53 ワイアット
翌日、私達のチームは休暇だった為、私はワイアットとプレゼント選びの為に商店街へとやって来た。
「去年はピアスをプレゼントしたんだけど、センスが無いと言われてしまったんだ」
どんなピアスを?と訊けば、妹さんの瞳の色と同じ黒色の宝石が付いたピアスだったらしい。
無難と言えば無難なんだろうけど、まだまだ若くて婚約者も居ないと言うのなら、もっと明るい色の宝石が付いている方が嬉しいのは確かだろう。
「恋人になら、色を気にしてプレゼントするのは基本だけど、身内へのプレゼントなら、相手の好きな色や似合う色で考えて良いと思うわ。だから、今日は明るい色で可愛らしい物を選びましょう」
「分かった」
ワイアットの妹─ロージーは、ワイアットと同じ金髪で瞳は黒色。好きな色は赤色とピンク色。とは言え、何をプレゼントするかは決めていないらしく、色んな店を回って決めようと言う事になった。
「お疲れ様!」
「ありがとう」
午前のうちから歩き回り、ようやくプレゼントが決まったのは、お昼を少し過ぎてからだった。
「お礼にランチは奢るから」
「有難く頂くわ」
久し振りの買い物で私も楽しんだから、お礼なんて要らないと言えば要らないのだけど、ワイアットも引き下がらないだろうから、素直に奢ってもらう事にした。
「リュシーのお陰で、今年はダメ出しされる事はないと思う。本当にありがとう」
「喜んでくれると良いわね」
その妹のロージーお勧めのお店のランチは、とても美味しかった。
ーアラスター様にも食べてもらいたかったなぁー
なんて思ってしまうのは、私が浮かれているからだろう。「好き」と言える事は嬉しいけど、アラスター様が私の番だと言う事は言えずじまいだ。アラスター様が番だと分かる前から好きだったから、番だから好きになった訳ではないけど、何となく…言い難い。後2年はなかなか会う事は難しい。かと言って、2年も言わないまま─とはいかないだろう。トラウマとは厄介だ。
ーいっその事、王太子様に八つ当たりでもしようかしら?ー
勿論冗談だけど。
「美味しかったわ。奢ってくれてありがとう。お勧めしてくれた妹さんにもお礼を言っておいて」
「分かった。伝えておくよ。それで…これから予定ある?」
「予定は特に無いから、もう少し買い物でもしようかなと思って。だからここで─」
「それじゃあ、リュシーに見せたい場所があるんだけど、見に行かないか?」
ーこれはどうしたものか…ー
ここはシーフォールス王国で、ワイアットは訓練仲間の1人だ。私に婚約者ができたとは言え、アラスター様はユーグレイシア王国に居てここには居ない。
でも、婚約者が居る身で異性と2人きりでと言うのは……後ろめたさが勝ってしまう。
ワイアットは、何も考えてないんだろうけど。
「リュシーは、花が好きだろう?そこには、色んな花が咲いてて綺麗で、観光スポットにもなってるんだ」
「観光スポット…」
なら、人もそこそこ居ると言う事かな?
「だったら──」
「リュシー!」
「へ?」
咄嗟に反抗する前に、フワッと馴染みのある香りと、絶対に聞き間違える事のない低音ボイスを耳にした後、お腹に腕が巻き付けられた。
「!!??」
「リュシーは、俺の婚約者だから。2人きりと言うのは遠慮してもらいたい」
「ア…アラスター様!?」
アラスター様は、昨日ユーグレイシアに帰った…筈じゃなかった?
「アラスター…と言う事は…リュシーの婚約者か…と言っても、そんな事言える立場なのか?今迄散々リュシーの目の前で、他の令嬢と仲良くしていたのに」
「ワイアット?」
「………」
それには、理由があるからだけど、どうしてその事でワイアットが怒っているのか?
「それが、リュシーを好きになる前に契約した事だから仕方無いとでも思ってるなら、考えを改めた方が良い。リュシーを好きになって、リュシーの気持ちも気付いていたなら、もっとやりようがあっただろうから。リュシー自身が赦しているからこれ以上は何も言わないけど、またリュシーを傷付ける事があったら、その時は俺も引いたりはしないから」
「ワイアット……」
「リュシー、またこいつに傷付けられたりしたら、俺達に言うんだぞ?今日は、付き合ってくれてありがとう。また明日…」
そう言うと、ワイアットは家のある方へと去って行った。
「……えっと…何故アラスター様がここに?昨日、ユーグレイシアに帰った筈では?」
アラスター様の腕の中にスッポリ収まったままの私の心臓は、とにかくバクバクと煩いぐらいに音を立てている。
どうやら、昨日帰る前に、シーフォールスの国王様に夕食を誘われたそうで、帰りが遅くなるからと、王城にもう1泊していたそうだ。
「それで、ユーグレイシアに帰る前にリュシーに挨拶しようと思って来てみたら…2人で居る所を見付けて…」
「あ…その…ごめんな──」
「リュシー、ごめん。本当に…さっき言われた通りで、もっとやりようがあったのに…リュシーをいっぱい傷付けて…ごめん…」
「アラスター様……」
確かに本当に辛かったし、私の想いに気付いていたならもっと早くに言って欲しかったと思うけど…
「私の自惚れではなければ、それだけ、私の隣に立つ為に必死だったって事ですよね?だから…赦してあげます」
どうしたって、私がアラスター様の事が好きな事に変わりはないのだ。結局は、私はアラスター様には……チョロいのだと思う。
「リュシー……ありがとう……」
そのまままた、アラスター様が私をギュッと抱き締めた。




