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第7話 宿屋~白狼王~




 出場資格があるのはBランクから。

 あの受付さんの衝撃の発言から一時間後。俺たちは『森の安息』に帰っていた。



「ホントね、もうやってられんのですよ。分かります? エルフさん」

「いや、突然帰って来たと思ったら急にやけ酒し始めてそんなこと言われても分かる訳ないでしょう?」

「本当にやってられませんよ!! なんですか参加資格がBランクって! Eランク虐めですよ!! ヒック!」

「アイリスさんだったかしら? とりあえず、もうお酒飲むのは止めておきなさい」

「これが飲まずにいられますか!!」



 『森の安息』に帰った俺たちは部屋に荷物を置いてポチの様子を見て(さっきまで忘れてた)とりあえず大丈夫だと判断し、部屋を出てエルフさんに一言。



「酒をくれ!」



 お金はぶっちゃけ持っていないが、此処の料金支払いシステムは最後の日に一括払いらしい。それが嫌な人はちょくちょく払いでも良いとのことだが。なので俺たちはお金の事を気にせずに酒を注文した訳だ。

 で、先ほどの会話に戻る。



「ねえ、エルフさんはどう思う? 意気込んで例のトーナメントに参加しようとギルドで登録したら『参加資格があるのはBランクだけ』だぞ? ふざけてるだろうが! やけ酒もするわ!」

「そうですよ! さあこれから頑張ろうって時に何水差してやがるんですかあの受付嬢!」

「(いや、そんなの知らないわよ……)まあ、仕方がないとしか言いようがないわね。こればっかりは」

「「ハァ~……」」

「(……なんか可哀想になってきたわ。この二人、よく見ればかなり幼い顔立ちをしているけど……、お酒飲んで大丈夫なのかしら?)」



 あ~、どうしよう。一番の最短ルートが閉ざされた時の絶望感が半端ない。本当にどうしたものか。単独で魔王を倒しに行く? 確かに国に恩は売れるだろうが、少々小さい。やはり勇者と倒してこそだろう。勇者パーティーのアドバンテージを舐めてはいけない。

 ならば、トーナメントに乱入するか? いや、それも不味い。下手すれば牢屋にぶち込まれる。八方塞じゃないか。いっそのこと強引にこの世界を支配するシフトに変更するか? 国を二つ三つ落とせば頷くだろうか?



「まあ、どうしようも無いって訳ではないとのだけれど……」

「ホントか!?」



 酔っ払いながらも、考え事をしている時は冷静にだ。当然、エルフさんがボソッと呟いた言葉も聞こえてくる。



「教えてくれ! いや、教えて下さい! どうすればいいんですか!」

「落ち着きなさい。近いから」

「あ、すまん」



 少々取り乱したな。



「で、どうすればいいんだ?」

「それは今から言うけど、その女の子は良いの? 寝てるけど」



 横を向くと、アイリスはスヤスヤと幸せそうに寝ていやがった。くそ、後で覚えてろよ。



「放っておいていいですよ。教えて下さい」

「はいはい。貴方は、トーナメントに出たいのよね?」

「ああ」

「で、今はEランクで出場する為にはBランクになる必要があると」

「その通りだ」

「なら簡単な話よ。23回、Bランククエストをクリアしなさい」



 ……23回、Bランククエストをクリアする?



「それ、可能なのか?」

「確か、トーナメントの最終締め切りは一週間後だったわよね?」

「まあ、そうだな」

「あなた達、相当な実力者でしょう?」



 ……何処でばれた。ああ、あの初めて会った時点でか。確かにばれるか。



「まあ、ギリギリってところね。Bランククエストって、一体で国を半壊に出来るほどのモンスターの討伐だし」



 ……いや、ちょっと待て。何? 国を半壊にする? おかしいだろそれ。



「尤も、Bランクのモンスターなど国によって精々5~6匹。国を転々する事になるわね」

「……そうか。それしか、ないのか?」

「ないわ」



 ……なら、やるしかないか。






 アイリスを叩き起こし、自分の部屋に戻った。



「方針は決まりましたか?」

「ああ、決まった。1週間以内に、Bランクになるぞ」



 その言葉を言った瞬間、アイリスは呆けた。



「……本気で言ってます?」

「ああ、本気だ。エルフさん曰く、23回クリアすればいいのだそうだ。だが、実質一つの国にBランククエストなど5~6個しかないそうだ。だから、国を転々として、Bランククエストをやるんだ」



 それしか道が無いのなら、そうするしかないだろう。



「……やるしかないんですね?」

「ああ」

「なら、やりましょう」



 潔い。だからアイリスがパートナーだとやりやすいんだ。やらなくてはいけない事はゴネずにやる。例えどんな事でも。そんな人材がどれだけ貴重な事か。



「話は聞かせてもらった」



 突然、第三者の声が響き渡った。俺もアイリスも声が聞こえた方向とは逆方向に跳び、それぞれの武器を構えた。アイリスは長く伸びた鋭利な爪を。俺は腕輪から剣と姉さんに借りた杖を取り出して、構える。



「そう身構えるものではない」



 一体どこから侵入してきたのか。声を発した主は幼い童女だった。しかし、その幼い身からは王者の風格が滲み出ている。生物の上に立つべく生まれてきたような、そんな雰囲気を纏っていた。

 そんな童女は、ベットに腰かけ、悠然とこちらを見つめていた。



「……誰だ?」

「誰だとは失礼な。肌を重なり合わせた中ではないか」



 沈黙。その発言はこの場の緊張感を更に高め、俺の背からは冷や汗が垂れる。……あくまで、俺限定だが。



「……先輩?」

「いや、いやいやいや!! 嘘だ! 俺はまだ経験するに至った事はない!!」

「随分悲しい事を言う。どれ、此処は妾が一つ手解きを―――」

「しなくていい!」

「まさか……アイリスはショックです。先輩が病気だったなんて。ロリータコンプレックスだったなんて……!」

「なんでそうなる!? 俺はノーマルだ! そんな病気患っていない!! というか!」



 こほんと咳払いを一つして、話の軌道を修正する。



「で、誰だよお前」

「む、名乗って無かったか。これは失礼。私の名前はルーナ・プリンチペッサ。白狼王じゃ。プリンチペッサは自己製作じゃが、悪くなかろう?」



 ルーナ・プリンチペッサ……イタリア語で『月の王女』か。白狼王という種族からするに、狼の中では高位の存在か?



「俺はリューヤ・イチノ「知っておる」は?」

「そっちはアイリスじゃろ?」

「そうですが……何故知っているのです?」

「何故とは……また面妖な事を聞くのう」



 面妖なのはお前の存在なんだけど。



「なんだ? 俺達、初対面だろ? お前はさっきから会った事がある様な態度だが」

「それぐらいの事、この部屋の状況で察して見せて欲しいのう。お主ならば、出来ると信じている」



 ……またえらく評価されてるな。何でだ? というか、部屋の状況? ……別段変わった様子はないが……あ。



「お前……ポチか?」



 ベットにいた筈のポチがいない。つまり、そういう事なのだろう。



「その呼び名は気に食わぬからやめい!!」



 ポチと呼ぶと火山が噴火したかのように怒りだし、歯を剥き出しにして威嚇してくる。



「おお! ポチ! ポチか!! 成程、やっと合点がいった!」

「ポチと呼ぶでない! 私はルーナじゃ!!」

「アイリス、これポチだってよ」

「おお、何ともまあ……成長しましたね、ポチ」

「ポチではないと言っておろうが!」



 うがー! とキレるポチ。



「高位の魔物は人型に化ける事が出来ると聞くが……ポチはどのくらい高位なんだ?」

「だからポチではないと……ハァ、もういい。私がどのくらい高位かと聞いたな。うむ、ズバリ言うと、魔狼の中で最高位の白狼王の! 私はその白狼王の中でも王の血をひく存在なのじゃ!!」



 ……うん、分かりにくい。この世界の魔物がどれくらい強いのか知らないのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが。



「……クエストのランクで言うと、ポチは何ランクだ?」

「ポチではない、ルーナじゃ。……ふむ、人間のランク付けはよく分からぬが……SSランクぐらいではなかろうかの。確か、私を討伐しに来た人間がそうほざいておったわ」



 うん、確かBランクで国が半壊するレベルで、単純計算でいくとAランクで国は全壊だろう。となると……おお!



「すごい! すごいぞポチ!」

「そうじゃろうそうじゃろう! もっと褒めるがよい!」

「おー、よしよし」

「クゥン……って、褒めるのはよいが撫でるでないわ!!」



 アイリスがポチの頭を撫で、ポチは気持ち良さげに眼を細めたが、突然ハッとなって頭を振り回し、アイリスに威嚇した。



「まあまあ、良いではありませんか。うりうり」

「む~! 撫でるでない!」



 ……何か姉妹みたいだな。髪の色が金と銀でそれなりに映えるし。



「ええい、止めんか! ……それよりも、リューヤ」

「ん? なんだ?」

「先ほどの話から推測するに、お前たちは魔物狩りをするつもりじゃろ?」

「ああ、そうだ。……同じ魔物としては賛同しかねるか?」

「そんな訳ないじゃろう」



 あら、以外だな。



「白狼王は気高いのじゃ。そこらの魔物になど、眼を向けぬ。唯一眼を向けるとすれば、それは餌の時だけじゃな」

「成程」

「じゃが、私は魔物じゃ。当然、魔物が湧く場所もよく知っている」



 ……ほう?



「つまり?」

「もう分かっているのじゃろうが……まあよい。要するに、協力しようと言っておるのじゃ。無論、対価は要求するがの」

「……対価、とは?」

「何、そう難しい事ではない。リューヤと、アイリスの魔力を定期的に私に献上して欲しい。それだけじゃ」

「一応聞いておこう。何故だ?」

「言えぬ。唯、お主らに害は与えないと私の魂に誓おう」



 信用は、ぶっちゃけると出来ない。しかし、利点はそのマイナス点を考慮してもあり余るほどある。後1週間なのだ。手段を選んでいる暇は、ない。



「いいだろう。その条件に乗った。アイリスはいいか?」

「構いません。手段を講じている場合でもありませんし」

「という訳だ。よろしくな、ポチ」

「うむ! ……だが、一つ言わせてくれ」

「ん?」



「ポチではない!! ルーナじゃ!!」







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