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第1話 出勤前~朝~




 …俺の姉さんは、魔法使いである。


 うん、このフレーズだけ聞いたら間違いなく俺は黄色い救急車を呼ばれる事になるだろうが、残念なことに事実だ。まあ、この科学の発達した世の中にまだ魔法というものがある事自体が驚きだが。


 そもそものきっかけは…あー、なんだったっけか。確か、あれだ。分かりやすく簡潔にまとめると。


・魔力の欠片が地球に降り注ぐ(原因は分かっている)。

・それが姉さんにぶつかる。

・姉さんの中の魔法使いの素質が目覚める。

・/(^o^)\<ナンテコッタイ


 こんな感じ。うん、とりあえずこの現実世界でまさかご都合主義とテンプレを同時に拝む羽目になるとは夢にも思わなかった。

 で、その後当たり前のように姉さんはその事件に関与、そしてあろうことか解決してしまった


 【魔力塊爆発事件】

 次元の狭間に存在する魔力が何らかの要因で圧縮され、それが膨大な魔力を秘めた塊となり、やがて許容量を超え爆発。あらゆる世界に影響を与えた。


 と、表向きはこうなっているが実際は違う。とあるマッドサイエンティストが何か壮大な実験(笑)の為に魔力を圧縮させてそれを爆発させ、散らばった魔力の欠片が各世界にどのような影響を与えるのか見たかったとの事。

 つまり我がお姉様はあらゆる世界に散らばった魔力の欠片をすべて回収し、そのマッドさんを捕まえてしまったのだ。

 ……いや、姉さんの事はよく分かってたつもりだけど、此処まで来ると呆れてくるぜ。


 さて、そんな出来事を何故俺が知っているのかというとだな、実際に立ち会ったからだ。というか、姉さんは事あるごとに俺を巻き込むんだよなぁ……。


 これが、『今』から3年前の話。そして、今はというと……。






「……龍也、起きて」



 俺の朝は大体の確率で姉さんに起こされる。決して俺は寝坊をするという訳ではない。唯、姉さんが規則正し過ぎるだけなんだ。



「ん~…後、10分ぐらい…」

「……駄目」



 姉さんが起きる時間は6時。つまり、俺の起きる時間も6時になる訳だ。そんな時間から起きたくはない。



「……そう、分かった」



 どうやら俺の意地が勝ったようだ。よしよし、俺は後10分ぐらい布団との蜜月を過ごせそうだ。朝の10分は短い様でとても貴重な時間だからな。分かる人には分かると思う。

そんな事を考えながら布団に顔を埋めると、不意に背中に冷たい空気を感じた。この感覚はアレだ。布団から抜け出したときや、布団を無理やりひっぺ返された時に似ている。つうか同じだ。

そして、スススッと布ずれの音がする。これは…あれだな。うん。



「…姉さん、勝手に俺の布団に入ってくんな」

「……龍也が起きないから」



 俺が起きないと貴女様は布団の中に入ってくるんすか。どういう思考回路しているのか一回調べてみたい。



「……ん、温かい」

「ハァ、まあいいや。じゃあ、10分後にまた起こして」



 もういい加減慣れた。流石に16年間しょっちゅう布団に侵入されれば慣れるもんだ。


 俺こと一之瀬龍也いちのせりゅうや16歳ははひょんな事から姉に巻き込まれて【魔術師】になってしまった。

 最初は不本意だったが、放っておいても姉さん一人でなんとかするだろうと思ったんだが、なんやかんやで協力してしまい(この時の俺は唯の普通の一般人な。唯の一般人が魔法に関わるとか無謀すぎる)あれはあれよのうちに死に掛けたところを魔術師として覚醒した。まさかこの身でご都合主義を体験するなど思ってもみなかった。


 そして、姉さんこと一之瀬遥いちのせはるか19歳。偶発的に空から降ってきた魔力の欠片に頭を打ち付けその魔力を吸収&魔法使いとして覚醒してしまった。魔法使いとしてのランクはSS+。

 本人もノリノリで事件に関与し、弟である俺を何故か巻き込み、見事解決。容姿端麗、成績優秀、文武両道のあるある尽くしの万能女。


 姉弟共に魔術結社なるところで、個性豊かすぎる社員達と共に働いております。


 【魔術結社】

 名前に魔術が入っているものの、その中身は魔法使い、魔術師、魔導師と兎に角【魔】に関する者なら誰でも何でも一発入社できる割とルーズな組織。世界の危機や次元の危機ととりあえず社長が『面白そう!』と思った物になら何でも首を突っ込む(突っ込まされる)迷惑極まりない組織であるが、本当の目的はズバリ、【次元世界の支配】である。こんなバカげたことを真面目にやっているのだから困る。

 それの延長で、支配した世界の犯罪者なども取り締まっている為、そこまで評判は悪くはないが、他の組織からはいい顔をされていない。される筈も無い。

 社長は自由奔放、天上天下唯我独尊、面白さ第一主義としている為、社員はそれに振り回される形になっている。

 社員の構成は、あらゆる次元世界からの寄せ集めで、とりあえず社長が気に入れば即採用、気に入らなくても採用されるため、今では結構な人数になっている。元々は十数人の少数企業だったようだ。ただし、絶対条件として必ず【魔】が付く何かを使えなくてはならない。姉さんみたいな魔法や、俺みたいな魔術、珍しい人は魔物使いなんているな。

 仕事は部署に分かれていて、大雑把に分けると【書類係】、【探索係】、【執行係】、【開発係】みたいな感じになっている。書類はまあ……事務仕事。探索は未開の世界を冒険しに行く、執行は犯罪を犯した不届き者を成敗しに行く、開発係は新しい技術の開発・研究をする、といった感じに、仕事までザックリしている。因みに、探索係と執行係は仕事が無い時は半強制的に書類係に回る。世界をまたにかける組織だけあって日々捌く書類の数は膨大である。実際、ここの配属となったとある女性社員Aさんは発狂してしまったらしい。



 俺は探索係に所属しており、日帰り仕事から出張仕事まで幅広く仕事をしている。16歳に何させとんじゃ。

 姉さんの執行係&探索係である。要するに、探索しがてらちょっと犯罪者捕まえてくるか、みたいな仕事だ。この様に何か同時に二つの役職に就く人は基本優秀である。尚、執行係&探索係の場合は必須条件として転移系の魔法(もしくはそれに準じた事)が出来なくてはならない。俺が使える魔術はそんな大それたこと出来ないので、一生一つの役職であろう、悲しくなんてない。むしろ嬉しい。



「つまり、姉さんは優秀な訳だ」

「……? そんなことない」



 入社して早3年ぐらい。俺はある程度の事を頭で纏めながら朝食を取っていた。



「姉さんが優秀じゃなかったら、優秀な人はこの世から消えるね」

「……龍也の方が書類仕事が早い」



 嫌味かこんちくしょう。姉さんと違って俺は暇だから自然と書類仕事をやる頻度が増えてくるんだよ。お蔭で今では書類係の人達とも仲良しだよ。



「……良い事」

「ナチュラルに心を読まないでくださいませんかねぇ? プライベートの欠片も無い」

「……? どうして?」


 駄目だこの姉。本気でいけない理由が分からないらしい。



「……私と一緒に住んでいるから、プライベートも筒抜け。今更隠す意味ない」

「おっとぉ! まさかのそっちの解釈か! いやいや、一緒に暮らしてるからってプライベートは保障されるべきだよな?」

「……この世界に【プライベートの保護】という法律はない。だから合法的に…」


 合法的になんだよ。ああ、そうそう、俺達が今住んでいる世界は地球ではなく魔術結社本部のあるガルモーニアという次元世界だ。通称ガルモ。地球の両親にはちゃんと事情を説明し、同意してもらっている。

 因みに、本部があるという事は当然支社もある。



「そういえば姉さん、今日はあの指名手配犯の居場所を掴んだから、刑を執行してくるんだろう?」

「……うん、ようやく尻尾を掴んだ」

「なら、後片付けは俺がやっておくから、早くいきなよ」

「……ありがとう。龍也も、今日から…」

「ああ、今日から長期の探索だよ。確か相方は…アイリスだったけ?」

「……」



 何故かジト目でこっちを睨んでくる姉さん。いや、俺何かしたか? もはや口癖になってきたが、俺は絶対に悪くないと断言できる。



「……私も一緒に―――」

「駄目だって。姉さんはあの指名手配犯を捕まえるんだろう? ほら、姉さんが2カ月以上かけて探したんだから姉さんが捕まえるべきだぞ?」

「……むぅ」



 何故かこの姉さん、アイリスを嫌っている節がある。因みにアイリスとは、まあ端的に言うと、俺の後輩でよく俺と一緒に探索に行く相棒みたいな感じだな。礼儀正しいし、料理もできるし、器量も良いし、と探索係の中でも人気があるのだ。因みに年齢は14歳。魔術結社の入社条件に年齢制限を取り入れるべきだと素で思った。



「……誑かされない様に気を付けて」

「いやいや、あいつは誑かすとかしないから。世の穢れを知らないような性格の奴だぞ?」



 実際、魔術結社に入社した時点で知ってるんだろうけど。



「……女は豹。いつも心のどこかで獲物を狙ってる」

「その言葉、姉さんにも返ってくるんだけど?」



 というかさっさと仕事に行けよ。



「……ん、分かった。行ってきます」

「都合が悪くなったからって、俺の心読んだ挙句、それに便乗しやがったな。まあいいや、行ってらっしゃい」



 さてと、俺も早く行かなくちゃな。


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