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お台場独立戦争  作者: 陣頭二玖
第三幕
22/24

辰巳フラッグの戦い・中

── 28:25 柿沼 壮太 (辰巳フラッグ・タツミタワー上空・UH-60JAブラックホーク)


「降下開始30秒前!」

「偵察機より支援情報。敵機械化部隊、中隊規模、150名規模、20両前後と予測。既に現着の模様」

「敵中隊は既に展開済み。辰巳一丁目交差点に2両視認!」

「敵車両より砲撃!攻撃許可を求む……許可!ヘルファイア発射」

「ヘルファイア発射!」


 インカムに流れる声はどんどん忙しくなってきた。友軍のロングボウ・アパッチより、ミリ波レーダと赤外線の複合誘導で自律追尾する ヘルファイア対戦車ミサイルが2発解き放たれる。高速道路の高架下よりヘリ部隊への射撃を開始していたT-15 アルマータとPuma VJTF に吸い込まれるように突き刺さり、2両は花が開くように爆散した。


 と、柿沼の乗るブラックホークの警告音が鳴り響く。


「クソっ!M-SHORADだと!? ふざけやがって!」

「揺れるぞ捕まれ!」


 機長、副機長の声が機内に響き、機体は大きく揺れ動いた。


「ミサイル6時!」


 機長が叫ぶと同時にスロットルを蹴り下げる。機体は辰巳フラッグタワー棟の外壁を滑るように急降下し、その後ろにはフレアが爆ぜ、そして機体を擦るように敵のスティンガー短距離地対空ミサイルが抜けていった。


「ヘルファイア発射!……敵MANPAD車両撃破!」


 放心する柿沼の耳を声が抜けていく。

 パチンと、無意識に自分の頬を自分で叩いたことで意識が戻ってきた。レンジャー訓練の時に、身につけた特技だ。


「柿沼分隊、降下はできるか?」


 HQより確認の連絡がくる。


「お前ら!降下、いけるな!?」


 柿沼は分隊全員の意識を、また1つに集中させた。


 

── 28:29 白石颯太(首都圏臨海共同溝B-5通路)


 颯太は壁に手をつきながらも、前へ前へと進んでいた。春日部のサポートもあり、スカーフ男との距離はそこそこありそうだ。しかし、インカム越しの彼の声からは油断のできない事がありありと伝わってきた。


「白石さん、次の分岐はどうします?」

「えっと、B-2方面へ向かいたいです。光ケーブル通すトンネルで、たまに通るので暗くても迷いにくいですし」

「わかりました。念の為、分岐通過後に両方の防火扉降ろしちゃいますね」


 本気を出した日本政府のハッカーチームはよほどすごいのか、共同溝内のあらゆるシステムを自由自在に操っていた。颯太も1人の技術者だが、まさかネットワーク越しにここまで共同溝内の機器を乗っ取れるとは思ってもいなかった。


「春日部さん……なんか、すごいですね」

「あはは。詳細は明かせませんが、なんというか、日本のハッキングドリームチームって感じですよ」

「心強いです」


 会話をしながら、目の前の電子ロックが自動的に解錠されるのに驚きを隠せない。


「とは言えお気をつけ下さい。距離が少しずつですが狭まっています」

「迷ったり、他の方向に行ってくれたりしないものなんですかね?」

「チームの人から聞いたんですが、敵の暗視装置は足跡までくっきり見えるそうです。防火扉も、力技で開けられちゃうみたいで……」


 聞くだけで絶望的な気分になる。確かに、先ほどは2度殴る蹴るされただけで死を覚悟した。だが、頑丈な防火扉を破るとは只事ではない。

 颯太の身体はいまだに強く痛んでおり、全力で走るなどとてもできない。そのうえ、いくら土地勘があるとはいえ、真っ暗闇に包まれた通路をフラッシュライト一本で進むのは骨が折れるのだ。にもかかわらず、スカーフ男は鍛え上げられた五体満足はそのままに、暗視装置までつけて追ってくるのだ。


「春日部さん。このままだと追いつかれそうですし、柿沼さんにもらったトラップ案、少し試してみて良いですか?」

「わかりました! 少し先に小部屋? あるみたいですし、そこでどうです?」

「はい。簡易的な機械室になってます。そこにトラップ、仕掛けます」


 徐々に距離を詰めてくるスカーフ男。彼から逃げきれるか、ここが一つの大きな山場になるだろう。春日部の問いかけに返事をしつつ、また、痛む身体を無理やり前へと進めるのだった。

 

 

── 28:34 柿沼 壮太 (辰巳フラッグ40F・臨時救護センター)

 

 「帰ってこない……ですか」


 柿沼は40階の臨時救護センターにて住民から聞き取りをしていた。


 先ほど、屋上に降下した柿沼分隊11名は、即座に50F機械室を確保した。2名を防御に残して、38F までエレベータシャフト経由で一気に降りる。しかし、詩織は見つからない。少々焦りを感じながら38Fの住人へ聞き込みをしたところ、40Fの臨時救護センターにいるという。そんなわけで40Fへ向かったのだが、それも肩透かしに終わってしまった。

 どうやら住民の避難補助へ向かったらしい。柿沼はしばし迷う。詩織がどこにいるかはわからない。ひとまず、マンション理事会の計画を分隊とHQにインプットする。

 HQ は現在駐車場棟の地下2階で開設準備中ではあるが、それでも偵察ヘリより支援情報を柿沼に伝達してくれた。

 ひとまず、敵部隊は1階玄関前に置かれたバリケードの撤去中であり、まだタワー棟へ侵入はできていないとのこと。また、11Fまでの住民はエレベータで避難済みと理事会から連絡を受けていることから、すくなくとも詩織は12Fより上階にいると推測された。


「ひとまず、東西の非常階段を抑えればよい……か」

「はい。理事会からの話では、東階段は避難完了済みの階で封鎖予定、一方の西階段は開いているとのこと。」

「なるほど……ひとまず、1班ほど13Fへ降下させ、状況を見るのはどうか?」


 確かに、まずは見てみなければわからない。しかし、ロープで降下してしまうと上階へ戻るのは時間がかかってしまう。HQから提案があった通り、ひとまず偵察に出すのが次善の策としては妥当であろう。柿沼は、信頼のおける先任曹長のいる班に声をかけた。


「HQとの相談通りだ。下層フロアの状況がどうなっているかは不明だが、支援情報によれば、未だ敵は侵入していないと推測される。よって貴官らに13階への降下を命じたいが、頼まれてくれるか?」

「はっ!」


 指示を受けた先任曹長は2人を班員を連れてさっと部屋を後にする。すぐにでも報告が返ってくるだろう。恐らく12階までは避難が済んでいると思われるが、いつ敵が浸透してくるかはわからない。

 11名の分隊員の内、2名は50F機械室を防御中。連絡用に1名……いや、2名を救護センターに残すとすると、防御に使えるのは自分含めて恐らく7名。東階段はバリケードが設置されているとはいえ、やはり2名程度の防御は必要だろう。と、なると、西階段に3名の防御で2名を予備とし、白石詩織の捜索をさせるか……

 しばしの思案に暮れる。


 

── 28:36 白石颯太(首都圏臨海共同溝B-2通路)


 トラップは颯太にとって賭けである。自分の全身は痛み、ゆっくりとしか移動できない。一方、追ってくるスカーフ男は万全の身体だ。先ほどはあくまでも目がくらんだに過ぎない。いくら光が増幅されるとはいえ、暗視装置のモニターは人体に害が出るほどの発光はできないのだ。

 だから、いずれ追いつかれるくらいなのであれば、今ここで罠にかけスカーフ男を無力化したい。もちろん、リスクは大きい。罠を回避されてしまえば、恐らく生き残れはしないだろう。


 B-5通路は照明がともっている。罠の特性に合わせて、あえて照明を復帰させたのだ。颯太は、ケーブルラックの下に隠れて息をひそめている。スカーフ男の持つ最新鋭の暗視装置は足跡さえ目立たせる。しかし、きちんと明るい空間では役に立たない。何しろ暗視装置はあくまでも暗い空間で使うものだから……だから、きっと颯太の場所はわからないはずだと必死に念じながらその時を待っていた。

 

 

 と、目の前の床に、足が置かれた。まったく、音がしなかった。


 

 自分が叫ばなかったのは奇跡だと颯太は思った。

 人はこうも音を立てずに歩くことができるのか。通路へ入った様子も、近づいてきていた気配も感じなかった。


「いきますよ」


 春日部の声がする。モニタリング上は、スカーフ男が近づいていたのはわかっていたのだろう。あくまでも冷静だ。颯太は思わず歯を食いしばる。

 今回のトラップには、何よりも颯太の勇気が問われるのだ。


 スカーフ男がもう一歩足を前に進めた時、春日部の操作で通路に敷設された泡消火設備が起動する。あっという間に通路は界面活性剤泡に包まれた。スカーフ男はぴたりと止まり、あたりを警戒している。明らかな罠だ。警戒しないわけがない。だが、足元まではさすがに注意が行かないだろう。颯太は、ケーブルラックの下から、両手をスカーフ男の足に向かって突き出した。


 光ファイバーケーブルの芯線は 1本あたり直径125 µm前後、つまり人間の髪より細く、またその素材は石英ガラスである。つまり、被膜を向いたそれは “硬い針” そのものである。それを数十本束ねてスカーフ男のふくらはぎをめがけてぶすりと刺したのだ。


「んぐっ」


 スカーフ男のくぐもったうめき声が頭上で響く。


「今です!お願いします!」


 颯太は春日部に合図を送る。即座に通路の先にあるドアロックが外れ、固定されていたケーブルドラム、共同溝内に張り巡らされた光ケーブルがまかれた、木製で円筒形をした、大きめの小学生くらいのサイズの道具が軽い傾斜になった通路をゴロゴロと転がってくる。


「ぐっ」


 颯太は逃げられないようにスカーフ男の足を抑えようとは思った。が、スカーフ男は足に突き刺さったケーブル束を無視するかのように足を振り上げ、そのまま颯太の手を踏みつけようと振り下ろした。とっさに手を引っ込めるが、その横をコンバットブーツが通り抜け、床をみしりと軋ませる。これが手の上に振ってきたらと思うとぞっとする。そして、ふくらはぎから血液をぼたぼたと垂らしながらも、その痛みを感じさせることのないスカーフ男の動作に恐怖感を覚えるのだった。

 

 と、そこへケーブルドラムが衝突し、スカーフ男の右膝を破壊する。

 

 たかがケーブルがまかれているだけではある。だが、径 1.4 mの 66 kV ケーブルをぐるぐると巻き付けると、ドラムの総重量は 800 kg にも達する。ほんの少しの傾斜とはいえ、勢いがきちんとついたドラムが膝に直撃すると、容易に成人男性の足1本くらいであればつぶれる。

 そして、それはたった今、目の前で証明され、スカーフ男の右足が変な方向へ曲がっているのが確認できた。



 一息つこうと思ったのもつかの間、ケーブルラックの下ににゅっと手が伸びてくる。そして、その手の先には H&K MP5 が握られている。

 颯太はとっさに銃口をあらぬ方向へと向けた。間髪入れず、轟音と激しい光がケーブルラックの下を埋め尽くした。

 

 

 心臓が爆発しそうなほどドクドクと激しく鼓動している。幸いにも弾は当たらなかったが、とっさの行動がすこしでも遅れて居たら、恐らく死んでいたのだろう。颯太は震える手に力を入れなおし、光ファイバーケーブルを次はスカーフ男の手の甲へと突き刺した。


「うぐっ」


 そして、緩んだ手から銃を奪い取り、ケーブルラックの奥底へと放り投げる。


「春日部さん! 電気消してください!」


 叫ぶや否や通路の照明がふっと暗くなった。颯太は急いでケーブルラックから這いだし、船の科学館へと走り出すのだった。

 

 

── 28:48 柿沼 壮太 (辰巳フラッグ12F・西非常階段)


 辰巳フラッグ西非常階段を巡る戦いは、狭い階段室とは言え原則通り高所を守る柿沼分隊の圧倒的な優位に進んだ。とは言え敵も無駄な犠牲を出す事なく、散発的に打ち込んでくる程度であり、要は膠着していた。

 

 東階段のバリケードを見た柿沼は事前の考案通り2名をそこに置き柿沼を含めた3名で西階段の防御に当たった。2名の予備は上階より各階を捜索しながら12階まで降りてくるように伝達している。とは言え上階はまだまだ居室に住人がいる。ある程度の時間はかかるだろう。


 事態が進んだのはそんな折だった。


「なるほど。『キジ』はエレベーター内にいる可能性が高い、と」


 40階に待機させている部下から、階段を登ってきた理事長達が合流したとの報告を受けたのだ。

 理事長達によれば、白石詩織は11階より8機ある住民用エレベーターのうち1機に乗って40階へ向かったと言う。ところが40階で降りたと証言するものはいない。憔悴した理事長がそのまま倒れたとのことだが、他のメンバーの証言からは、そのエレベーター内に詩織がいる可能性はかなり高いと言える。


 (19階付近か)


 相変わらず停電が続き、暗いエレベーターホール内だが、先ほど暗視装置をつけて通りかかった際に1台を除いて全て50階と表示されていたことを思い出した。唯一、1台だけが19と表示されていた。


「よし。か62、か63は西階段で19階へ向かえ。俺も向かう。合流してエレベーターへ向かおう。か64から611までは継続して警戒にあたれ。以上」


 柿沼は無線で指示を飛ばすと、西階段の防御を部下に任せて一足跳びで階段を駆け上り始めた。



── 28:52 とある警視庁城東警察署地域課巡査 (江東医療センター入り口交差点)


 第一陣が先ほど到着した。自衛隊の活躍により、新木場が徐々に解放され、占領された地域から続々と怪我をした都民が後送されてきたのだ。


 今日は散々だった。朝から第7方面の各署は大混乱に包まれていた。

 戦場にも立たされた。警備の名目で、明治通りの夢の島入り口で敵の兵士と対峙した。こちらは盾、あちらは軍用の車両とマシンガン。撃たれたら自分はしぬのだろうと嫌でも感じされられるひどい任務だった。


 自衛隊と交代した後は、恥辱が自分を襲った。

 いったい、自分は警察官として何をしているのだろう? 都民を少しでも守れたのだろうか? いまなお、お台場に取り残された都民はどうなるのだろう?

 当たり前だが、警察は軍事的な暴力の前には何もできない。わかってはいるが、心が納得を拒んでいた。


 つい1時間前、地域課長がそんな彼を見て叱咤した。

 曰く、甘えるな。どうしようもないことはある。曰く、うなだれるな。そんなときでもできることはある。曰く、誇れ。どんなときでも、最後に都民に触れるのは地域課の我々だ、と。

 そして彼はにやりとしながら告げた。


 我々はまだ、役に立てる。

 これから、都民が運ばれてくる。その人たちを、そっと助けるのが、我々、警察官なのだと。

 

── 28:56 柿沼 壮太 (辰巳フラッグ19F・西非常階段)


 ちょうど80秒ほど前に入った悲痛な無線が、柿沼達スリーマンセルに大きな緊張をもたらしていた。3人が西非常階段の前室に揃い、さぁ行こうとした丁度その時、50階の分隊員から叫び声に似た連絡が入った。


「か67より分隊!か67より分隊!機械に異変あり!非常用ダムウェーターが起動中……17……18……19階で停止!」


 非常用ダムウェーターはそもそも人が乗るものではない。あくまでも荷物の移動を目的とした小型のエレベータで、東西の非常階段付近にそれぞれ1台ずつ設置されている。管理組合の理事たちは人間用のエレベータ電源は切ったものの、まさか荷物用のダムウェーターが使用されるとは思っていなかったのだろう。不運にも非常用ダムウェーターは耐荷重がかなりあり、また、よりによって柿沼たちと逆側の東側を使っていた。


「か6よりHQ、か6よりHQ。敵不明人数がタワー棟19階へ逆浸透したと推定。ダムウェーターの情報送れ」


 柿沼がHQに問い合わせる。返事はすぐに来た。


「HQよりか6、HQ よりか6。耐荷重より最大2名規模と推定される。キジの体調はどうか?」

「か6よりHQ 。3名にてキジの保護へ向かう。以上」

「健闘を祈る」


 柿沼は、50階の分隊員にダムウェーターの停止スイッチを探して切るように連絡し、自身は改めて暗視装置の位置を調整した。


「よし。行くぞ」


 ここから先は実戦が想定される。柿沼たちは音をたてないように廊下へ続く防火扉にゆっくりと開けた。辰巳フラッグタワー棟の内廊下は暗闇に包まれている。暗視装置は非常灯のわずかな光を増幅し、視界をクリアに照らす。柿沼たち3人はお互いの視界をカバーするように、各居室入り口のわずかなくぼみに身を隠しながらゆ

っくりと、音を立てずに前進をしていく。


 相手が何をしているかはわからない。ただ、こちらを待ち構えているのだろう。2対3と数字の上では確かにこちらが有利ではある。ただし、基本的には待ち受ける側が遥かに有利なのだ。柿沼達はそれを熟知しているからこそ、焦る気持ちを抑えて慎重に前進を続けた。


 とは言え、接触は突然であり、またその結果は練度がものを言う。柿沼がある角を曲がる時、その床面よりこちらの角を狙う白い影が見えた。

 

 暗視装置で視認をしてからコンマ1秒も経っていないだろう。柿沼の全身は機械的に動き、暗視装置で増幅された白い影の頭部へ照星を移動させ、そして2発の弾丸を打ち込むべく指は自然に動いた。

 結果は予想通りだ。敵兵士と思われる白い影は頭部に2発被弾し、そのまま崩れ落ちる。

 

 銃声に気づいたのだろう。通路の先の曲がり角からもう一つの白い影が現れ、そして柿沼の新たな射撃はその肩を捉えた。


「チッ」


 思わず舌打ちがこぼれる。ツーマンセルで何をしていたかわからないが、どうせロクなことではあるまい。白い影は咄嗟に角の奥へと引っ込む。

 

 思わず追いかけそうになる心を鎮めて、部下にハンドサインでフラッシュバンの用意を指示する。ここで無防備に角の先へ身を晒すのは危険すぎる。相手の状態が確認取れていない以上、思わぬ反撃にあう可能性は否定できない。


 と、角の先のエレベーターホールが白く光り遅れて爆音そして煙が立ち込める。柿沼達は思わず立ち止まるが、しかし一瞬で気持ちを取り戻し、フラッシュバンを角の先へと放った。


 1秒、2秒、いま。


 角の先は目の眩むほどの光に包まれ、先ほどよりも大きな爆発音があたりに響く。柿沼達はそれに合わせて角の先へと身を滑らせ、顔を覆って蹲る白い影に3発の弾丸を叩き込んだ。

 白い影は衝撃になされるままに横倒しになり、そのまま動かなくなった。


 これで敵は片付けたと思われるが内心は焦りに包まれている。先ほどの爆発はなんなのか。『キジ』はまだ無事なのか。


 はやる気持ちを抑えてエレベーターホールへと侵入する。闇に包まれたエレベーターホールの奥から3番目、白石詩織が閉じ込められていると予想されたそのエレベーターの入り口は爆薬で破壊されていた。


「チッ」


 また、舌打ちがでる。先ほどの爆発はドアを爆薬で吹き飛ばした時のものなのだろう。


 急いで柿沼がエレベーターへと駆け寄ると、中は空洞だった。


「クソっ」


 今度は声が出た。運良く、ドアの向こうにエレベーターの筐体はなかったのだろう。おそらく『キジ』は無事だ。しかし運悪く、先ほどの爆破でロープが切れたようだ。非常ブレーキがあるので、落下しても中の人達が死ぬことは無い。死ぬことは無いが落下は落下。エレベーター筐体は1階まで落ちてしまった。


 柿沼は脳内で計算する。タワー棟にいる敵は分隊規模、10名前後。今、2名を無力化。西非常階段はやり合った感じだと3名前後を拘束中。と、なると1階には5から6名程度の敵兵がいるはず。彼らがエレベーターホールのドアをこじ開けに殺到し始めたとすると……


 おそらく、エレベーターの扉は5分も持たないだろう。ここは19階、階段を駆け降りても間に合うまい。


 柿沼は首を振りながら、保護対象が危険な状態に陥った事を知らさるコールサインを無線に叫んだ。


「キジ!キジ!キジ!

 クソったれ!タワー棟1階エレベーターにキジありと推測!敵戦力5から6名程度が1階エレベーターホールへ集結と予想!」


 中隊の無線チャンネルに絶望的な知らせが響き渡った。

ここまで読んでくださりありがとうございました。


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