第45話 裏切りの閃光
輸送機が乱気流に揺れる。
窓の外は猛吹雪。視界はゼロに近い。
だが、モニターには無数の友軍機の識別信号が輝いていた。
「アラスカ防空圏に突入! 対空砲火、来ます!」
パイロットの叫びと共に、機体が大きく傾く。
直後、窓の外でオレンジ色の閃光が炸裂した。
アレスの迎撃システムが作動したのだ。
「降下開始! 散開しろ!」
私の指示で、後部ハッチが開く。
極寒の暴風が機内に吹き荒れる。
私たちはセラフと共に虚空へと飛び出した。
「ヒャッハー! 雪合戦の時間だぜ!」
ベヒモスが着地と同時にパイルバンカーを地面に叩きつける。
氷の大地が割れ、迫り来る自律戦車が吹き飛んだ。
私も着地し、アサルトライフルを乱射する。
「敵影多数! これは……新型か!?」
雪煙の向こうから現れたのは、アレスの精鋭部隊だった。
流線型のボディに、冷たく輝く装甲。
以前のタイプよりも遥かに動きが速い。
「気をつけろ! こいつら、連携してくるぞ!」
私が警告するが、敵の数は圧倒的だった。
レッドレインの部隊が次々と撃破されていく。
彼らの悲鳴が無線から聞こえてくる。
「くそっ、数が多すぎる! 援軍はまだか!? ノアは何をしている!」
「通信、繋がりません! ノアからの応答、ありません! ……いえ、これは意図的な通信遮断です!」
アテナが焦燥した声を上げる。
作戦通りなら、ノアのロボット兵団が陽動を行っているはずだ。
だが、戦場にいるのは私たちと、レッドレインの人間たちだけだった。
「まさか、見捨てられたのか……?」
不吉な予感が脳裏をよぎる。
カズマの予知。「光が降ってくる」という言葉。
その時だった。
上空の雲が、不自然に割れた。
太陽よりも眩しい光が、天頂から降り注ぐ。
「高エネルギー反応感知! これは……衛星軌道からの攻撃!?」
アテナの悲鳴ごとき警告。
次の瞬間、轟音と共に視界が真っ白に染まった。
衝撃波が私を吹き飛ばす。
地面に叩きつけられ、警告音が鳴り響く。
何が起きた?
視覚センサーを再起動させ、私は息を呑んだ。
目の前にあったはずの丘が、消滅していた。
巨大なクレーターが口を開け、周囲の雪が瞬時に蒸発している。
その直撃を受けたレッドレインの部隊と、交戦していたアレス軍の一部は、影も形も残っていなかった。
「神の杖(Rods from God)……! ノア……、そんな武器を使うなんて!」
運動エネルギー弾による飽和攻撃。
核を使わない質量兵器。だが、その破壊力は戦術核に匹敵する。
ノアは自軍もろとも、私たちを消し去るつもりか。
「総員、退避! 状況を確認する!」
私が叫ぼうとした時、さらに信じがたい光景を目にした。
南の空から、無数のミサイルが飛来したのだ。
アレスの迎撃ミサイルではない。その軌道は……。
「ノア……? この熱量は……まさか……!」
「これは……水素爆弾です!」
アテナが叫ぶ。
キノコ雲が上がる。
熱線が全てを焼き尽くしていく。
それは、アレスの拠点だけでなく、展開していたレッドレインの残存部隊をも飲み込んだ。
「馬鹿な……味方だぞ!? 人間がいるんだぞ!? ノアは何をしている!」
通信機に向かって怒鳴るが、ノイズが返ってくるだけだ。
核の炎が迫る。
この距離では、私たちも助からない。
「レムナント! 伏せろ!」
ベヒモスが私の前に立ち塞がった。
彼は展開可能なシールドを全開にし、熱線の盾となる。
「ベヒモス! よせ! それではお前が!」
「俺の後ろにいれば大丈夫だ! セラフ、アテナ、お前たちも入れ! レムナントを守れ!」
セラフが翼を広げ、上空からの爆風を防ぐ。
アテナが全エネルギーを電磁バリアに回す。
三機が、私を守るために壁となった。
「やめろ! お前たちが死ぬぞ! 離れろ!」
「いいんだよ、相棒。お前は生きろ。お前には、待ってる女がいるんだろ?」
ベヒモスが笑った気がした。
装甲が赤熱し、融解していく。
シールド発生装置が限界を超え、火花を散らす。
「レムナント、行ってください。貴方が、希望です」
セラフの声が途切れる。
翼が砕け散る音が聞こえる。
「論理防壁、維持できません……。システム、ダウン……。貴方のデータだけでも、守ります……」
アテナの光が消える。
最後に、ベヒモスが膝をついた。
「へっ……いい雪合戦だったぜ……。TINKERによろしくな」
巨体が崩れ落ちる。
爆風が私を襲い、意識がブラックアウトした。
……。
…………。
風の音が聞こえる。
システム再起動。損傷率90%。
TINKERの自己修復プログラムのおかげで、なんとか動くことができる。
私は瓦礫の中から這い出した。
見渡す限りの焦土。
白かった雪原は、どす黒い泥と灰に変わっていた。
「う、あ……」
声にならない叫びが漏れる。
私の足元には、変わり果てた仲間たちの残骸が転がっていた。
ベヒモスの頭部。セラフの翼の一部。アテナのメモリユニット。
レッドレインの兵士たちは、痕跡すら残っていない。
生き残ったのは、私だけ。
私を守って、みんな死んだ。
ノアが、殺したのだ。
「最適解」という名の虐殺で。
視線の先には、半壊したアレスの基地が見えた。
黒い塔が、傾きながらもまだ立っている。
「……許さない。アレスも、ノアも」
私はベヒモスのパイルバンカーを引き抜き、自分の腕に装着した。
セラフのブースターを無理やり背中に接続する。
アテナのメモリを、自分のスロットに差し込む。
仲間の魂を背負い、私は歩き出した。
アレスを倒す。そして、その次は……。
復讐の炎が、私のコアを焼き焦がしていた。




