第6話:世界ランク1位の剣聖、最強の奥義が『雑巾がけ』にあると確信してしまう
「……あの、佐藤さん。あそこに立ってる、バカデカい大剣を持った人は知り合い?」
渋谷ダンジョンの入り口。
休憩中に缶コーヒーを飲んでいた俺に、エレンさんが引きつった顔で指をさした。
そこには、全身から「触れたら斬る」と言わんばかりの鋭いオーラを放つ男が立っていた。
日本はおろか、世界探索者ランキング1位に君臨する男――『剣聖』ムサシだ。
「……いや、知らない。でも、うちの会社のロゴが入った看板をじっと見てるな」
ムサシがゆっくりと歩み寄ってくる。
周囲の探索者たちは「ひっ、本物の剣聖だ!」「なんでこんな下級ダンジョンに!?」とパニック寸前だ。
ムサシは俺の目の前で立ち止まると、その場に跪き、大剣を地面に置いた。
「……貴殿が、魔王を『一拭き』で葬ったという掃除神か」
「……佐藤です。あと、モップで叩いただけです」
「くっ、やはりか……。昨日、貴殿の動画を一万回スロー再生して確信した。あの無駄のない足運び、重心の移動、そして『汚れ』という邪気を断ち切る一撃……。あれこそが、俺が追い求めていた剣の極致!」
ムサシが拳を震わせ、熱く語り出す。
いや、ただの効率的な床掃除のフォームなんだけど。
「頼む! 俺を『J-クリーン』の末席に加えてくれ! 掃除を通じて、真の剣理を学びたい!」
「……え、ムサシさん? 正気ですか!?」
エレンさんが驚愕して声を上げる。
世界最高の剣士が、時給千二百円の清掃バイトに志願している。
だが、俺の返事は決まっていた。
「ダメだよ。うちは今、エレンさんが入ったばかりで教育係の俺がいっぱいっぱいなんだ。それに、そんなデカい剣持ってたら、掃除の邪魔だし」
「「…………!!」」
周囲が凍りついた。
世界1位の男を「邪魔」の一言で切り捨てた。
だが、ムサシの目はさらに輝きを増した。
「……なるほど。剣を捨て、雑巾を持てということか。深い……深すぎる……!」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「分かりました! 今日から私は、このダンジョンの『ゴミ拾い』から始めます! 貴殿の背中を追い、いつか真の『清掃』を会得してみせる!」
ムサシは勝手に納得すると、道端に落ちていた空き缶を、まるでお宝でも拾うような神妙な手つきでゴミ袋に入れ始めた。
その光景は、またしてもつぶやいたーで爆速拡散される。
『【速報】世界1位の剣聖、剣を捨ててゴミ拾いボランティアを開始』
『掃除神に弟子入り拒否されて「まだ修行が足りない」と号泣(※泣いてない)』
『現在の渋谷ダンジョン:聖女がモップを持ち、剣聖がゴミを拾うカオス空間』
『結論:現代最強のギルドは、清掃会社「J-クリーン」で確定www』
俺は深く溜息をつき、空になった缶コーヒーをムサシの持つゴミ袋に放り込んだ。
「……まあ、拾ってくれるなら助かるけどさ。それ、分別しっかりね」
「はい! 師匠!!」
――俺の時給が上がるどころか、部下(?)の癖がどんどん強くなっていく。
第6話をお読みいただき、ありがとうございます!
聖女に続き、ついに世界1位の剣聖まで「掃除の真理」に目覚めてしまいました。
佐藤さんの「邪魔」という一言が、高潔な武人には「執着を捨てろ」という教えに聞こえてしまう……。
勘違いの連鎖が止まりません!
「剣聖、ピュアすぎるw」「佐藤さんの扱いが雑で最高」と思った方は、
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次回、第7話。
「ついに海外のギルドからも『うちの国を掃除してくれ』という依頼が届く」
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