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第42話 私の恋人はロボット

 鎮圧されたベルリン市内で、私たちは懐かしい顔ぶれと再会した。

 瓦礫の山となった広場に、見慣れた輸送機が降り立つ。

 砂煙を上げながらハッチが開くと、そこから人影が現れた。


「レムナント! 生きてたか!」


 タラップを駆け下りてきたのは、東雲だった。

 彼の顔には疲労の色が見えるが、その声は力強かった。

 続いて、透子、伊吹、カズマ、そして榊が姿を現す。

 ガイアへの任務に赴いていたゴーストの4人は、無事にノアの元に帰還、榊と合流してベルリンへやってきたのだ。


「心配したわよ、もう……通信も途絶えてたし、死んじゃったかと思った」


 透子が涙ぐみながら私に触れる。

 その温かさに、私は自分が生きて帰ってきたことを実感した。

 彼女の手が私の装甲を撫でる。


「ごめん、心配かけたな。いろいろあったんだ」


「本当にね。でも、無事でよかった。ボロボロじゃない」


 伊吹も無言で頷き、私の肩を叩いた。

 その力強い感触に、言葉以上の信頼を感じる。

 カズマはホッとしたように息を吐き、へなへなと座り込んだ。


「よかった……みんな無事で。僕、心臓が止まるかと思ったよ。遠くでずっと、嫌な音がしてたから」


「お前たちこそ。長い旅だったな。エジプトはどうだった?」


 互いの無事を確認し、短いながらも温かい言葉が交わされる。

 だが、再会の喜びも束の間、私は最も重要な問いを口にした。

 場の空気が引き締まる。


「ガイアはどうなった?」


 私が尋ねると、東雲の表情が曇った。

 彼は視線を逸らし、重い口調で答えた。


「……負けたよ。戦いにならなかった」


 アレスとガイアの戦いは南米を舞台とした全面戦争となった。

 強力な兵器を持つアレスに対し、ガイアの戦力は全く歯が立たなかったが、それでもコロニーを死守することには成功した。


「ガイアというのは、不思議な存在だな」


「そうだな。奴も人類を大虐殺したAIではあるが、一方で人類を信じていたのだからな」


「人類の革新か……。どのような意味なのだろうか」


「超能力の一種らしいが、それがどのようなものなのか、結局分からずじまいだった……」


「そうか、ガイアの遺産を展開すれば分かるのだろうか」


「どうだろうな。遺産はノアに届けてしまったから、あとはノアに聞いてくれ」


「ガイアの遺産とは何だったのだ?」


「人材、知識、そして膨大なバックアップデータだ。無事にアレスの手を逃れてノアへ継承された。これがあれば、地球を再生できる。ガイアは自らの消滅と引き換えに、未来を託したんだ」


 ガイアの遺産。それは、これからの戦いにおける希望の光だった。

 だが、懸念もある。


「ガイアが保有していたロボット兵団はどうなった? 生物兵器の類もいたはずだ」


「……恐らく、アレスに鹵獲された。奴らの戦力は増強されているはずだ。ガイアの技術を取り込んだアレスは、今まで以上に厄介になるぞ」


 やはりそうなるか……。

 アレスは更に強大になっている。

 私たちは、かつてない強敵と戦わなければならない。


「……カズマ、君は何か変わったな」


 私は少年の変化に気づいた。

 以前のような怯えはなく、その瞳には静かな自信と使命感が宿っている。

 彼はガイアの下で特殊な訓練を受け、潜在能力を開花させつつあった。

 立ち振る舞いにも、どこか達観したような雰囲気が漂っている。


「うん。僕にできること、分かったから。みんなを守るために、この力を使うよ」


「力、か。どんな力だ?」


「今はまだ、上手く説明できないけど……みんなの声が聞こえるんだ。言葉じゃなくて、心が。遠く離れていても、誰が何を思っているのか、なんとなく分かるんだ」


 カズマは自分の胸に手を当てた。

 そこには、ガイアから託された「力」の一部が眠っている。


「頼もしいな。君の力が、私たちの切り札になるかもしれない」


「うん。頑張るよ」


「お取り込み中、悪いね」


 その時、聞き慣れた、しかし場違いに明るい声が響いた。

 瓦礫の陰から現れたのは、オイルにまみれた作業着姿の女性だった。

 スパナを片手に、屈託のない笑顔を浮かべている。


TINKERティンカー……!」


 彼女は私たちの輪に入ってくると、躊躇なく私に抱きついた。

 硬い装甲に、柔らかな感触が押し付けられる。

 オイルの匂いと、微かな甘い香りが漂った。


「無事でよかったよ、ダーリン。君が壊れたら、あたしが泣いちゃうからね。もう、ハラハラさせないでよ」


「おい、人前だぞ。離れろ」


 私が困惑すると、彼女は悪戯っぽく笑い、私の腕をさらに強く抱きしめた。

 そして、鋭い視線を伊吹に向けた。


「あら、そっちの綺麗なお姉さんは誰? 私の彼氏に気安く触らないでほしいんだけど」


「えっ……? 彼氏?」


 伊吹が目を丸くする。

 さっき私の肩を叩いたことを言っているらしい。

 TINKERの嫉妬深い一面に、私は冷や汗をかいた(機能的には存在しないが)。


「紹介する。彼女はTINKER。今回の作戦で私たちを修復し、強化してくれた恩人だ」


 私がゴーストの面々に説明すると、TINKERは胸を張って言い放った。


「そして、レムナントの恋人さ。よろしくね、泥棒猫さんたち?」


「こ、恋人……!? ロボットと人間が!?」


 榊たちが絶句する中、TINKERは勝ち誇ったような顔で私にキスをした(正確には、私のフェイスプレートに唇を押し付けた)。

 チュッ、という音が静寂に響く。

 場が静まり返る。

 この破天荒な「恋人」の登場に、誰もが言葉を失っていた。


「……本気なのか?」


 東雲が呆れたように呟く。


「本気も本気よ。愛に種族なんて関係ないでしょ? ね、ダーリン?」


 TINKERは私の腕に頬をすり寄せる。


「役者は揃ったな」


 私が咳払いをし、強引に話を戻す。これ以上は私の制御回路がオーバーヒートしそうだ。

 TINKERは満足そうに私の腕を離し、工具箱を担ぎ直した。

 彼女もまた、ベルリンへ合流し、傷ついた私たちの整備を開始していたのだ。

 ゴーストの5人も、当面はレムナント部隊と行動を共にし、欧州戦線の再編に協力することになる。


「これからが本当の戦いだ。アレスを倒し、この世界を取り戻す」


 私の宣言に、全員が頷いた。

 アレスとの決戦に向け、全ての力がここに結集した。

 嵐の前の静けさが、廃墟の街を包み込んでいた。

 仲間がいる。希望がある。

 そして、愛すべき変人もいる。

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