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50 手に入れたかったモノ

「本当に……挨拶の一つも無く居なくなった時は、どうしようかと思ったけど、クレイオン嬢は俺とリリアーヌは恋人同士だと信じているから仕方無いんだと……それでもやっぱり自分勝手な話、クレイオン嬢に腹が立って…シーフォールス迄追い掛けて行ったんだ」

「…………………私を?でも……1年後に結婚って…」


リリアーヌ様の相手として知られているのは、ヴェルティル様だけだ。


「それに関しては、私からも謝罪させてもらうわ。私の結婚相手はヒューゴ=イーデンよ」

「イーデン様!?」


仲の良い幼馴染みだと思っていたけど、まさかのイーデン様!?


「あ!ひょっとして…リューゴ商会の共同経営者って…」

「そうよ、私の事よ。“ヒューゴ”の名前を弄ってリリアーヌの“R”に置き換えて“()()()()商会”にしたのよ。単純でしょう?」


ーいえ、全く気付きませんでしたよ!ー


リリアーヌ様は、王太子妃候補にまでなった公爵令嬢で、かたやイーデン様は伯爵令息。公爵家にとってはどちらを取るかは言うまでもない。ただ、リリアーヌ様はどうしてもイーデン様と結婚したい─と、公爵に直談判して賭けをする事になったそうだ。

王太子様もそれに賛成し、婚約者を決めずに2人の仲を密かに応援していたそうだ。


「リューゴ商会がうまくいって、ヒューゴの実力が認められて、ようやく私とヒューゴの婚約と結婚が決まったの」


そう言って微笑んでいるリリアーヌ様は、本当に嬉しそうだ。本当に、リリアーヌ様はイーデン様の事が好きなんだ。


「それじゃあ…ヴェルティル様は、リリアーヌ様とは結婚しないと言う事ですか?」

「しない!する訳がない!」

「それじゃあ……」


ー今迄の私は…何だったんだろう?ー


好きだけど、好きな人だから幸せになって欲しくて距離を置こうと思って…置けてはいなかったけど……。


「頑張って…逃げようと………うぅっ………」

「えっ!?ちょっ…クレイオン嬢!?」


悔しいやら嬉しいやら…意味が分からないやら…何故、涙が出て来るのかも分からない。


「アラスター、クレイオン嬢。ここで、2人でゆっくり話をすると良い。リリアーヌ、行こうか」

「そうですね。リュシエンヌ、後手後手になってごめんなさい。アラスター、お礼はまた今度キッチリさせてもらうわね」

「レイモンド殿下、ありがとうございます。リリアーヌ、コレは貸しだからな」


王太子様は、リリアーヌ様と護衛と女官を引き連れて出て行き、部屋にはヴェルティル様と私の2人だけになってしまった。


「取り敢えず、椅子に座ろうか」

「……はい…………」


促されてソファーに座ると、ヴェルティル様も私の隣に腰を下ろした。



テーブルの上には、いつの間にか新しく淹れられた紅茶が二つ用意されていて、私は気持ちを落ち着かせる為に有難く飲ませてもらった。その間の、ヴェルティル様からの視線が……


「視線が痛いです………」

「すまない。でも、こんなに近くに居て、見ないと言う選択肢は無いから……」

「っ!!??なっ!!??」

「さっきの続きだけど、どうして俺から逃げようと思ったんだ?」

「どうして───って………」


ーヴェルティル様が好きだからですー


ずっと、言ってはいけないと思っていた。この気持ちを伝えられる日は来ないと思っていた。


「あの…本当の本当に……リリアーヌ様とは……」

「婚約も結婚もしない。リリアーヌに心が傾いた事すら無い。俺の心を動かすのは、いつもクレイオン嬢だけだ」

「本当の本当に…私を?」

「シーフォールス迄追い掛けて行ったのに、信じられない?それに、“影”に迄上り詰めたのも、歴代一を誇る武人と言われているクレイオン嬢の隣に、誰にも文句を言われる事なく立つ為だった」




『確かに、色々大変だけど…俺にはどうしても手に入れたいモノがあるからね』



「前に言っていた…“手に入れたいモノ”って…」

「うん。どうしても手に入れたいモノ─と言うか、俺の手の中に閉じ込めたかったのが、リュシエンヌ=クレイオン嬢なんだ。幼くて気付かなかったけど、白豹姿のクレイオン嬢と、入学パーティーで会った時と、二度も一目惚れしたんだと思う。それから、色々会話をしていくうちにもっと好きになった」

「………」

「リリアーヌとの契約があったから、近付き過ぎないようにして来たけど…本当に…色々大変で…手加減するのも嫌になってキレそうになって…それで、逆に忙しい事を理由にして物理的に距離を取っていたりもした」


そう言えば、ヴェルティル様の卒業辺りは殆ど会うことはなかった。そのお陰で、私も問題無く辺境地へと向かう事ができたけど…


「手加減?」

「うん。クレイオン嬢は知らなくて良い事だから、気にしなくて良いよ」


うん。この笑顔は“これ以上訊くな”と言う笑顔だろうから、もう訊かない方が良いだろう。




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