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お台場独立戦争  作者: 陣頭二玖
第三幕
23/24

辰巳フラッグの戦い・下

── 29:01 柿沼 壮太 (辰巳フラッグ19F・エレベーターホール)


 柿沼は内心焦りながらも冷静にプランを検討していた。


 当初は『キジ』を保護した後、タワー棟の垂直を活かして遅滞戦術を主とする防御に徹する予定だった。その間に低層ビル群を確保した他小隊がヘリ降下地点を確保し、ウェーブ2として後詰でくる第6中隊と連携して辰巳フラッグ全体を確保予定だった。


 しかし、それが裏目に出た。


「か66、67。機械室にてダムウェーターを止め、至急12階西非常階段へ向え。か64から65と合流せよ。か62、63も同様とし、6名にて東階段の68、69の連携をとりつつ前線を押し上げろ。各階をクリアしつつ、1階まで向え。以上」


 取れる手段はあまり多く無い。不安そうにこちらを見る2人の部下にハンドサインで行けと指示を飛ばすと、エレベーターホール奥の大きな窓をじっと見つめた。


 飛べば、早い。


 柿沼は手早くパラシュートコードを手すりに結ぶ。バリアフリーに配慮した新築マンションであったのがラッキーだが、果たして人1人を支えられるのかは賭けになる。


 柿沼は窓に1発発砲し、砕けた大窓に向かってパラシュートコードを放り投げる。一応、引いてみた感じだと、手すりも耐えられるだろう。意を決してロープに身を預ける。



 まるまる地面が近づいて来るのを確認しながら、手でブレーキをかける。一階まで数秒。ここからは1人だ。


 目の前は壁になっていてエレベーターホールの様子は伺えないが、ほんの5メートルほどのところにタワー棟の入り口があり、バリケードが破壊されているのがわかる。

 バリケードからそっと覗き込むと、まさに6名の敵兵士が、ちょうど柿沼に背を向ける形で、エレベーターのドアをこじ開けようと躍起になっているところだった。


 手元の銃を確認する。SIG MPX-Kは9mm弾だがエレベーターのドアなら確実に貫通し、内部の民間人に危険が及ぶ。マガジンをCQB用の9mmフランジブル弾に入れ替える。敵の兵装が不明だが、これなら敵を無力化しつつ、民間人への被害が抑えられるだろう。

 ただし、ヘルメットやボディアーマーには当てられなくなった。『市街地用』弾薬として用いられるフランジブル弾は、硬質の物に当たると細かな粒子に砕け散る。ヘルメットやアーマーに当ててしまうと、無力化出来ないばかりか跳弾リスクになってしまう。なので、確実に敵兵士の露出部分に命中させなければならない。

 

 柿沼はトグルをセミオートに合わせて集中する。


 なに。訓練でやった的当てのようなものだ。今、敵兵士は6名ともこちらに気づいていない。だから、一回の戦闘で6名とも屠れば良い。


 銃を構えてエレベーターホールへ侵入する。彼我の差はおよそ10メートルほど。フラッシュライトを最大出力で当てる。暗闇に敵兵士の姿がしっかりと照らし出された。


 ここからは一息だった。

 まず、左端でしゃがみ込む兵士の首筋に2発当てる。そのまま前のめりに崩れ落ちる。隣で立っている兵士の腰に2発。即死では無いが、戦闘はできないだろう。

 さらに隣へと銃口を向ける。銃声と強い光という異常に反応して、こちらへと振り向きかけている。ちょうど脇の下が見える形なので、そこに2発。その隣の兵は身体を横に向けたまま、眩しさに手で遮るように横腹を開けていた。なのでそこに2発を。

 最後の2人は銃を構えようとしていた。まずは右から2番目。身体はこちらに向けており、なんとか反撃に転じようとしたのか、銃身に手が伸びている。目出し帽の顔に向かって2発。最後の1人は銃を構え、そして柿沼と視線が合った。だか、なんとか柿沼は間に合った。彼の目に、2発の弾丸を叩き込んだ。


 時間にして、5秒弱だろうか。柿沼の目の前には6体の死体ができていた。


「ぐっ……はっ……」


 過集中に陥っていたのだろう。息をつくと同時にどっと汗が吹き出した。


「敵を……6名排除。エレベーターへ向かう……2名ほど、エレベーターシャフトから降りてこい」


 無線へ短く報告すると柿沼は歩みを進める。無力化した敵はこれで8名。下からも挟撃すればじきにタワー棟の安全は確保出来るだろう。


── 29:06 白石颯太(首都圏臨海共同溝A-7通路)


 耳が聞こえなくなっていることに気づいたのは、B-2 通路を出てすぐの事だった。サブマシンガンの連射を至近距離で受けたのが原因だろう。とはいえ、こちらの声自体は春日部さんに拾ってもらえている様で、耳の事を口頭で報告したら即座にテキストメッセージで「大丈夫ですか? もう少しで船の科学館前です。こちらからは重要なことだけテキストで送ります。白石さんの声は聞いています」と送られてきた。


 「スカーフ男、スカーフ男は、まだ追ってきてますか!?」


 自分がどれほどの声量を出しているかははたとわからない。ただ、それでも聞かざるを得ない。もしも、スカーフ男がB通路から動いていないのであれば、こんなにも痛む身体に無理させてまで必死で逃げる必要が少しだけ減るのだ。

 だが、テキストメッセージは非情だった。


「残念ですが、追いかけてきています。スピードは遅くなりましたが、それでも少しずつ距離が縮まっています」


 目指す出口、船の科学館前まであと 300 m 程。暗くて様々なものが置かれた共同溝内と言えども、健康な身体であれば 5 分もせずにたどり着けるはずだ。だが、今は怪我でうまく歩くことさえ怪しい。

 と、颯太の視界に、壁に敷設された非常通報ボックスが目に入った。


 「春日部さん。明かりをつけてください……ここで、終わらせます」


 なるべく静かだと思う声量でスマホに話しかける。


「この後……スマホ、使えなくなるかもしれません。でも、ここでなんとか、します。

 船の科学館前に着いたら、前に話した合図でお知らせ……します」


 テキストメッセージは短く帰ってきた。


「了解しました。どうか安全に」

  

 

── 29:08 柿沼 壮太 (辰巳フラッグ1Fロビー)


 合流した2人を合わせて3人がかりでエレベータードアを開ける。


「日本国自衛隊です。救助に参りました」


 柿沼が短く告げると、恐怖で静まり返っていたエレベーター内は、緊張の糸が切れたのか子供達の泣き声に包まれた。

 ひとり、落ち着いて子供たちを宥めている女性を見つける。


「白石詩織さん……ですね?」


 名前を呼ばれ、戸惑ったようにこちらを見つめ「はあ?」と不思議そうなする彼女には怪我など見当たらない。柿沼はほっとしながら無線に報告を送るのだった。


「『キジ』を保護。繰り返す、『キジ』を、無事保護。怪我もない。タワー棟1階にて『キジ』は保護された」


 既に下層階の工房も、9階にて2名、5階にて3名の排除が報告されている。恐らくだがほぼ全員を排除できたであろう。あとは1階までクリアされればタワー棟は安全と言える。


「皆さん。もう少々、お待ちください。安全確認が取れ次第、エレベーターを復帰して40階へ帰ります」


 ご老人たちの数名がやっと安心できたと言う顔をする。

 これで助かったはずだ。


 そんな思いもインカムから流れるありがたくない支援情報で掻き消えるのだった。


「HQから各員。敵、2個機械化中隊が接近中。2個機械化中隊が接近中」


 柿沼は本日何度目かわからない舌打ちを漏らす。敵の到着までどれくらいの猶予があるか分からない。それまでにタワー棟の掃討が完了し、エレベーターは復帰するか。もしくは老人や子供たちを連れて階段室に避難をするか。選択肢は少ない。


 柿沼は部下に合図をし、ひとまず様子を見にタワー棟入り口に身を運んだ。そっと辰巳フラッグの入り口を見やる。中央広場の向こうにゲートが、さらに向こうには辰巳橋を猛スピードで走り抜ける敵の車両群が見えた。


「クソっ。時間が無さすぎる!」


 思わず話声が出る。


 他ビルの小隊も、まだ掌握は済んでいないだろう。防衛線の構築なんてまだまだ先だ。タワー棟のクリアリングもエレベーターの復帰も間に合うまい。賭けになるが、詩織さんに頼んで階段室へ皆を避難させるしかあるまい。自分と部下2人は、1Fロビーを防衛線とするしかない。

 流石に3人で敵分隊もしくは小隊を防ぐのは無理があるだろう。だが、もはやここに命を賭けるしか、それしかあるまい。


 柿沼は覚悟を決めた。


 敵の車列、その先頭が都道319号線を越え、辰巳フラッグの敷地内へと侵入してくる。


 

 と、その時、先頭を走っていたZBL-08 歩兵突撃車 A3が爆破四散した。


 唖然として南の方へ目線をやると、砲身から煙を漂わせる無骨な車体が2両、辰巳フラッグ南ゲートを潜り抜けるところだった。


「HQ!10式だ!我が方主力のお出ましだ!」


 今、日本国自衛隊第一師団第三十二普通科連隊の主力が、敵防衛網を突破し辰巳フラッグへと到着したのだった。

 

 

── 29:15 白石颯太(首都圏臨海共同溝A-7通路)


 隠れているので全体を見ることはできない。それでも、視界に写ったスカーフ男からは冷静な怒りと濃厚な殺意が感じられた。折れた足は鉄パイプで応急処置され、手とふくらはぎには包帯がまかれているが、血がにじみ出ている。ゴーグルから除く目は血走っており、激しい怒りを感じさせ、そして両手には MP5 が油断なく構えられている。

 颯太は祈るだけだ。こちらの準備は全て終わっている。あとは、スカーフ男がうまく引っ掛かってくれればよい。もしもできないのであれば、その時、自分は死ぬのだろう。

 

 スカーフ男は慎重に歩を進めている。それもそうだ。照明が落ちて真っ暗な通路が続く共同溝に、突然明かりの灯った区画が現れる。先ほどもそうだったが、この部屋に罠が無いとはとても思えない。

 通路とはいえ、ここは首都圏臨海共同溝。さまざまなケーブルが床や側面を通り、また、分岐した配管や作業用の資材などがところどころに置かれている。どのような罠が待ち受けているか、素人のスカーフ男……軍事面はプロなのかもしれない。しかし、公共インフラの素人である彼には推測できないだろう。


 と、作業用の小部屋から小さな声が聞こえてきた。誰かと誰かが小声で話しているようだ。スカーフ男はドアの前へとそっと移動する。


 ドアをそっと開け部屋をのぞき込むと、中には数個のロッカーと休憩用のソファ、そして事務用の机が2つほどに作業用の荷物置き場が見えた。光通信用のケーブルや各種インフラ用の空配管、そしてボルトやナットといった資材にガスボンベなどが整理されて置かれている。通路と違い、こちらの部屋は真っ暗だったが、よくよく見ると、ロッカーの隙間から光がごくごくわずかに漏れ出ている。スマートフォンの画面バックライトだろうか? 耳を澄ますと、かすかな呼吸音がロッカー内から聞こえてきた。


 スカーフ男はロッカーの扉に手をかける。本日2度目の対面だ。



 ──ギィ。



 と、扉内部に支えられていた何かがぽとりと落ちた。



 首都圏臨海共同溝には各所に「非常通報ボックス」が設けられている。と、言うのも、狭くて暗い共同溝内には、実のところいくつもの危険があり得るためだ。例えば漏電や浸水といった逃げ場のない危険が発生したとき、作業員は素早く地上へと逃げなければならない。

 では、それをどうやって他の作業員に伝達するのか? 電気は使えない。非常用の電源は基本的には照明にそのリソースを持ってかれるし、漏電時などには役に立たない。しかし、音は使える。非常通報ボックス内には数人分のイヤーマフと、圧縮空気式ホイッスルが取り付けられた手動警報サイレンが備え付けられている。

 起動をすれば、エアボトルから 6MPa の圧力でホイッスルが鳴らされ、一瞬で 2.8kHz・140 dB、すなわち飛行機のジェットエンジンが最大出力になったときと同等の音量で、生理的に人類が最も不快に感じる周波数の音が広まることになる。


 なんら耳を保護していないスカーフ男はそんな轟音を至近距離で浴び、颯太は鼓膜が破れているうえでイヤーマフをも装着している。それでも、轟音を感じられる。それくらいの音であった。



 スカーフ男の内耳は即座に内圧が過剰に膨張し、激しい耳鳴りに襲われ、また平衡感覚はそのまま崩壊したと思われる。そして、そのまま過剰な感覚負荷により視覚と聴覚のバランスが崩れ去り、一時的な盲目を引き起こしたと思われる。

 よって、スカーフ男は嘔吐をしながらその場で崩れ落ちた。


 

 颯太は事前にこの小部屋にあった CO2 ガスボンベの栓を緩めていた。

 CO2 ガスは低い位置、具体的には底面にたまる。先ほどまで扉が閉められていた小部屋の底面は 5 % を超える濃度になっていただろう。この濃度の CO2 に暴露した人体は即座に意識を失い、そしてそのまま放置すると呼吸停止を引き起こしやがて死亡する事になる。


 スカーフ男がうごなくなったのを確認した颯太は物陰からそっと身をだし、小部屋のドアを閉め鍵をロックした。そしてヘナヘナと崩れ落ち、そのまま涙を流す。


 本日、数度目の殺人だ。いくら追われていたとは言え、いくら殺されると思ったと言え、殺人は殺人。気が良いものでは無い。ひとしきり静かに泣いた後、ゆっくりと立ち上がる。


 まだ、危機を脱したわけでは無い。身体は相変わらず痛むし、耳も聞こえない。スマホまで無くなったので、ここからは1人だ。


 無事、帰る。


 それだけを心に抱いて、ゆっくりと船の科学館前出口へと歩み始めるのだった。



 ── 29:24 白石颯太(首都圏臨海共同溝A出口・船の科学館前)


 ガチャリとドアノブを回し、ドアをゆっくりと開ける。

 目に飛び込んできたのは朝日だ。


 すでに時刻は朝5時をすぎ、眩しい日の出が東京湾を照らす。その姿はいつもの日常を感じさせ、朝の匂いを颯太の鼻は感じ取った。


 正直に言えば今にも倒れそうだった。


 昨日は朝から不安に苛まされ、新橋のオフィスから両国まで徒歩での移動を強いられた。そこから屋形船で東京湾へ行き、レインボーブリッジの崩落に巻き込まれて死ぬような思いをした。

 死ぬような思いはそこだけではない。海浜公園で、セントラルプロムナードで、夢の大橋の手前で、それぞれで敵に見つかり、殺されるかもしれないと恐怖を感じた。

 首都圏臨海共同溝に入ってからはなお酷い事になった。中央制御室では、初めて人を殺した。殺してしまった。しかも、それで終わりではなかった。

 極め付けは青海地下変電所からここまでだ。何人もを罠にかけ、怪我をさせ、そして手ひどく殴られた。その後もただ追われ、最後の最後にそいつを殺してしまった。


 眠気、疲労、痛み、そして何よりも心の疲れが今にも颯太を打ち砕きそうだった。


 誰もいない都道482号線を横断し、船の科学館へと向かう。



 と、お台場テレビの方をふと見ると、何台もの軍用車両がこちらへと向かってくるところだった。


 自衛隊かな? そう、考えた。

 しかし、先頭車両の中にいる人物……そう、なぜかはっきりと見えてしまったその人物は、昨日夕方の独立宣言で、そして深夜の変電所で画面越しみた、葉巻の男その人だった。


 つまるところ、敵だ。


 敵が、今、まさに倒れんばかりの颯太の元へと車列で向かって来ているのだ。



「ああああああああああ! ふざけんなあああああ!!」


 颯太は絶叫した。

 確かに疑問ではあった。敵だって馬鹿じゃ無いし、ふうりん丸の親父さんだって、この辺りの海沿いは警備が厳しいと言っていた。

 だから、どうやって脱出するのかは疑問だった。だが、春日部や永田の言葉を信じてここまで来たのだ。


 にも関わらず、味方は見当たらない。見えるのは烈火の如く怒りに顔を染めた敵司令官と、そいつが引きつれる凶悪な車列だけだ。



 こちらは徒歩、相手は車列。颯太にできることは無理やりにでも、最後の、本当に最後の力を振り絞って船の科学館へ走る事だけだった。


「ああああああああ!!」


 声にならない声を振り絞って、全力で走る。


「ああああああああ!!」


 春日部に言われた、合図の発煙筒を2本、ポケットから取り出して互いに打ちつけた。途端に蛍光グリーンの煙がもくもくと噴出する。


 颯太は顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、2本の発煙筒を両手に持ち、両手で大きく振りながら走った。


 船の科学館へ。船の科学館へと。


 そして、科学館前の広場で力尽き、膝から崩れ落ちた。それでも、両手を振るのを諦めない。


「ああああああ!」


 膝立ちになり、上を向いて、ただ蛍光グリーンの発煙筒を振り続けた。


 耳は聞こえないが、後ろから車列が迫る気配を感じる。


 

── 29:30 パイロット(お台場上空)


 指令は簡単だった。29:30に船の科学館を通過し、仮に保護対象に迫る脅威があれば排除する事。


 そして、今、目の前に保護対象が合図の発煙筒、蛍光グリーンのそれを掲げており、その背後には敵車列が迫っていた。


「Sky-Eye, this is Omega 11, two green smokes pops at the museum. Request two SDB drops on IFV line, danger close 200m」


 F35-Aの兵装 GBU-53/B ストームブレイカーは精密誘導滑空爆弾の一つで、颯太を傷つけずに敵の車両、それが主力戦車であれなんであれをスマートに排除できるように出来ている。


「Omega11, affirmative. You are CLEARED HOT, Engage targets.」

「Pickle! Pickle 」


 管制機からの許可を得て、即座に爆弾を投下する。3種類のレーダーに導かれ、爆弾は車列へと吸い込まれるように消えていき、そして即座に敵車列を単なる鉄屑へと変えた。


「Impact!! Good effects!!」


 攻撃が成功したのも、最後まで諦めずに走り切った保護対象のおかげだ。F35-Aパイロットは彼を労うように、独白した。


「good speed, good speed.」


── 29:30 白石颯太(船の科学館前)

 

 鼓膜が破れていても身体でわかる戦闘機のエンジン音を感じだと思ったら、後ろで車列が爆発していた。一目でわかる。全滅だ。


 唖然としていると、船の科学館入り口から5、6人の男たちが駆け寄って来た。全員、黒い特殊部隊のような服を着て、手にはライフルを持っている。


 先頭の1人がメモ帳を颯太に見せて来た。


「白石颯太さんですね? 自衛隊の者です。救助に来ました。立てますか?」


 颯太は首を横に振る。彼らは迷う暇もなく、即座に颯太を肩に担いで船の科学館へと走り出した。



 なされるがままに運ばれる颯太だが、どうやって脱出するのかはまだ疑問だった。

 闇夜ならまだゴムボートでもなんとかなったかもしれない。しかし、夜が明けてしまった今、敵の機関銃とかで撃たれたら危ないのでは無いか?


 黒服の自衛官は手際良く颯太を船へと運ぶ。


 

 船の科学館には一艘だけ、機銃などに耐えられるように防御用の兵装が施された船があった。

 とある国が稀な日本領海内で不審な行動をとる。その時に用いられる工作船は武装しており、そして海上保安庁巡視船の兵装程度では沈められない位の防御が施されていた。

 名を、通称『不審船』と、呼ぶ。

 陸上自衛隊特殊作戦群の彼らは少人数で船の科学館へと潜入し、1時間程度で出航可能な状態に仕上げたのだった。

 


── 29:40 白石颯太 (芝浦ふ頭)


 もはやいつ気を失っても仕方がない。緊張の糸が切れたのか、船の科学館を出航した後、いま、芝浦ふ頭に着くまでの間、ずっとぼうっとしていた。安全になったことが信じられない。


 と、船を降りた時、向こうにヘリコプターがとまっているのが見えた。



 詩織が、そこにいた。


 涙が止まらない。感情がぐちゃぐちゃになる。


 颯太は思わず駆け出した。詩織は微笑みながら颯太を見守る。周りの目もはばからず、詩織に抱き着いた。

 颯太は、絞り出すような声を出す。


「ただいま」

ここまで読んでくださりありがとうございました。


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