第13話:プライベートジェットで渡米! 空の上で『雲の汚れ』が気になりだす掃除神
「……おい、エレンさん。この飛行機、揺れすぎじゃないか?」
高度一万メートル。
WCO(世界清掃機構)専用プライベートジェット『ゴールデン・モップ一号』の機内。
本革のソファに深く沈み込みながら、俺は窓の外を眺めていた。
「先輩、それは揺れではありません。この機体が放つ聖なる波動が、周囲の淀んだ大気と干渉しているのです。……見てください、あの雲を」
エレンが指差した先には、どす黒く変色した巨大な積乱雲が広がっていた。
本来なら避けて通るべき『魔素汚染雲』だ。
「……汚いな。あれ、放置していいのか?」
「無理ですよ。あれは高度一万メートルに滞留する、数千年にわたる地上の排気魔素。航空機のエンジンを腐食させる『空の粗大ゴミ』と言われていまして……」
エレンが言い終える前に、俺は席を立った。
背後で瞑想していたムサシが、カッと目を見開く。
「……佐藤殿、もしや」
「……ちょっと窓、開けていいかな。あの雲の『くすみ』、見てるとムズムズするんだよ。換気扇の油汚れみたいで」
「先輩!? ここ高度一万メートルですよ!? 気圧が! 酸素が!」
エレンの制止を無視し、俺は機体後部のハッチへ向かった。
普通なら気圧差で吸い出されるはずだが、俺の周囲にはシブキが展開した『無菌結界』が張られている。
『佐藤様。外気の汚れを検知しました。……排除されますか?』
「ああ。……ちょっと、一拭きしてくる」
俺は愛用のモップを握りしめ、ハッチを蹴破るようにして外へ飛び出した――。
いや、正確には「空中に立った」。
十年の清掃で鍛えられた足腰は、空気中の魔素を「足場」として認識できるレベルに達している。
「ふんっ!」
一振り。
ただの縦一文字のモップ捌き。
だがその瞬間、空気が凍りついた。
俺のモップから放たれた『高濃度中和波動』が、数キロメートルにわたる黒い雲を、一瞬にして真っ白な綿菓子へと変貌させたのだ。
いや、それだけじゃない。
雲を形成していた有害な魔素が完全に『洗浄』され、成層圏に一筋の「青空の道」が切り拓かれた。
『……美しい。空が、磨かれている……』
シブキが恍惚とした表情で呟く。
機内では、パイロットが「レーダーから障害物が消えた!? 航路上の大気が……酸素濃度100%に浄化されている!」と絶叫していた。
数分後。
スッキリした顔で機内に戻ってきた俺に、ムサシが震える声で尋ねた。
「……佐藤殿。今のは、伝説の空神をも凌駕する『天空破斬』……」
「……いや、ただの『はたきがけ』だよ。埃っぽいのは嫌いなんだ」
俺は再びソファに座り、出された「最高級フォアグラ弁当」を一口食べて、顔をしかめた。
「……エレンさん、やっぱりこれ、味が濃すぎるよ。帰りにアメリカのスーパーで『お徳用梅干し』買っていいかな」
「……はぁ。もう好きにしてください……」
その頃、地上の気象観測所では、太平洋上に突如として現れた「一直線の快晴地帯」を巡って、学者たちが頭を抱えていた。
『【速報】掃除神、渡米途中に太平洋の空を洗濯』
『同航路を通る民間機の燃費が30%向上。経済効果、数千億円』
『結論:彼が通った後は、太陽がいつもより眩しい』
――アメリカ到着まで、あと三時間。
俺の清掃欲は、既に限界を迎えようとしていた。
第13話をお読みいただき、ありがとうございます!
高度一万メートルで「はたきがけ」をしてしまう佐藤さん。
彼の基準では、世界の危機よりも「窓の外が埃っぽい」ことの方が重大事件です。
次回、第14話。
「自由の国アメリカに上陸! だが、入国審査官の手垢が気になりすぎて入国できない!?」
「空まで掃除しちゃったよw」「フォアグラより梅干しな佐藤さん、ブレない」と思った方は、
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