44 王城の庭園
大怪我を負った私だけど、王太子様のお陰で傷痕や後遺症が残る事もなく5日後には完全復活をした。
シーフォールス王国でも、今回の件に関してはお咎め無し。逆に、王太子様のお陰で二国の友好関係は更に強くなったと言える。呪いが解けた王妃様と王子様は2年ぶりに目を覚まし、今もあの森で療養中なんだそうだ。
呪いが解けたと言う事で、その呪いは掛けた本人に跳ね返り──とある侯爵が病床に伏したそうだ。勿論、その家門は爵位を取り上げられた。
ユラが関わった事の中で、唯一「良かった」と言える事ではないだろうか?
そして、リューゴ商会のシーフォールス王国での旅も終わっていて、メグも既にユーグレイシアに帰国していた為、私もトルガレント辺境地に帰る事にした。
トルガレント辺境地に戻る前日、私はリリアーヌ様とメグと3人でユーグレイシアの王城の庭園でお茶をする事になった。
「リュシエンヌ、数日だったけどありがとう。それと…ユラのした事、ごめんなさい」
「何度も言うけど、メグが悪いわけじゃないのだから、謝らないで。それに、数日だけでも一緒に居られて楽しかったわ」
「トルガレントでの訓練は後2年だったわね?」
「そうです、リリアーヌ様」
「先に言っておくわ。私、1年後に結婚する事になったの。招待状を送るから来てくれるかしら?」
結婚───
ーついに……リリアーヌ様とヴェルティル様が…ー
「勿論です。2人は……私の憧れですから……必ずお祝いに駆けつけます」
何が何でも駆けつけて、2人の幸せを目にすれば、私もようやくヴェルティル様を諦められるかもしれない。
「でも、その前に────」
「クレイオン嬢が、明日トルガレントに戻ると言うのは本当なのかな?」
「王太子殿下!?」
そのお茶会に、王太子様がやって来た。その王太子様の後ろには、ヴェルティル様とスタンホルス様が居る。
「はい。王太子殿下のお陰ですっかり元気になりましたので、明日、トルガレントへ戻る予定です。アラール殿下が、転移の魔法陣の使用を許可して下さいました。王太子殿下、この度の事、本当にありがとうございました。このご恩は、いつか必ず…」
本当に感謝しかない。これからも、騎士で居られるのだから。
「本当に、お返しなんて要らないから─と言っても気にするだろうから……そうだね、更に立派な騎士となって、ユーグレイシアを護ってもらう事がお返しになるよ。だから、頑張ってね」
「はい!必ず!」
本当に、王太子様は優しい人だ。
「それで…明日の転移は、アラスターに付き添ってもらう事になったからよろしくね」
「──────はい?」
第二王子の説明では、私の付き添いには王城付きの魔道士が付く事になっていた筈なのに……どうしてヴェルティル様が!?
「俺では不満?」
「ふ──不満なんてありません!ただ、迷惑を掛けっ放しで申し訳無いと───」
「迷惑だと思っていないから大丈夫。それに、色々あって心配だから、トルガレント迄付き添わせて欲しい」
「宜しくお願いします!」
「うん。良かった」
ー誰か、私を殴って下さい!ー
1年後にはリリアーヌ様と結婚するのに。距離をとらないといけないのに。心地良い低音ボイスで微笑まれたら……断れる訳がない!
ー私も第二王子並にチョロいのかもしれないー
お茶会が終わった後、リリアーヌ様はカシオス邸へ、メグは王城にある部屋へと帰って行き、私はそのまま庭園を散歩する事にした。
その庭園で目にしたのは、ピンク色のマーガレットだった。
『このピンク色のマーガレットが、可愛くて大好きなの』
「……ポレット………」
思い出した。ピンク色のマーガレットは、ポレットが好きな花だった。だから、アーティー様にお願いして庭に植えてもらったのだ。そのマーガレットを、元気になったら見に行こうと言っていたのだ。
「明日、1輪ぐらいなら…お願いしたら貰えるかしら?」
「1輪だけじゃなく、花束にするように言っておこうか?」
「え!?あ!王太子殿下!!」
慌てて頭を下げようとすると「堅苦しい事は要らないから、楽にして」と言われて、そのまま少し話をする事になった。
「クレイオン嬢は、この花が好きなの?」
「そう…ですね。もともとは…私のこど──妹?みたいな子が好きな花だったんですけど、一緒に見ているうちに好きになったと言う感じです」
「そうなんだね…」
そう言えば、アーティー様からですと言われて、毎朝薔薇の花が部屋に届いていたっけ。エリナが薔薇の香りが苦手だった事は、知らなかったのだろう。
「シーフォールスに戻るのなら、そのご令嬢には今回は無理だけど、クレイオン嬢は好きなだけ持って行ってもらっても良いよ。庭師に話をしておこう」
「あ…ありがとうございます」
ー妹─ポレットにはもう、二度会う事はできないけどー




