第1話:清掃員、うっかり魔王を「片付ける」
数ある作品の中から目に留めていただき、ありがとうございます!
今回は**「現代ダンジョン×配信×無自覚無双」**をテーマに、最強の清掃員がモップ一本で世界をひっくり返す物語を書いてみました。
「掃除のついでに魔王を片付ける」
そんなスカッとする展開を楽しんでいただければ幸いです。
それでは、第1話どうぞ!
「ひどいな、これ。床のワックス剥げちゃうよ」
新宿地下30キロ、未踏破区域。
世界最強ギルド『天翼』の精鋭たちが血を流して倒れる地獄絵図の中で、俺――佐藤カズマは、青い作業着の袖をまくり上げて溜息をついた。
目の前には、漆黒の炎を纏う巨躯。
絶望の化身、SSS級ボス『虚無の王』が、その禍々しい爪を振り上げている。
「逃げ……て……」
足元で、この国の至宝と呼ばれる聖女エレンが、血まみれの手で俺の裾を掴んだ。
彼女の横には、へし折られた聖剣と、宙に浮いたまま「全世界同時生配信中」の魔導カメラ。
視聴者数は、すでに一億人を突破しているらしい。
『【悲報】聖女エレン、死亡確定。日本終了のお知らせ』
『てか、あの作業着のおっさん誰だよwww』
『清掃員? なんでそんな所に一般人が!?』
『逃げろ! 巻き添えで消滅するぞ!』
画面上のコメントが高速で流れる。
だが、俺にはそれどころじゃなかった。
「困るんだよね。ここ、明日までにピカピカにして返さなきゃいけないんだから」
俺は愛用の『超高密度炭素繊維モップ(経費で購入)』を、バケツの水でジャブジャブと濡らす。
十年。毎日、魔物の返り血や粘液と戦い続けてきた。
頑固な汚れを落とすには、腰の入ったスイングと、汚れの核を見抜く目が必要だ。
「グルアアアアアアアッ!」
虚無の王が、音速を超える速度で爪を振り下ろす。
エレンが絶望に目を見開いた。
――だが。
「……遅い。油の乗ったスライムの突進に比べれば、止まって見えるよ」
俺は、床の「滑りやすいポイント」を熟知している。
最小限の足運びで爪をかわすと、そのままダンスを踊るような滑らかな動作で、モップをボスの顔面に叩きつけた。
ズバァァァァンッ!!
ただの清掃用具が、空間を割るような音を立てる。
「……あ、しまった。力を入れすぎた」
十年間、魔素に晒され続けて変異した俺の筋力は、すでに人類の域を超えていた。
ボスの頭部が、熟したトマトのように粉砕される。
漆黒の炎が、まるで消臭スプレーを吹きかけられたみたいに、一瞬で霧散した。
『…………え?』
『は? 今、何が起きた?』
『モップ……だよね? 今の、聖剣のエクスカリバーより威力出てなかった?』
『【速報】清掃員、魔王を「掃除」完了』
静まり返る現場で、俺は砕け散ったボスの残骸を見下ろし、バケツから雑巾を取り出した。
「よし、肉片が飛び散る前に拭いちゃわないと。聖女さん、そこ退いてもらえます? ワックスがけ始めたいんで」
カメラの向こうで、世界がひっくり返るような騒ぎになっていることなど、俺は知る由もなかった。
第1話をお読みいただき、ありがとうございました!
モップ一本でSSS級ボスを掃除してしまった佐藤さんですが、本人は「仕事が終わって一安心」くらいにしか思っていません。
一方その頃、全世界の配信画面の向こう側では……大変なことになっています。
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