第38話 新生の翼
「さあ、お披露目といこうか。準備はいいかい?」
TINKERの案内で、地下格納庫の奥へと進む。
重厚なゲートが音を立てて開くと、そこには巨大な影が鎮座していた。
スポットライトがその機体を照らし出す。
「嘘でしょ……これ、本当に私?」
セラフ自身も、その変化に戸惑いの声を上げる。
全長は以前の倍近い20メートル。装甲は厚く、翼の形状も鋭角的になっている。
かつての華奢な偵察機の面影はなく、「空飛ぶ要塞」としての威容を誇っていた。
翼の下には、見たこともない重火器が懸架されている。
「どうだい、気に入ったかな? 核攻撃にも耐えられるように、フレームから再設計したんだ。複合装甲に電磁シールド発生装置も積んでるから、ちょっとやそっとの攻撃じゃ落ちないよ。ミサイルが直撃したって、傷一つつかないぜ」
TINKERが得意げに説明する。
彼女がセラフの装甲をスパナで叩くと、硬質な音が響いた。
「それに、火力も強化してある。ベヒモスと同等のレールガンに、高出力ビーム兵器。これなら、あのデカブツとも対等に渡り合えるはずだ。空からの爆撃で、地上の敵を殲滅できる」
「すごい……力が溢れてくる。今までとは全然違う」
これまで火力不足に悩まされていた私たちにとって、待望の決戦兵器だ。
セラフは新しい翼を広げ、エンジンの出力を確かめるように唸りを上げた。
その風圧だけで、周囲の埃が吹き飛ぶ。
バーニアの青い光が、格納庫を照らした。
「これなら、みんなを守れる。もう二度と、あんな惨めな思いはしたくない。ベヒモスも……私が守ってみせる」
「頼もしいねぇ。でも、力任せだけじゃ勝てないよ。アテナちゃんには、こいつをプレゼントだ」
TINKERが指差したのは、無数の超小型ドローンの群れだった。
虫のような羽音を立てて空中に浮遊している。
それぞれが独立して動き、複雑な編隊を組んでいる。
まるで生きているかのような動きだ。
「『電子のシロアリ』さ。物理的な破壊じゃなくて、敵の内部に入り込んでシステムを食い荒らす。情報戦のスペシャリストにはぴったりだろ? こいつらはどんな狭い隙間にも入り込むし、自爆して回路を焼き切ることもできる」
「素晴らしいです。これなら、どんな堅牢なセキュリティも物理的に突破できます。論理防壁ごと、ハードウェアを破壊してしまえばいいのですから。ハッキングの概念が変わりますね」
アテナが嬉しそうにドローンを制御下に置く。
彼女の周りをドローンが飛び回り、まるで光の輪のようだ。
その一つ一つが、彼女の手足となって動くのだ。
「それに、偵察機能も強化されています。個々が独立したセンサーとして機能すれば、都市全体をリアルタイムでスキャンすることも可能です。死角はなくなります」
「そうそう、その通り。さすがアテナちゃん、理解が早いね。こいつらを使えば、敵の指揮系統をズタズタにできる。混乱した敵を、セラフちゃんの火力で一網打尽ってわけさ」
「ふふ、楽しみです。モルフェウスの自慢のネットワークを、食い荒らしてあげましょう」
アテナの声には、珍しく好戦的な響きがあった。
敗北の屈辱は、彼女のような理性的なAIにも深く刻まれていたようだ。
「TINKER、感謝します。これで私は、最強のハッカーになれます」
「お安い御用さ。そして、レムナント。君にはこれだ」
渡されたのは、武骨なデザインのドローン爆弾だった。
派手さはないが、実用性を極めた形状をしている。
表面は艶消しの黒で、隠密性に優れているようだ。
手に取ると、ずっしりとした重みを感じる。
「君は前線で泥にまみれるのが似合うからね。閉所戦闘やトラップ破壊に特化してある。使い方は君次第だ。壁を爆破して道を切り開くもよし、敵の懐に放り込んで吹き飛ばすもよし。地味だけど、いい仕事をするはずだ」
「分かっている。これで十分だ。私は派手なのは好まない」
私は新しい装備をマウントし、システムチェックを行う。
反応速度、出力、すべてが以前とは段違いだ。
TINKERの技術は本物だった。彼女が「修理屋」と自称するのが謙遜に聞こえるほどだ。
私のボディも、関節部の駆動系が見直され、格闘戦の能力が向上している。
「君の近接戦闘データ、かなり研究させてもらったよ。無駄がないけど、関節への負担が大きい動きをしてたからね。新型のアクチュエータなら、君の反応速度に完全についていけるはずだ」
「ああ、体が軽い。思考と動作のラグが全くない。これなら……戦える」
私は拳を握りしめ、空気を突いた。
風を切る鋭い音が鳴る。
以前の私なら、モーターが悲鳴を上げていた速度だ。
「ありがとう、TINKER。君のおかげで、私たちはまた立ち上がれる」
「礼を言うのはまだ早いよ。これからが本番なんだから」
TINKERは照れくさそうに鼻をこすった。
彼女は工具を腰に収め、私たちを見渡した。
「君たちの身体は生まれ変わった。でも、魂はそのままさ。その新しい体で、何をするかは君たち次第だ」
彼女の言葉が、胸に深く響く。
力だけでは意味がない。それを振るう意志がなければ。




