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48 前世と今世と

「私……エリナの話を聞いてくれたのは、ポレットだけでした。ポレットだけが、いつも私に寄り添ってくれて、小さいながらも私の心を守ってくれていました。私は、ポレットだけを愛してました。薄情な事に……ユベールの話を聞いても……何の感情もわきません。今更…なんです。今更真実を知らされても、あの時の苦しみが癒やされる事も消える事もありませんから」

「薄情だとは思わない。それが正しいのだと思う。赦す必要なんてない。私も、赦して欲しいなんて思っていない。恨まれて憎まれて当然だと思っている。私が今謝罪したのも……結局は自己満足でしかないのだから」


正しくは、エリナはアーティー様やユベールの事を憎んではいないが、赦す事はない。謝罪は受け取るけど、受け入れる事はない。


「そうですね。でも………」


私がそうであるように、目の前の彼もまた、アーティー様ではなく、ユーグレイシア王国の王太子レイモンド様なのだ。


「貴方はアーティー様ではなく、レイモンド=オズ=ユーグレイシア様なんです。だから、王太子殿下が、エリナの事で気に病む必要は無いんです。それに、リュシエンヌとしては、王太子殿下には命を助けていただいたので、命の恩人であり、尊敬する王太子殿下でしかありません」


これも、本当に思っている事だ。目の前の人が前世で夫だったアーティー様だと知った今でも、王太子様には感謝と尊敬の気持ちしかない。それは、同じ過ちを繰り返す事なく前に進んでいるからだろう。


「エリナとして、アーティー様を赦す事はありませんが……リュシエンヌ=クレイオンとしては、烏滸がましい話ですが、気軽に声を掛けていただける事は嬉しい事です」

「クレイオン嬢……ありがとう」


ー王太子が気軽に声を掛けるなんて……実際無理だろうけどー


「最後に…アランの事は…知りたいかい?」

「アラン………はい、お願いします」




アランは、私と婚約解消した後、誰とも婚約せずに孤児院で孤児達の世話をしていたそうだ。そして、10年程経ったある日、私達と同じように、婚約者を獣人に番だと言われ奪われた女性が自殺しようとしたところを助けて、そのまま孤児院で一緒に働くようになり、3年後に結婚、2年後には子供が生まれて、孤児院で働きながら家族3人仲良く暮らしていたそうだ。


「それでね…実は、その女性が伯爵家の令嬢だったようでね。しかも嫡子だったようで、そのまま爵位を継いでいたんだ」

「と言う事は…アランは伯爵家に婿入りしたと言う事ですか?」

「そう。女伯爵の婿だ。とても、仲の良い夫婦だったと聞いている」

「良かった……」


アランの事もずっと気になっていた。私と幸せになる事ができなかったのは、やっぱり少し胸は痛むけど、好きだった人が幸せだった事は、とても嬉しい事だ。


「それがまた…運命的と言うか……本当に驚いたんだけど…その伯爵の家名がね……“ヴェルティル”なんだ」

「─────────はい?」

「アランが婿入りした伯爵の家名が“ヴェルティル”なんだ」

「はぁ!!??」


ガタンッ─と、また音を立てながらソファーから立ち上がると、また護衛2人が反応して、王太子様が手を振って護衛2人の動きを止めた。


「まさか…アランの記憶持ちだったり──」

「あ、それはないよ。アラスターはアラスターだ。生まれ変わりとか記憶持ちではなく、単純にアランの子孫だと言う事だ。勿論、過去の記録にブラウン公爵とヴェルティル伯爵家の出来事は、一切残されていない」

「良かった…のかな?」


ストン─とソファーに腰を下ろすと、護衛2人もまた元の位置へと戻った。何とも優秀な護衛だ。音が一切遮断されているのにも関わらず、反応がいちいち早いのだ。流石としか言いようがない─ではなく!


「ヴェルティル様が私の番と言う事は─」

「勿論、言ってないよ。クレイオン嬢が隠したがっている事が分かったし……何より、その番にトラウマがあると思ったから…私がアーティーだと…打ち明ける事にしたんだ。クレイオン嬢は、アラスターが番だと分かる前から、アラスターに好意を寄せていただろう?それなのに、番と分かってからは、アラスターから距離を取る─逃げようとしたのは…過去のせいだろう?」

「…そう…です。今世では、私が他人(ひと)の幸せを壊してしまうのか─と思うと…怖くて……でも、後少し我慢すれば、ヴェルティル様とリリアーヌ様が結婚するので……トルガレントでの残りの2年の訓練の間に、何とか気持ちを整理して───」

「はぁぁぁぁぁぁ……」


何故か、王太子様が盛大なため息を吐きながらテーブルの上に突っ伏した。


「えっと…??」

()()()()は……馬鹿なのか?いや、頭は良いのは確かだし、腹ぐ……計算高いのも確かだが、馬鹿は馬鹿だな。肝心な事が抜けているだろう!」

「はい?」


突っ伏したままぶつぶつと呟いていた王太子様が、ガバッと顔を上げて「来たか…」と言って、パチンッと指を鳴らして張っていた結界を解除すると


「レイモンド!」


と、大声を上げてヴェルティル様が部屋へと入って来た。そして、その後ろにはリリアーヌ様も居た。





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