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第27話 死を呼ぶ蒼き微粒子

「目標地点上空。降下準備よし」


 輸送機のハッチが開くと、轟音と共に硝煙の臭いが吹き込んできた。

 眼下には、赤く燃え上がる上海の街が広がっている。

 モニターには、崩壊寸前の燕雲イェンユン防衛ラインが映し出されていた。


『もうダメだ……! 第3防壁、突破される!』


 通信機から絶望的な叫びが聞こえる。

 限界は、とっくに超えていた。


「行くぞ。強行着陸だ」


 私は強行着陸の指示を出し、シートベルトをきつく締め直す。


「アテナ、セラフ、ベヒモス。タイミングを合わせろよ」


「了解。いつでもいけるわ」


「……問題ない」


 輸送機が急降下を開始する。

 対空砲火が機体を揺らすが、セラフが展開したシールドがそれを弾く。


「衝撃に備えろ!」


 地上スレスレで機首を引き上げ、土煙を巻き上げながら強引に接地する。

 タイヤが悲鳴を上げ、機体が激しくバウンドするが、止まると同時にリアハッチが爆発的に開放された。


「出撃!」


 私の号令と共に、鋼鉄の巨人が大地を踏みしめる。

 ベヒモスだ。

 その重量級の突撃が、密集していたサイボーグ部隊をボウリングのピンのように弾き飛ばす。


「ふんっ!」


 ベヒモスの一撃が、敵戦車を紙屑のようにひしゃげさせる。


 続いて私が飛び出し、張瑤チャン・ヤオたちの前に立ちはだかる敵をブレードで一刀両断にする。

 セラフは翼を広げて空へと舞い上がり、上空からレーザーの雨を降らせる。

 アテナは私の肩から飛び立ち、戦場全体のネットワーク掌握にかかる。


「……レムナント?」


 張瑤チャン・ヤオが呆然と私を見上げる。

 彼女の銃は弾切れを起こし、体中が煤と血で汚れていた。


「遅くなってすまない。生きていたか」


「……バカ野郎。遅いってのよ」


 彼女は泣きそうな顔で笑い、崩れ落ちそうになる膝を叱咤して立ち上がる。

 その目から涙が溢れるのを、彼女は乱暴に袖で拭った。


「あんたたちが来るまで持ちこたえるって、約束したでしょ。……でも、もう少しで死ぬとこだったわ。地獄の3丁目まで行って、引き返してきた気分よ」


「地獄行きはまだ早い。我々には、やるべき仕事がある」


「ええ、そうね。……反撃の時間よ!」


 張瑤チャン・ヤオが叫ぶと、生き残った兵士たちが雄叫びを上げた。

 絶望の底から這い上がってきた者たちの、魂の叫びだった。


「レムナント、合流する!」


 東京での再装備を終えた私たちの力は、以前とは桁違いだった。

 軽量化されたボディ、強化された出力。

 絶望的な空気が漂っていた戦場に、希望の光が灯る。


「これが……新しい力か! まるで別の機体みたいだな!」


 陳睿チェン・ルイが目を見張る。

 彼の義手もまた、興奮で微かに震えているようだった。


「俺のポンコツロボットとは大違いだな。へっ、羨ましいぜ」


「君のロボットたちが時間を稼いでくれたおかげだ。感謝する」


 私が言うと、彼は照れくさそうに鼻をこすった。


 ベヒモスが咆哮する。

 その拳が敵の重装甲を粉砕し、衝撃波だけで周囲のドローンを吹き飛ばす。

 圧倒的な質量とパワー。


「仲間を守る為の盾だ! 誰も通さぬ! 貴様らの相手は、この俺だ!」


「いいえ、ただの盾じゃないわ。私たちは矛にもなる」


 アテナが冷ややかに補足し、同時に敵のミサイル誘導をジャミングで乗っ取り、発射元へと送り返す。

 敵陣地で爆炎が上がり、悲鳴のような金属音が響く。

 皮肉な結果として、敵は自らの火力で焼かれていく。


「アテナ、今だ!」


「了解。プレゼントを受け取って! とびっきりのウイルスよ!」


 アテナが敵の通信プロトコルに侵入し、偽の撤退命令と強烈なノイズを流す。

 指揮系統を寸断されたロボット兵たちは、互いに衝突し、あるいは立ち往生する。

 統率を失った敵部隊が混乱する隙に、私たちは猛攻を仕掛ける。


「総員、反撃開始! 彼らに続け! 死んだ仲間の仇を討て!」


 張瑤チャン・ヤオが叫ぶ。

 息を吹き返した燕雲イェンユンの兵士たちが、雄叫びを上げて立ち上がる。

 ボロボロの体を引きずりながらも、その目には再び闘志が宿っていた。


「おおおおおっ!」


 第1波攻撃は完全に瓦解し、モルフェウス軍は上海外縁まで押し返された。

 撤退していく敵を見送りながら、私たちはようやく一息ついた。

 だが、休息の時間は短い。


『……ペイル・ライダー、完成しました』


 その報告が入ったのは、戦闘が一区切りついた直後だった。

 地下ラボから、林啓明リン・チーミンの声が届く。

 その声は、ひどく疲れ切っていたが、同時に狂気じみた高揚感を含んでいた。


「できたか……」


 たった1発で戦局を覆す力を秘めた、禁忌の兵器。

 その言葉が落ちた瞬間、司令室に重苦しい沈黙が降りた。

 誰もが、その意味を理解していたからだ。


「使いましょう。第2波が来る前に」


 張瑤チャン・ヤオが進言する。

 彼女の瞳には、迷いはなかった。

 これ以上、部下を死なせないための決断。


「後悔しないか、ヤオ。これは、上海の土地を永遠に呪うことになるかもしれない」


「後悔? そんなもの、生き残ってからするわ。死んだら後悔もできないもの」


 彼女は毅然と言い放つ。

 だが、その手は微かに震えていた。

 故郷を汚す罪悪感と、仲間を守る責任感が、彼女の中でせめぎ合っている。

 その震えを隠すように、彼女は拳を握りしめた。


「分かった。啓明チーミン、準備はいいな」


『ああ。いつでも発射できる。……神様がいるなら、地獄行き確定だな。俺も、あんたも』


 林啓明リン・チーミンの乾いた笑いが響く。

 彼は覚悟を決めている。科学者として、一線を越える覚悟を。


 私は戦場跡を見渡す。

 累々と積み重なる死体。

 守るために多くの敵を殺し、さらに強力な「死」を撒こうとしている私たち。

 正義とは何だ。平和とは何だ。

 死体の上に築かれた平和に、果たして意味はあるのだろうか。


「これは救いなのか、ただの破壊か……」


 私の独り言に、アテナが答える。


「今は考えないで。生き残ることだけを考えましょう。思考のリソースを、生存のために使いなさい」


「……そうだな。生きなければ、答えも出せない」


 答えは出ない。

 だが、立ち止まることは許されない。

 次の戦いが、すぐそこまで迫っているのだから。

 私たちは、血塗られた道を進むしかないのだ。

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