第5話:聖女様の神聖魔法、掃除には向かないことが判明する
「……あー、そこ。隅っこに溜まってる粘液、ちゃんと掻き出して」
「はいっ、佐藤先輩! お任せください!」
都内・渋谷にあるE級ダンジョン『スクランブル・ゲート』。
初心者向けのこの場所で、俺たちは『ビッグスライム』が撒き散らした粘液の除去作業を行っていた。
エレンさんはやる気満々だ。
支給されたばかりの『J-クリーン』指定の作業つなぎ(少しサイズが大きくて、ダボついているのが余計に聖女っぽくない)に身を包み、杖を掲げる。
「佐藤先輩、見ていてください。私の最高位浄化魔法……『ホーリー・クリーン・レクイエム』で、一気に片付けます!」
彼女の杖が眩しく発光する。
本来なら、一国の軍隊を壊滅させるレベルの魔力が一点に集中し――。
ドォォォォォンッ!!
凄まじい衝撃波と白い光がダンジョンの通路を包み込んだ。
光が収まった後、そこには……。
「……あの、エレンさん」
「……は、はい」
そこには、粘液どころか、床のタイルごと消し飛んでクレーターになった通路が広がっていた。
おまけに、衝撃で飛び散った粘液が壁にべったりとこびりついている。
「魔法で吹き飛ばすのは『掃除』じゃない。『破壊』だ。あと、飛び散った分、汚れが増えてるんだけど」
「……そ、そんな……。私の聖なる光で、悪しき汚れを消滅させたはずなのに……」
エレンさんがショックでガックリと膝をつく。
世界最高の魔導師でも、掃除の基本「掃いて、拭く」という物理の法則には勝てなかったらしい。
「いいか、見てろ。粘液は『消す』んじゃなくて『剥がす』んだ」
俺はモップを手に取った。
床の汚れの「核」を見極め、最小限の力で、だが正確に滑らせる。
シュバッ!
一振り。
ただそれだけで、クレーターの周囲に残っていた頑固な粘液が、まるで意思を持っているかのように一箇所にまとまり、ツルリと剥がれ落ちた。
仕上げに雑巾で一拭きすれば、そこだけが鏡のように光を反射する。
「……すご……。魔法の痕跡すら残さない、完璧な磨き……。これが、真の掃除……!」
エレンさんの目が、再び尊敬の念でキラキラと輝き始める。
いや、ただモップを振っただけなんだが。
「ほら、感心してないで手足動かして。そこ、まだヌメってるよ」
「はいっ! 佐藤先輩! 私、一生ついていきます!」
――その光景は、またしてもつぶやいたーで拡散されていた。
『【衝撃】聖女様、魔王を滅ぼす魔法で床に穴を開ける』
『清掃神、モップ一本で聖女を教育。圧倒的な「師匠」感www』
『「魔法は破壊、掃除は愛だ」って名言すぎるだろ(※言ってない)』
『今日の渋谷ダンジョン、床が光りすぎてて反射でモンスターが目潰し食らってるらしいぞ』
俺の平穏な日常(時給千二百円)は、どうやら完全に「伝説」へと書き換えられつつあった。
第5話をお読みいただき、ありがとうございます!
魔法という「ズル」が通用しない清掃の世界。
佐藤さんの職人気質に、聖女エレン様はますます惚れ直してしまったようです。
「モップ捌きかっこいいw」「聖女様、ポンコツ可愛い」と思った方は、
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皆様の応援があれば、次は**「大型モンスターの解体(という名のゴミ出し)」**回も書けるかもしれません!
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