5 お茶会
『お友達のモニカ=ラインズリー嬢と一緒にいらっしゃい』
と招待状に書かれていれば、モニカを誘わないと言う選択肢はない訳で──
「モニカが一緒で良かった」
「ここまで来たら、私も楽しむわ」
学校で言われた通り、リリアーヌ様からお茶の招待状が送られて来て、今日はそのお茶の日で、私はモニカと一緒にリリアーヌ様の家であるカシオス邸へとやって来た。
流石はカシオス公爵邸だ。門からは邸が見えず、暫くは馬車の中から広大な庭を眺めながら進み、数分走ってようやく見えてきた邸は……私が今迄見てきたどの邸よりも大きかった。
「モニカと一緒に来て良かった…」
「確かに…一人では無理ね………」
馬車を降りてから案内されてやって来たのは、邸の奥にある庭園のガゼボだった。
「二人とも、いらっしゃい」
「リリアーヌ様、お招きありがとうございます」
「私もご招待いただき、ありがとうございます」
迎えてくれたのは、勿論リリアーヌ様。
そして、テーブルには既にヴェルティル様と2人の男性が座っていた。
「ラインズリー嬢、クレイオン嬢、こんにちは」
「「スタンホルス様、こんにちは」」
にこやかに挨拶をしてくれたのは、クライド=スタンホルス様。宰相の父を持つ公爵令息だ。ヴェルティル様とは幼馴染みだそうで、その繋がりでリリアーヌ様とも仲が良く、学校で一緒に居る事もよくある。
「初めまして。私はヒューゴ=イーデンです。自分だけが場違いな感じもするけど、今日は宜しくお願いしますね」
「場違いなんて事はないわよ。ヒューゴも楽しんでね」
イーデン様は伯爵家の令息で、リリアーヌ様とは幼馴染みで、その繋がりで、ヴェルティル様達とも仲が良いそうだ。
「「………」」
チラッと、私とモニカは無言で視線を合わせる。
ーそんな仲良しメンバーのお茶会に、何故私達が招待されたの?ー
私のクレイオン家は代々騎士として王宮に勤めている家系だけど、騎士団長を務める程ではないし、モニカのラインズリー侯爵も、王宮勤めよりも領地運営に力を入れている家名だ。私達2人と接点を持ったところで、何の特にもならない。
ー私個人としては、ヴェルティル様とお茶ができる事は、嬉しい以外の何ものでもないけどー
「これで揃ったわね。皆、座ってちょうだい。お茶を用意するわ」
リリアーヌ様の掛け声で、控えていた使用人達がテキパキとお茶を淹れてから、私達の居るガゼボから少し離れた場所まで下がって行った。全く無駄が一切無い動きで、流石公爵家の使用人だ。
それからは、お互い自己紹介的な話から始まり、学校生活や先生の話など、ヴェルティル様の低音ボイスを沢山耳にできて……何とも幸せな時間を過ごした。
「2人は、“聖女”について何を知ってる?」
「聖女様ですか?」
6人が打ち解けて来た頃、スタンホルス様が聖女様についての話をし始めた。
“聖女”とは──
光属性の魔力を持ち、穢れたものを浄化する力を持つ者の事を表している。何故か、その名の通り女性しか居ない。光属性は滅多に現れる事はないが、一人しか居ない事もあれば、数人現れる事もある。
「聖女様とは光属性で、今は……数年前に聖女様が亡くなった後、ユーグレイシアには聖女様が居ないのでは?」
そう言えば、滅多に現れる事の無い光属性だけど、途切れる事は無かったんじゃなかったかな?だとしたら、私が知らないだけで、どこかの神殿に居たりするのかな?
「その通りで、数年の間聖女様は不在だったんだけど、少し前に見付かってね。今、神殿で色々と勉強しているところなんだけどね。神殿での勉強が終わった後、学校に通う事になったんだ」
「学校に通うと言う事は、15から17歳と言う事ですか?」
「そう。クレイオン嬢達と同じ年なんだ。それで、その聖女様が学校に通うのが、早ければ3ヶ月後の予定なんだ。そこで、2人にお願いがあってね」
「「…………」」
ニコニコ微笑んでいるスタンホルス様には、嫌な予感しかない。きっと、モニカも私と同じ気持ちだろうと思う。
「クレイオン嬢と、ラインズリー嬢に、その聖女様の相手をして欲しいんだ。勿論、嫌なら断ってもらって良いから」
「「…………」」
ーいやいや、それ、絶対断れない案件ですよね!?ー
この話が出ると言う事は、宰相であるスタンホルス公爵がゴーサインを出したと言う事だ。相手は聖女様。唯一穢れを綺麗に浄化させる事ができる存在。その聖女様の相手を任せられて、断れる筈がない。モニカも私も侯爵令嬢と言う面でも適任と言えるし、特に私は騎士に連なる家名だ。その辺りも考慮されているのだろう。
「私達で良ければ……」
「ありがとう!勿論、私もここに居るアラスターとリリアーヌとヒューゴも手助けするから」
ーヴェルティル様も!?ー
チラッと視線を向けると、ヴェルティル様が笑っていた。
聖女様の相手は大変かもしれないけど、ヴェルティル様の近くに居られるなら嬉しいし、きっと頑張れる!
と、その時の私は、幸せな気持ちでいっぱいになっていた。
それがまさか、あんな事になるとは……微塵も思ってもみなかった。