54 告白とお別れ
アラスター様の婚約者になってからの2年は、長いようであっと言う間に過ぎていった。
想いが通じ合ってから離れ離れと言うのは寂しかったけど、騎士としての私には丁度良かった。
アラスター様から逃げる為に予定より早くなったけど、立派な騎士になると言う事は私の第一目標だったから、この2年、アラスター様に甘える事なく訓練に集中する事ができた。
「会いたいなぁ」と何度も思ったりもしたけど、「俺も、騎士としてリュシーに並び立てるように頑張る」とアラスター様から手紙があり、私も頑張る事ができた。
驚いたのは、リリアーヌ様とイーデン様の結婚式が1年伸びたと言う事。詳しくは知らないけど、リューゴ商会が色々と忙しくなったようで、1年延期する事になったそうだ。もともと、婚約も婚姻も発表などはしておらず知られてもいなかったそうで、延期になったところで、特に問題は無かったそうだ。
それでも、リリアーヌ様の相手がアラスター=ヴェルティルではなく、ヒューゴ=イーデンだと皆が知った時、どんな反応があるのか…私がアラスター様を奪い取った─なんて事になったら……
『それなら大丈夫。リュシーは何も悪い事はしてないし、俺がリュシーを好きになっただけだから、リュシーは何も心配しなくて良いから』
と、アラスター様に言われ、リリアーヌ様や王太子様からも『大丈夫』と言われたから、それ以降は私も気にしないようにしている。
ーあの3人がそう言うなら、大丈夫だろうー
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「リュシー、本当にユーグレイシアに帰るの?」
「うん。シーフォールスもトルガレントも好きな所だけど、私はやっぱり自国ユーグレイシアを護る騎士になりたいから」
「婚約者もユーグレイシアの騎士だしな」
「へへっ………」
スタンに言われた事は否定しない。訓練生として3年過ごしたシーフォールス王国トルガレント辺境地は、とても良い所だった。騎士仲間にも恵まれてとても充実した日々を送る事ができた。だから、アラスター様との婚約がなければ、ここに移り住む事もアリだったかもしれない。でも、ユーグレイシアにはアラスター様が居るから、私に帰らないと言う選択肢ない。ただ、気になる事として──
未だ、アラスター様に、アラスター様が私の番だと言えていない事だ。
番だ─と言って、「重い」なんて言われたら…と番の事となると、どうしてもエリナが顔を出して来る。きっとアーティー様も、こう言う葛藤を抱いていたのだろうと、今では素直に理解する事ができる。
ー兎に角、ユーグレイシアに帰ったら、ちゃんと打ち明けようー
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3年間の訓練生生活も無事終了し、いよいよ2日後にユーグレイシアに帰国すると言う日の夜、トルガレント騎士団との打ち上げの宴会をする事になった。流石は騎士達だ。1時間も掛からないうちから、皆飲みまくってハイテンションで騒いでいる。
「あ、ニールさんはトルガレント騎士団に編入するって本当ですか?」
「本当だよ。どうも、俺は陸よりも海との相性が良いみたいで、ここでの方が魔法も威力が増すんだよね」
ニールさんは私よりも三つ先輩で、水属性の魔力持ち。一度ユーグレイシアに帰国するけど、半年後にはトルガレントの騎士団へと編入するそうだ。少し寂しい気持ちもあるけど、これからも頑張って欲しいと願うばかりだ。
そして、その宴会は日付を少し跨いだ時間帯にお開きとなった。
この日は同じ邸に帰る先輩達が居るのにも関わらず、ワイアットに『最後だから送らせて欲しい』と言われ、先輩達は先に帰ってしまい、私は今日もワイアットに送ってもらう事になった。
「最後の最後迄、律儀にありがとう、ワイアット=ゴールドン伯爵令息様」
「いえいえ、どういたしまして、リュシエンヌ=クレイオン侯爵令嬢様」
「ふふっ……本当に、3年間ありがとう。ワイアットとベリンダとスタンと同じチームで良かったわ」
「俺も、クレイオン家歴代を誇る武人とご一緒できて…光栄でした」
「お褒めに預かり光栄ですわ…ふふっ」
色んな事を共に乗り越えて来たけど、それも今日で終わりで、2日後には違う国で過ごすようになる。これも、やっぱり少し寂しいな─と思っているうちに、あっと言う間に邸に着いた。
「ワイアット、今迄本当に───」
「リュシー……」
「ん?」
ワイアットが私の言葉を遮った。
「俺…リュシーが好きだ」
「────え?」
「でも、リュシーが婚約者の事が…本当に好きだって事も知ってるから、リュシーとどうこうなりたいとかは思ってないから。ただ…俺の気持ちを知ってもらいたかっただけだから。リュシー、幸せになれよ」
「ワイアット……ありがとう。ワイアットの恋人や婚約者にはなれないけど、ワイアットと同じチームで仲良くなれて良かったって思ってる。ワイアットも、他の誰かと幸せになって……」
「そうだな……うん。止めを刺してくれてありがとう。それじゃあ…おやすみ」
「おやすみ…ワイアット」
ーこんな私を好きになってくれて、ありがとうー
私は、去って行くワイアットの姿が見えなくなるまでその場で見送った。




