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お台場独立戦争  作者: 陣頭二玖
第三幕
21/24

辰巳フラッグの戦い・上

── 28:05 とある技官(国家安全保障会議民間協力者接触チーム・首相官邸B3F)


 チャットは洪水のようなメッセージに包まれた。

 春日部から役割を引き継いだその技官の目の前には、電脳戦が顕在していた。

 白石颯太の活躍により電源を失ったお台場の通信系、具体的には各基地局は、UPSの起動により自動的に再起動し通信を再開した。そして敵のLTEジャマーは再起動せず、また、各基地局にはトロイの木馬に感染済みであった。これが何を意味するか。


[fall@mod]

spring より引き継ぎました。お台場、芝浦、有明、豊洲、辰巳。お台場一帯の全LTE基地局は我々の手にあります。作戦開始をよろしくお願いします。


[kabuto@ctf_nagoya]

それじゃ、始めましょ

[ueda@uec]

敵無線機器に感染させたトロイに、パッケージ展開命令を送りますね

[crimsonfox]

IPAの芳賀さん謹製でしょ? エグそう。どんな感じ?

[fall@spring]

感染デバイスは、位置情報を5秒毎に暗号化してブロードキャスト。自衛隊側は即座に複合して把握って感じですね。

[toda@naist]

うちのチームもそろそろ始めましょ。自然言語処理+生成AI+翻訳データベースで欺瞞情報流し放題! インターフェース間に合わなかったから、流したい情報は自衛隊さんの指示もらいながらだけど……

[fumi@tokyo_geodata]

お台場の監視カメラネットワークの掌握完了です。警視庁捜査一課チームに連絡済み。彼らがリアルタイムに敵と民間人の監視を人力でやるそうです。

[kabuto@ctf_nagoya]

人力かよ……もしかして、エリアメール侵入とデバイスのスピーカー強制再生作ったのって……

[fumi@tokyo_geodata]

はい。捜査員が、監視カメラに映った避難中の市民に、直接指示出すみたいです。

[kabuto@ctf_nagoya]

警察の人的リソースえぐい……


 電脳空間上では、日本有数の『ハッカー』たちによる敵ネットワークへの蹂躙が始まろうとしていた。


 

── 28:05 とある第三十二連隊・隊員(首都高湾岸線・荒川河口橋)


 首都高湾岸線の高架上は連隊の車両群がエンジン音の合唱を奏でていた。今から5分前、お台場全域のブラックアウトと、敵通信網の遮断に合わせて攻撃が開始された。


 ゴウと口火を開く砲火が上がる。


 20:00に合わせ、攻撃開始の指令が下り、即座に連隊所属の10式戦車の120mm滑空砲がその真価を発揮した。

 橋の向こうに見える敵車両……M2ブラッドレーとVBTP-MRが火球に包まれ、内部の人員もろとも塵と化した。


 と、同時に4両の24式装輪装甲戦闘車が全速力で橋を駆けていく。鉄屑と化した敵車両を跳ね除け、そのまま橋の上に構築されていた敵の簡易拠点をMk44 ブッシュマスターで蜂の巣にする。

 荒川河口橋に仕掛けられた爆薬は、ハッキングによりその起動ができなくなり、今、起爆をする人員は拠点もろとも肉塊と化した。


 十分に橋の安全が確保されたと推定され、今現在、とある第三十二連隊所属の彼の元へも指令が出たのだ。


「中隊長、訓示!」


 インカムに指示が飛ぶ。すでに総員がパトリシアAMVに搭乗しているため、耳だけを傾ける。


「現時刻より、我らは荒川河口橋を突破し、敵占領地域へ入る。新木場、若洲、辰巳これら敵前線の防御網を無力化せしめ、そして東雲、有明、豊洲と卑劣にも不法に占拠されたお台場地区を開放するのだ!

 すでに、空挺部隊が辰巳フラッグ、東京ビッグサイト、豊洲市場等重要拠点へとヘリボーンを敢行し、我ら第三十二普通科連隊のための金床となって我らの突撃を受け止めてくれる。

 中隊諸君! 近衛連隊の名にかけて、卑劣なる敵戦力を殲滅せよ!」


 車内は熱気に包まれた。今、数十台の武骨な車両群が橋を渡る。


 

── 28:11 白石 詩織 (辰巳フラッグ40F・臨時救護センター)


 理事長をはじめとして、救護センターに数人いた管理組合の理事たちと話した結果、ひとまず住人へ上階への避難を呼びかけることなった。

 

「じゃあ、私は小さなお子さんがいるご家庭のサポートに行きますね」

 

 協力できる住人たちはいくつかのグループに分かれることになり、十数人の男性たちで一回入り口にバリケードを、理事たちは管理室に向かい、エレベータの電源オフを、そして、詩織たちのグループは避難誘導を行うことになった。どのみち避難できる場所もない。で、あれば、人手が必要な避難補助に当たるべきだと主張し、それが受け入れられたのだ。


「はい。よろしくお願いします。ひとまず、非常電源があるとは言え心元ありません。北エレベータ全部と、南エレベータは1台だけ動かして、残りの3台はとめてしまいますね」

「下層階から順番に止まらない設定にしていきます。館内放送で案内しますね」

「バリケードチーム向けに、家具の提供協力のアナウンスもお願いします」


 避難する人の誘導をしつつ、助けに来るらしい自衛隊の人用の階段を開けておく必要がある。そのうえ、もしも敵が来たときに上がりにくくする必要がある。なかなか難しいところではあるが、それでも住民同士が協力し合ってなんとか手探りで進めることになった。



── 28:12 とある第一普通科連隊・隊員(中央区月島・月島シティビル屋上)


 サープレッサーにより抑えられた銃声は、同時に着弾した155mm榴弾砲の音にかき消された。勝鬨に設けられた敵防御陣地は吹き飛び、月島各所に隠蔽された敵分隊の防御拠点は、中にいた兵士達にもれなく鉛玉がプレゼントされたところだ。


 第二次世界大戦の旧日本軍を親とする陸上自衛隊は、やはり浸透強襲戦術を得意としてた。


 突然の停電と砲撃、そして欺瞞情報に慌てふためく敵から有楽町線月島駅を奪還したのがつい5分前。その後は作戦通りに月島周辺に陸上自衛隊第一師団第一普通科連隊が一気に浸透し、事前情報にあった敵防御拠点群を一斉に攻撃したのだった。


 位置も通信も把握されているとは微塵も思っていない敵の背後からそっと近づき、火砲が着弾する音に合わせて発砲する。実に簡単な仕事であった。


 途中、幾つもの店で民間人の死体を見かけた。もんじゃ焼きの店では仕入れた食材を店内に運ぼうとしていたのか、カゴに入ったキャベツがそのままになっており、その横で店員と見られる中年女性がうつ伏せのまま放っておかれていた。


 敵兵士の目的も、何者なのかもわからない。自衛官として、任務に従い冷静に敵を排除すべきだ。


 ただ、それでも……


「支援情報。敵軽機関銃分隊4名。スーパーおおや月島店2階より仲西通りを防御と推定。よって貴班は西河岸通り入口より侵入し、南東角レストランへ侵攻せよ」


 無線の指示は的確で、行けばまた背後より一方的に敵を排除できるのだとはわかっている。まさか撃たれるとは思っていない。無防備に背中を晒す敵を、背後から。


 これは戦争であり、よって確信がなければ捕虜化は難しい。降伏するのは戦闘が終わってからだ。戦う前に降伏はできない。だから、部隊の安全のために、再度、確実に無力化できる場所を撃つのだろう。背後から。一方的に。何故ならそれが任務だから。


 ただ、それでも……


 倒れ伏す国民の姿を思い出す。まさか撃たれるとは思っていない敵の背中を思い出す。


 戦争の残酷さに胸が焼ける思いだった。

 

── 28:15 柿沼 壮太 (中央区銀座上空・UH-60JAブラックホーク)


 東京都人の上空をヘリコプターの群れが飛ぶ。2機の大きなヘリ、CH-47JAチヌークには第一小隊全員とHQ要員の合わせて46名が、5機のUH-60JAブラックホークには11名ずつ、第二、第三小隊の各人員が行動しやすい分隊規模で分散して乗っていた。

 それらを守るようにV-22オスプレイが1機、AH-64Dロングボウ・アパッチ2機が随行している。上空には彼らを見守るようにUH-1Jヒューイが飛んでいる。

 陸上自衛隊の最精鋭、習志野第一空挺団第8中隊のフル人員と言えるだろう。


 柿沼のインカムからは中隊長の訓示が流れてきている。


「繰り返す。本作戦はコードネーム『キジ』こと白石詩織さんの保護が第一目標、『トリノス』こと辰巳フラッグを主力到着の5:30まで確保することが第二目標である。第一小隊及びHQはウォーターフロント駐車場棟へランディング。第一小隊はコア拠点の確保、HQは地下2階サービスフロアに開設予定。第二、第三小隊は各棟屋上に降下し、潜伏する敵部隊を撃破せよ。特に柿沼分隊はタワー棟へ降下。『キジ』の保護を最優先に任務にあたり、任意の階に防衛線を構築の上、『キジ』及び住人の安全を確保せよ。柿沼。何か伝えることはあるか?」


 中隊長から話を振られた柿沼は、目をしばし閉じ、そして見開いてから口を開いた。今、中隊の全員が柿沼の声を聞いている。


「中隊各位。第三小隊長の柿沼だ。小官は任務により、白石颯太さんのサポートとして首相官邸にいた。我々は彼のご協力があり、初めて攻撃に転じることができた。

 小官は、我々の本務は国民を守ることであると信じている。にも関わらず、先程まで我々は何もできなかった。

 その間、白石さんは何をしたか? たった1人で、敵占領下にあるお台場に大きな一撃を加えた。本来我々が守るべき、国民の方が、だ。

 今、その白石さんの大事なお方が卑怯にも狙われている。そのお方をお守りできず、我々は精強と言えるのか。我々は陸自一の精鋭と、本当に言えるのか?

 中隊各位、貴官らに問う。我々の所属はどこだ?」


 無線チャンネルに声が響く


「「「習志野、第一空挺団!」」」


「我々の標語は、なんだ?」


「「「精鋭無比! 挺身赴難!」」」


柿沼と同じヘリに乗る分隊メンバーも、無線の先の中隊の同僚たちも、誰もが血をたぎらせているのがわかった。と、そこに中隊長が無線に割り入る。


「貴官らの気持ちはよくわかった。よろこべ。まもなく本番だ。総員! 降下用意!」


 視界のすぐそこには、闇に包まれた辰巳フラッグの姿が見えた。


── 28:23 白石 詩織 (辰巳フラッグ12F廊下)


 来る時が来たというのが、そのアナウンスへの最初の感想だった。


「1階のみなさん! すぐに逃げてください!南エレベータの、一番手前だけ使えます! に……二分後に、電源を切って、私たちも避難をします!」


 どうやら管理人室から見える監視カメラ映像にいよいよ敵兵士の姿が映ったらしい。わかっていたとはいえ民間人である理事長の声は震えており、緊張が伝わっているようだった。

 詩織の方と言えば、管理組合の数人と一緒に11Fまでの住民避難を完了し、今、ちょうど12Fの避難を終えようとしていたところだ。


「仕方ないです。田中さん。13Fの人達に避難開始の連絡をお願いします。エレベーターが使えなくなってしまうので、お年寄りやお子さんは大人たちでなんとか非常階段で行ってもらうことにしましょう」


 リーダー役の理事が若そうな住人に告げる。と、詩織の方を見て口を開いた。


「白石さんはこのエレベーターで皆さんと一緒に40階まで行って下さい。私たちは一階のメンバーと一緒に非常階段を封鎖してから上へ向かいます」


 手筈では1Fでバリケードを作っていたメンバーが管理室のメンバーと合流後、東西2ヶ所ある非常階段の東側で上へ向かい避難補助メンバーと合流。その後、東階段を新たにバリケードで封鎖して上へと避難する手筈になっていた。封鎖していない西の非常階段は自衛隊に使ってもらい、敵兵士は歩いて階段を登り、途中で封鎖に気づくようにするつもりだ。


「わかりました。では、皆さんもお気をつけて……」

「あ、待ってください!」


 と、声が割り込む。みると若い男性が足を引きずる老婦人を支えながらこちらに向かってくるところだった。


「これで、最後です。貝塚さん。もうすぐですよ!」


 歩くのに少し手間取っているのか、あまり早くはないがそれでも一歩一歩エレベーターに向かってくる。詩織は急いで駆け寄って、貝塚と呼ばれた老婦人の脇に自分の肩を入れた。


「吉原さん。このまま担いで行っちゃいましょう」

「あ。白石さん。わかりました」


 2人はなんとかエレベーターにたどり着く。そこで理事会メンバーと詩織は別れを告げ、詩織と老婦人、そしてエレベーターで待っていた子供やお年寄りの方を満載したエレベーターは40階へ向かってスルスルと上昇し


 そして、32階付近で停止した。


 管理人室の理事長が焦ってしまったのか。それとも避難が遅れてしまったのか。それはもはやわからない。

 重要なのは、このエレベーターは止まり、そして詩織はただ助けを待つしかできないと言うことだった。

ここまで読んでくださりありがとうございました。


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