のほほんでいず
窓を開けると風薫る。天気は晴れやかで良好。気分も絶好調。頭もスッキリで今日もいい日になりそう。
「うーんっ♪ふふ」
伸びをすると運気上昇の予感がする。
「あ。おーい!」
隣の家に住む男の子、加賀剣君。わたしは剣って呼んでるの。
あ、気付いた。振り向いたよ!
あ、手を振ってる。わたしも振ろう。
「やっほー!えへへ」
これがわたしの朝の楽しみなの。
けん、今日もかっこいいな。むふふ。
* * * * *
なんか口元弛んでるな、あいつ。
ま、いっか。手を振るだけで喜ぶ奴なんだ。
御園花。隣に住む幼なじみ。それだけだ。……それだけ。
大事なことだから二回言った。
親が友達同士でそれだけの付き合いだ。
別になんとも思ってない。笑顔がかわいいとか、仕草がかわいいとか、格好がかわいいとか、全部かわいいとか、かわいいとかかわいいとか別に、全然思ってない。思って……ないよ?
朝に顔合わせしたくて窓側待機してるとか笑顔が見たくて手を振って合図してみるとか笑顔がかわいくてそっぽ向いてしまうとかそんなことは全然まったくない。ないったら、ない。
「……む」
くそっ。部屋から出やがった。着替えとか今しないのか。……て、べっ、別に覗きじゃねぇ!たまたま、そう!たまたま視界に入っただけなんだ。別に覗きじゃないんだ。うん。
「て、なに俺変なこと思ってんだ!ぬおぉおおおぉっ」
「おにいちゃんうるさい!ふんっ」
「……ぐふ」
部屋に入ってきた妹のぬいぐるみアタックで俺は床に倒れた。
* * * * *
髪をまとめ口にくわえていたゴムで結わえる。
着替えはもう済ませてあるし、
「よしっ」
顔を張って完了っと。あとは跳ねてる髪の毛を整えてっと。
「いってきまーす!」
家を飛び出し隣の家に声をかける。
「けーん!おーい!」
「……聞こえてるっての。大声出すな」
「ごめんごめん」
玄関から出て来たけんは無愛想な顔してだるそうな声を出す。
わたしは謝りながらも笑顔を絶やさない。
だってその方が楽しく感じるから。
「じゃ、行こっか」
「……あぁ」
相変わらず無愛想だけど、そこがクールでいい!きゃは♪
「……はしゃぐな。うざい」
「にゅっ。けん、ごめんなさい……へへ」
頬に手を合わせていたら怒られた。シュン。
でも大丈夫。わたしはそんなけんも大好きだから!てへ♪
* * * * *
…………失敗した。失敗だよ失敗。
変わらずに花は笑ってるが、内心はどうだか分からない。嫌われてるかも知れない。
いつもそうだ。普通にしようとして無愛想になってしまって冷たい言葉を言ってしまう。だー!!なんでやねん!俺なんで素っ気ないねん!
恥ずかしくて好きな女の子にちょっかい出しちゃう小学生かよ!俺!!
心のなかで激しく後悔だよ。
「……今日、いい天気だな」
「うんっ。清々しいよね!」
かわいい!首を傾げて下から覗くようにしてくるの……すごくかわいい!!
だけどそっぽ向いてまともな返しができない俺、すごくかっこわるい!すげぇ恥ずかしいっ。
なんで俺冷静風に装うことしかできないないんだ!花は明るいし笑顔を絶やさない。それはたぶん、自惚れてなければ俺の為だ。だけど、俺は何もしてあげられない。
……こうなったら。
「……ほえ?」
「頭、なでやすいな、おまえ」
「……えへぇ。そうかな?そうかな?」
やった!なでた!なでたぞ!!
花の頭、なでたぞぉ!!!
これで一歩前進かっ?!いやっほー!
このままこんな時間が続けばいいのに。
* * * * *
なでられてる。けんに頭なでられてる。
嬉しい……嬉しいよぉ~えへへ♪
髪がボサボサになるけど、なでられてる勲章と言うことで、問題なっしんぐなのだ!
いつも妹ちゃんに頭撫でてるとこ見てて羨ましいって思ってたんだよねぇ~。にゅふ♪
嬉しいなぁ~、嬉しいなぁ~。
なでられてるのもそうだけど、なでやすいだって!それは嬉し過ぎるよ~っ。
「ふふ」
「……ったく。何喜んでんだ。意味わかんね」
「だってけんがなでてくれたから嬉しくて。ね♪」
「……ふんっ。学校遅れるぞ」
「わ。ちょっと待ってよ~っ」
なんだかけんの頬が赤いのは気のせいかな?先に行ってしまって、すぐに顔が見えなくなってしまったからわからないけど。
でも、なんだか今日は気分が乗ってると思うな。
楽しい時間がこれからも続けばいいな。