第9話:ダンジョンの意志、あまりに綺麗すぎて家政婦として現出する
「……なあ、エレンさん。このダンジョン、最近妙に『協力的』じゃないか?」
渋谷ダンジョンの最深部。俺がモップを動かそうとすると、なぜか床の凸凹が平らになり、汚れが一箇所に集まってくる気がする。
エレンさんは、魔導測定器を見つめたまま震えていた。
「……当然です、佐藤先輩。今、この場所の『魔素密度』はマイナス……いえ、純白の状態です。本来、ダンジョンとは**【人間の負の感情や地脈の淀みが具現化したもの】**。魔物とはその『汚れ』から生まれるバクテリアのような存在なんです」
「へぇ、バクテリアか。じゃあ、俺がやってるのはやっぱり除菌なんだな」
俺が納得して頷くと、エレンさんはさらに熱弁を振るう。
「そうです! 通常、探索者は武器で魔物を散らしますが、それは汚れを振りまくだけ。でも先輩は十年間、【魔素そのものを物理的に拭き取ってきた】。その結果、ダンジョンの心臓部である『コア』が、汚れの苦しみから解放されて……あッ!?」
突然、最深部の壁が淡い光を放ち、一人の少女の姿を形作った。
透き通るような銀髪に、どこか古風なメイド服。
『……あ……ああ……。なんと、清々しい……』
「うわっ、不法侵入者? 警備員呼ぶか?」
「違います先輩! 彼女、このダンジョンの**『意志』**ですよ! ダンジョンそのものが擬人化するなんて、歴史上初めてです!」
少女は俺の前に跪き、俺の履いているボロい安全靴に頬を寄せた。
『掃除神様……。私を、あんなドロドロの汚物(魔物)から救ってくださり、ありがとうございます。お礼に、今日から貴方様のお宅を清掃する『家政婦』としてお仕えさせてください』
「いや、家は自分で掃除するからいいよ。てか、ダンジョンが家に来たら困るだろ」
『ご安心を。私はこの場所のエネルギー体。貴方様の周囲一メートルを常に『無菌状態』に保ち、近づくゴミを自動的に消滅させます』
「……それ、便利そうだな。ゴミ捨て場まで行くの面倒な時あるし」
こうして、俺の背後には「全自動ゴミ消滅機能」を持った美少女家政婦(ダンジョンの精霊)が浮遊することになった。
その様子は、もちろんつぶやいたーで阿鼻叫喚の嵐を呼ぶ。
『【特報】掃除神、ついにダンジョンを「メス化」させる』
『攻略(物理)じゃなくて攻略(恋愛)だった件』
『もうこれ、世界中のダンジョンを掃除して回るだけで人類救えるだろ』
『なお、本人は「ゴミ捨てが楽になる」としか思ってない模様』
俺は、背後で「不浄な空気は許しません!」と鼻息を荒くする家政婦を横目に、新しい雑巾の絞り方をムサシに教え始めた。
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ここで少しこの世界の設定を補足すると、
【ダンジョン=世界の汚れ】
【魔物=汚れから湧いたカビ】
という仕組みになっています。
つまり、佐藤さんがやっていることは「戦闘」ではなく、文字通り「世界の大掃除」だったわけです。
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