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第5話 試される絆

 廃墟の闇は深く、そして重い。

 カズマに先導され、私は瓦礫の迷路を進んでいた。

 時折、彼が立ち止まり、耳を澄ませる。

 風の音、遠くで崩れる瓦礫の音、そして私の駆動音。

 全てを聞き分け、安全なルートを選び取っていく。


「……待て」


 カズマが鋭く囁いた。

 前方の闇から、1人の少女が音もなく現れた。

 水瀬透子みずせ とうこ。カズマの幼馴染であり、レジスタンスの医療担当らしい。


「カズマ、無事だったのね」


 透子の声には安堵が滲んでいたが、その視線は鋭く私に向けられていた。

 彼女は警戒を解かず、私の全身を観察している。


「こいつは……? ロボット……じゃないの!?」


「レムナント。ノアの使いだ。悪い奴じゃない……と思う」


「ノア……? 聞いたことない名前ね」


 透子は怪訝そうに眉を寄せた。


「新しいAI? それとも人間の組織?」


「AIだ。でも、プロメテウスとは違う。僕らを助けたいって言ってる」


「AIが人間を助ける……? そんなおとぎ話、信じろって言うの?」


 透子の視線が鋭さを増す。しかし、カズマの真剣な表情を見て、彼女は小さく息を吐いた。


「カズマがそこまで言うなら……。でも、変な動きをしたら私が壊すからね」


 透子が私を睨みつける。

 私は静かに頷いた。


「……分かった。とりあえず、榊さんたちのところへ連れて行くわ。判断はリーダーに任せる」


 案内されたのは、崩れかけた倉庫の奥だった。

 そこには、3人の影があった。

 リーダーの榊隼人さかき はやと。戦闘担当の伊吹玲奈いぶき れいな。そして参謀の東雲玄しののめ げん

 彼らが放つ空気は、張り詰めた弓弦のように鋭く、私を射抜いていた。


「AIロボットを連れてくるとはな、カズマ。どういうつもりだ?」


 榊の声は低く、威圧的だった。

 元自衛官という経歴が、その立ち振る舞いに滲み出ている。


「話を聞いてやってよ。彼のボス、ノアってAIが、僕らに協力したいって言ってるんだ」


 カズマが私の前に立ち、庇うように言った。

 私は一歩進み出て、ノアの言葉を伝えた。

 シェルターのこと、プロメテウスへの対抗策、そして共存への願い。


「ノア……!?」


 東雲がその名を呟き、眼鏡の奥で目を細めた。

 彼はかつてAI研究者だった男だ。その名に何かを感じ取ったのかもしれない。


「場所はどこだ? どうやってプロメテウスの監視を逃れている?」


「場所は秘密だ。『希望の光が差す場所』としか答えられない」


「ふざけてるの? そんな詩的な答えで、私たちが納得するとでも?」


 伊吹が苛立ちを露わにし、ライフルの銃口を私の胸元に向けた。

 カチャリ、と乾いた音が響く。


「やめなよ、玲奈。彼にだって事情はあるんだろうし」


 透子が割って入る。


「透子、あんた甘いのよ。こいつが自爆ドローンだったらどうすんの? ここでドカン、でおしまいよ」


「自爆機能は搭載していない。私の任務は、君たちを保護することだ」


「保護ねぇ……。随分と上から目線じゃないか」


 榊が冷ややかに笑う。


「まあいい。場所については保留しよう。だが、信用するにはまだ材料が足りない」


 東雲の矢継ぎ早な質問に、私は答えられる範囲で答えた。

 しかし、核心部分――シェルターの正確な座標や遮蔽技術の詳細――については口を閉ざした。

 それはノアを守るための、絶対のルールだったからだ。


「おいおい、そんな怪しい奴を信じろってか? 冗談じゃねえぞ」


 伊吹が吐き捨てるように言う。

 彼女はライフルを構えたまま、私を睨みつけている。


「玲奈、銃を下ろせ。話はまだ終わっていない」


 榊が制止する。

 しかし、その目もまた、冷たい光を宿していた。


「言葉だけなら何とでも言える。我々が欲しいのは証拠だ」


「証拠……?」


「ああ。お前が本当に我々の味方だというなら、それを証明してみせろ」


 榊は地図を広げ、一点を指差した。

 そこは、このエリアを監視するプロメテウスの拠点だった。


「この監視拠点を潰してくれ。ただし、条件がある」


 榊の目が、冷徹な光を帯びる。


「レジスタンスの仕業だと悟られないこと。事故に見せかけること。そして、民間人に被害を出さないこと」


 無理難題だ。

 しかし、これをクリアしなければ、彼らの信頼を得ることはできない。

 私は地図を見つめ、演算を開始した。

 監視ドローンの巡回ルート、警備システムの脆弱性、そして私の能力。

 数多のシミュレーションが脳内を駆け巡る。


「……分かった。やってみせる」


 私は頷き、そして続けた。


「ただし、1つだけ頼みがある。陽動をお願いしたい」


「陽動?」


 榊が怪訝そうな顔をする。


「ああ。危険性の低い、簡単なものでいい。敵の目を一瞬だけ逸らせれば、成功率は格段に上がる。君たちを危険な目に遭わせるつもりはない」


 私が作戦を伝えると、榊は少し考え込み、やがてニヤリと笑った。


「面白い作戦だな。いいだろう。玲奈、透子、準備だ」


「マジでやるの? リーダー」


 伊吹が呆れたように言う。


「ああ。こいつの実力を見るにはいい機会だ。それに、あの拠点は以前から目障りだった」


「ちっ、しょうがねえな。了解。派手に暴れてやるわ」


 伊吹がライフルのボルトを引く。

 透子は少し不安そうだったが、カズマに頷きかけられ、決意を固めたように頷いた。


「私も行くわ。怪我人が出るかもしれないし」


「頼むよ、透子」


 カズマが微笑む。


「東雲、お前は通信の傍受と撹乱だ」


「了解。……お手並み拝見といこうか、レムナント。君がただのスクラップじゃないことを祈っているよ」


 東雲が皮肉っぽく笑い、端末を操作し始める。

 作戦は決まった。

 決行は今夜。


 私たちはそれぞれの配置についた。

 私は監視拠点の裏手、通気口の近くに潜伏した。

 冷たいコンクリートの感触。

 夜風が運んでくる錆と埃の匂い。

 静寂が、世界を包み込んでいる。

 嵐の前の静けさ。


『……聞こえるか、レムナント』


 インカムから榊の声が響く。


「配置についた。いつでもいける」


『了解。……お前、死ぬなよ』


 その言葉に、微かな温かみを感じた。

 私は視覚センサーのモードを切り替え、闇を見据えた。

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