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連鎖  作者: せおりめ
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24歳 接客業 女

 お姉ちゃんは、わたしがお姉ちゃんを嫌っていると思っているんだろうなぁ。

 でもそうじゃない。お姉ちゃんのことは嫌いじゃない。むしろ大好き。

 大好きだからお姉ちゃんを手本にしたい。同じ物が欲しい。


 校区が違うから、小学校と中学は寂しかった。勉強を教えてもらう口実をつけて、家に遊びに行ったりして。成績の目標はもちろん先生役の人で。ちょっとでも越せたら達成。

 たまに彼氏が遊びにきている時があって、当然わたしも速攻で好きになった。お姉ちゃんが好きな人を好きにならない理由はない。お姉ちゃんに新しい彼氏が出来ると、わたしもそちらの人がよくなった。

 でも、しばらく経つとお姉ちゃんはわたしに会ってくれないようになってしまった。親戚の集まりや法事で一緒になっても、わたしが傍に寄ると離れていく。悲しかった。


 高校はたった一年間だけでも同じ所に通えて嬉しかった。休み時間にお姉ちゃんを見つけて喜んで近寄っていくと、嫌な顔をされる。あっちへ行けと追い払われる。落ち込んでいたら、お姉ちゃんの隣にいた男子が可哀想だとかばってくれた。優しい。好きになった。後で聞いたらお姉ちゃんの彼氏だった。ああ、だからこんなにもすぐ好きになったんだ。

 あんな冷たい奴だと思わなかったと言うから、そんなことないお姉ちゃんは優しいと訴えた。君の方が優しくてかわいいよと頭を撫でられ、その人はわたしの彼氏になった。


 お姉ちゃんが入った大学は県外の、ランクの高いところで、少し不安になった。かなり勉強を頑張らないと追いかけられない。

 さすがにこの頃になると、わたしの方も自覚していた。わたしは、お姉ちゃんの人生に立ちはだかる障壁になっている。お姉ちゃんは多分、わたしの手が届かない場所に行きたいんだ。

 でもお姉ちゃん、わたしはずっとお姉ちゃんを目標に生きてきたんだもの。急にいなくなられたら、何を選んだらいいか分からなくなる。成績がほとんど同レベルのお姉ちゃんが入学できて、わたしができないはずはない。

 大学の校内ですれ違ったお姉ちゃんの顔は忘れられない。豆鉄砲を食らった鳩の、絶望感。ごめん、ちょっと笑ってしまった。


 とはいえこれ以上お姉ちゃんに嫌われるのはいやだから、もう近寄るのは止めにした。遠くから憧れの目を向けるだけ。けれどお姉ちゃんの様子が知りたくて、時々彼氏さんに接触して話を聴いたりしていた。それぐらいは許されてもいいよね。

 そんなわたしを健気だと、お姉ちゃんの彼氏は抱きしめてくれた。わたしも抱きしめ返した。


 お姉ちゃんは就職して故郷へ戻った。当然わたしも戻るつもりだったのだけれど、なんだろう。心境の変化というんだろうか。大学には色々な人がいて、種々雑多な知識が溢れている。様々な価値観に触れ合っていくうちに、わたしにも自分なりの判断力が備わっていった。

 卵の殻をくっつけたひなでもあるまいし、いつまでも親鳥よろしくお姉ちゃんの後を追いかけ回したりしていいんだろうか?


 よくよく考えて、故郷には戻ることにした。でも同じ会社は止めておいた。これでお姉ちゃん、少しはわたしのことを見直してくれるかな。

 仕事は面白くて、夢中になった。やたらと会いに行かなくなったら、お姉ちゃんはちょっとだけわたしを受け入れてくれるようになった。おばさんに用事で電話した時に、取り次いだついでに最近の様子を訊いてくれたりだとか、そんな程度だけれど。無視されるよりはずっといい。


 そんなある日、友達の家へ向かっている途中に偶然見かけた。マンションに、男の人と入っていくお姉ちゃん。男の人は、かっこよくて、背も高くて……


 これで最後にしよう。金輪際邪魔しないようにしよう。

 そう決意して笑いかけたんだけど、お姉ちゃんには伝わっただろうか。


「お姉ちゃんに、悪いことしちゃったな」


 俯いてそう言うと、服を着ていた彼がはあ? と声を上げた。


「悪いと思ってるやつが誘ってくるかよ。何それおまえ、なんかのポーズ?」

「ひどい……別に誘ってなんか」

「電車の中で声かけてきて、その気ありまくりの目であいつの話が聴きたいとか言って見つめてきて、夜にのこのこ男の部屋訪ねてくるののどこが誘ってないだ」

「だって、部屋の方がゆっくり話せるって言うから」

「あー、別に言い訳なんざどうでもいいから。あいつとはもう別れたかったから丁度よかったし。俺、やっぱ年上より年下の方がいいわ」


 わたしは彼より一つ年下だ。だから嬉しくなって見上げたんだけれど。


「あ、勘違いすんな? お前ただ味見しただけだから。据え膳食わねばってやつ。これからお互い仕事あるんだから、さっさと帰れよ。わたしも振られたって言えば、お前が大好きなあいつも許してくれるかもよ?」


 さあ帰った帰ったと追い立てられ、気がついたら呆然と部屋の扉を見上げていた。

 お姉ちゃん、わたし、どうしよう?

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