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記念日シリーズ

ハロウィン

作者: 尚文産商堂

10月31日、高校2年の井野嶽幌(いのだけほろ)は、部活にいた。

一人で部活にいそしんでいた時、誰かが入ってきた。

同級生の陽遇琴子(ようぐうことこ)だ。

「あれ、幌だけかいな」

「まあね。部長もいないし、中間テストも終わったし」

「先週の水、木、金やったな。部長は今日で引退やろ」

「なんだけどね……」

幌は琴子に答えながらも、ひたすらにカボチャを裏ごしし続けていた。

「それで、なにしとるんや」

琴子が鞄を適当な机の上において、幌のすぐそばまできた。

「ああ、ハロウィンだからさ、パンプキンパイでも作ろうかなって」

すでにトレーの上には、手のひらサイズのパイ生地が10個ほど整列していた。

「パイ型見つけたついでにね」

「そんなんがあったんやな」

「自分も、何作ろうか考えている間に見つけたから、ちょうどよかったんだ。カボチャは学食で使わなかった、廃棄間近のものをもらってきてるし、小麦粉とかはここに置いてあったしね」

「ほな、わても食べてええんか」

「あたりまえじゃないか。まあ……に食べてもらうのが目的だしな…」

幌がもごもごと言いながら、裏ごしを続ける。

琴子は、あえて何も聞かなかった。


「よしっと。これぐらいかな」

ふうと短く息を吐き、幌が網をボウルの上からのける。

滑らかになったカボチャに、生クリームやバターなどを入れて、さらに混ぜ合わせる。

「そういや、なんでカボチャなんやろ」

琴子がぼんやりと聞いた。

「もともとは、古代ケルトの冬の祭日だったんだ。11月1日に新年が始まる暦を使っていた古代ケルトでは、この時期にはあの世とこの世の扉が開いて、悪霊たちがこの世界にやってくるとしていたんだ。そのために、悪霊を寄せ付けないように、聖なるかがり火を焚き、それらの火を各家庭でともした。これが、ランタンとなったんだ。カボチャについては、もともとはカブだったんだ。悪行三昧で天国にも地獄にも行けなかったウィルが、悪魔から道を照らすようにとして渡された石炭を、落ちていたしなびたカブに入れたってのが始まりで、アメリカへその伝統が渡った際に、より大量生産に向いていて安価だったカボチャに置き換わったんだ」

「ほーやったんやな」

琴子が言葉を返す。

「まあね」

混ぜ終わると、それをパイ生地へと流し込む。

「これであとは焼くだけだな」

あらかじめ温めておいたオーブンへセットして、45分に時間をセットする。

「あとは、このあたりの片づけしておくのと、部長が来るのを待つだけだな…」

だが、来たのは後輩2人、沢入員子(さわいるかずこ)岩嶋阿古(いわしまあこ)だった。

「こんにちは…あれ、いい匂い」

すんすんと香りをかいでいる沢入が、入るなり言った。

「ちょうど今、パイを焼いていたんだ。あと40分ぐらいでできるから、それまで、片づけ手伝ってくれないか」

「わかりました」

琴子のカバンの横に2人はカバンを置いて、片づけを手伝った。


「ところで、部長、来てないですね」

片付けも一通り終わり、パイが焼き上がるまで残り20分となったころ、岩嶋がみんなに言った。

「まあ、いずれくるだろうさ。まだパイも焼き上がってないしな」

だが、先に来たのは関係のない人たちばかりだった。

「あれー?いい香りー?」

何も言わずに扉を開けてくるのは、天文部の一向だった。

幌の双子の姉の桜が中に入ってくる。

後ろには、同じ天文部の澤井陽菜さわいひな島永宗谷(しまながそうや)が一緒にいた。

「パイ焼いてるんだ。一応な」

幌が桜へ言った。

「パイって、おいしいよね~。食べたいなー」

「…これで何人だ?」

幌が指折り人数を確認する。

「部長入れて8人。あと2人まではいけるな」

確認を終えた幌が、オーブンの様子を見に行く。

後、18分。


部長が来ないまま、代わりに来たのが先生だ。

「お、いい香りがするな」

「先生、何しに来たんですか」

すぐに幌が先生に言った。

「おいおい、ひどいじゃないか。今日は幌が作るっていうからこうやって見に来たってのに」

「…部長の分を入れても2つほど残る予定ですから、おひとついかがですか」

「じゃあ、もらおうか」

オーブン焼き上がりまで、あと14分。


「すまない、遅れたようだな」

焼き上がる3分前、やっと部長の原洲甲中(はらすこううち)がやってきた。

「部長、遅いですよ」

「いや、すまないすまない。進路について、担任に報告することがあってな」

「報告って、どうしたんですか」

幌が、カバンを隅に置いている原洲に聞いた。

「推薦、無事に通ったんだよ」

「ほんとうですか、おめでとうございますっ」

すぐに原洲の後輩が、声をかける。

「ありがとうな。それはそうと、なんだか、いい匂いがするな」

「今日は、ハロウィンということで、パンプキンパイを焼いていたんです。もうすぐ焼き上がりますから、いかがですか」

「もちろんもらうさ……もしかして、ここに集まっているのって…」

「…そのまさかですよ」

アハハと空笑いをして、幌が原洲に言った。


チーンと鈴の音が聞こえると、いそいそと幌がオーブンへ向かった。

「ほら、焼き立てですよ。一つずつ取ってください」

幌が全員にプレートを回しながら一つずつ取らせていった。

「部長も」

最後に、幌が原洲へと回すと、ありがとうと礼を言ってから原洲は受け取った。

「あれ、1個残っちゃったか…」

幌がプレートの上に置かれている一つのパイを、ジッと見て、それから原洲を見た。

「部長、どうです。もう1つ」

「いいのか?」

「ええ、もちろんですよ」

そういって、最後のパイを原洲に幌が渡した。

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