第15話:アメリカ上陸! だが入国審査官のデスクが汚すぎて話が入ってこない
プライベートジェットがラスベガス近郊の専用滑走路に着陸した。
タラップを降りると、そこには映画のワンシーンのような光景が広がっていた。
「ウェルカム、ミスター・サトウ! 貴方を待っていた!」
筋骨隆々の男たちがズラリと並び、その中心には世界ランク2位のギルド『リバティ・フォース』の団長、アイアン・ビルが立っていた。
背後には武装ヘリ、そして各国のメディア。
だが、俺の視線は別の場所に釘付けだった。
(……なんだ、あの入国審査のカウンター)
仮設の入国審査場のデスク。
審査官が手に持っているスタンプ、そしてデスクの隅に溜まった「謎のベタつき」。
おそらく、ハンバーガーのソースか何かだろう。
「サトウ殿、いかがされた。あの強者の威圧感に、何かを感じられたか?」
ムサシが鞘に手をかけ、緊張した面持ちで尋ねる。
「……いや、ムサシ。あのデスク……三日は拭いてないぞ。それにあのスタンプ、インクが滲んでる。……許せん」
「なっ……!? さすがは佐藤殿! 敵の本陣に足を踏み入れるなり、微かな『綻び(汚れ)』を見抜くとは!」
ムサシが勝手に感銘を受けている間に、俺はアイアン・ビルの握手を無視して入国審査官の前に歩み寄った。
「ミスター・サトウ、まずは歓迎のセレモニーを――」
「ちょっと待って。パスポート出す前に、そこ、拭いていい?」
「……は?」
審査官が呆然とする中、俺は懐から「WCO特製・超速乾除菌スプレー」と「マイクロファイバークロス」を取り出した。
シュッ、シュシュッ!
キュッ、キュキュッ!!
一秒間に数十回という、目にも止まらぬ高速の腕の振り。
「……よし。これでようやく話ができる」
俺が拭き終わった後のデスクは、もはや鏡だった。
あまりの輝きに、審査官が自分の顔が映り込んで驚き、ひっくり返る。
さらに、俺は彼の持っていたスタンプを奪い取ると、隙間に詰まったホコリをピンセットで一瞬にして除去した。
「……これ、メンテ不足。印影がボケるから。はい、返したよ」
「………………」
空港全体が静まり返った。
世界2位のギルド団長が差し出した手を放置し、入国審査のデスクを磨き上げた男。
「……ワオ。これが、ジャパニーズ・クリーニング・マスターか……」
アイアン・ビルが、戦慄したように呟いた。
「一切の虚飾を排し、まずは己の足元を清める。……なんてストイックな男だ。我々は戦う前から、礼節と清潔さで敗北していたということか……!」
「先輩、さすがです! アメリカのメディアも『神の指先、デスクを光に変える』って速報を出してますよ!」
エレンがスマホを操作しながら興奮気味に報告してくる。
……いや、ただベタベタしてたから拭いただけなんだけど。
『佐藤様。この空港全体の魔素が、今の清掃で一気に安定しました。……空港ごと、丸洗いされますか?』
「……いや、それはさすがに時間がかかるから、まずは目的地に行こう。あそこの方が『やりがい』がありそうだしな」
俺は「鏡のようになったデスク」で、ピカピカのスタンプを押してもらい、悠然とアメリカの大地へと踏み出した。
つぶやいたーの反応:
『【速報】掃除神、アメリカ入国10秒で審査官を失神させる(※磨きすぎ)』
『ビル団長の握手をスルーしてデスクを拭く男、格が違いすぎるwww』
『「まずデスクを拭け」――これがWCOの鉄則か。深いな』
――俺の時給が上がるどころか、アメリカ中の清掃業者が「サトウ・スタイル」を導入し始めたというニュースが入るのは、その数時間後のことだった。
第15話をお読みいただき、ありがとうございます!
自由の国アメリカでも、カズマさんの潔癖症(清掃魂)は健在です。
世界2位の英雄よりも、デスクのベタつきの方が彼にとっては「強敵」でした。
次回、第16話。
「デス・バレー到着! 汚物から生まれた『腐敗龍』と対面。だが、カズマの感想は『換気扇の親玉か?』だった」
「審査官の顔が映るまで磨くw」「ビル団長の勘違いがひどい」と思った方は、
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次はいよいよ、アメリカ編のメインディッシュ(大掃除)開始です!




