの、見かけはまあ悪くない。

 どうやらあたしに気があるらしい。ナンパには慣れているが、ちょっと真面目そうな雰囲気の男なので意外に思った。こんな風に声をかけてくるタイプには思えなかったから。

 案の定彼女がいるらしい。彼氏を裏切る気はさらさらないけれど、人の物だと分かるとこのまますげなく追い返すのも惜しくなった。結婚を考えていた相手よりもあたしに惹かれると言われたら、そりゃあ気分がいい。


 もったいぶって焦らしたあとに、一、二度デートに付き合ってあしらおうと思った。

 ところが、次に現れたとき、男はプレゼントを持ってきた。あたしは喜んだ。欲しかったけれど諦めたバッグだったからだ。


「こんな高価な物、受け取れないよ」

「遠慮しないで、ぜひもらってやって。あ、もしかしてもう持ってた?」

「え、ううん。ちょうど買おうかどうしようか迷ってたから」

「じゃあよかった」

「でもあたしたち、付き合っているわけでもないのに。それに、彼女さんが知ったら……」

「彼女のことは心配しないで、優しいね。君はこの程度の品物いくつも持っているだろうけど、今度会った時にこれを身につけていてくれたら嬉しいな」


 どうやらこの男は自分が振られるとは微塵も思っていないらしい。恋人の存在をどう考えているのだろう、と少しでなく呆れた。

 とはいえ向こうがそういう態度であるのなら、こちらの罪悪感も薄れようというものだ。何しろあたしは、浮気相手にされているのだから。おままごとに付き合う報酬として、もらっておいても罰は当たらないだろう。

 恐縮しきりの体を装い、謙虚に受け取った。この男の目に映るあたしがどれほど純粋無垢であるのか、手に取るように伝わってくる。そんな都合の良い女、世の中にいるの?


 男にはさり気なく自分の好きなブランド名を吹き込んでいった。会うたびにプレゼントを持ってくる。おかげであたしのお金は、大好きな彼氏に費やせる。

 キャッシング会社は返済をするたびに、融資を薦めてきた。もちろんあたしはありがたく借りた。ああ、もっとお金があればいいのに。そうすれば、もっと彼氏に愛されるのに。


 何度目かのデートのあと、彼女と別れることにしたと聞かされた。

 じゃあ、心置きなくあたしに貯金を使ってもらえることだろう。相手の女には申し訳ないことをしたが、見る目のない男と一緒になっても不幸になるだけだと思う。むしろ、先の見えた未来を回避できてよかったのではないか。


 その時がきたら、上手にさよならするにはどうしたらいいかしら?

 今後のことを考えながら、馬鹿な男との待ち合わせ場所に向かった。

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