29 色々増しています
この1年で更に男前度合いが増してませんか?
心地良い低音ボイスも、更に響きが良くなってませんか?
その微笑みは───
圧がたっぷり含まれてませんか!?
「えっと………どうしてヴェルティル様がここに?」
第二王子もここに居るのはおかしいけど、聖女メグの後見人だから、メグの付き添いとして来たのだろう─と言う理由がある。でも、ヴェルティル様は王太子の側近だ。第二王子に付き添う必要は無いし、メグに付き添う必要もない。
「俺がここに居ると、何か不都合な事がある?」
「いえ、ありません!全く!」
「それとも、俺とは会いたくなかったとか?メグやヒューゴとは会えて嬉しそうだったけど?」
「いえ!勿論、ヴェルティル様と会えて……嫌だなんて思ってません!」
「そう?なら良かった」
「「「……………」」」
ーあれ?ヴェルティル様って……こんな人だった?ー
いつどんな時も爽やかな笑顔を向けてくれてなかった?こんな圧のある笑顔は、特訓の時のお母様の笑顔以来ではないだろうか?お母様のあの笑顔は、本当に怖ろしかった。
挨拶をしなかった私も悪いのだけど…ここまでキレられるとは思ってもみなかった……。
「あの…本当に、挨拶もせず頼まれた事も放り出してしまって、本当にすみませんでした!」
ヴェルティル様が伯爵令息であろうが、私が侯爵令嬢であろうが、私が悪い事に変わりはないと、頭を下げて謝る。
「────すまない……別に……責めてる訳じゃないんだ……」
ーいえ……がっつり責められてますよ?ー
「あー……っと……そうだ!メグ、シーフォールスの聖女の記録書が、ここにもあるそうなんだが、見に行ってみるかい?」
「そ…そうですね!見たいです!今すぐ!」
「え?は?今すぐ!?それおかしくな───」
「そうですね、明日にはここを発つ予定だから、今すぐ見に行った方が良いですね」
ー何で!?ー
“行かないで!”
と言う願いをたっぷり込めて第二王子とメグに視線を向けると、“頑張れ”みたいな視線を向けられただけで、2人はそのまま部屋から出て行ってしまった。
「「………」」
ーそうだ。第二王子よりヴェルティル様の方が上だったんだっけー
「はぁ──取り敢えず…座ろうか?」
「はい………」
それから、本邸の使用人を呼んでお茶の用意をしてもらった後、扉を半分開けた状態にして、2人でお茶をする事になった。
ー取り敢えず、念の為にと魔法を掛けていて良かったー
何かあってはいけないと思い、番を認知できない魔法を掛けていたのだ。そのお陰で、ヴェルティル様と2人きりになっても本能が暴れる気配はない。違う意味で心臓がバクバクと騒いではいるけど。
兎に角、ヴェルティル様は相変わらずカッコイイ。
「それで、どうして急に学校を辞めて辺境地の騎士に?」
お互いお茶を飲んで一息ついてから話を始めた。
「もともと、学校を卒業したらギルウィット辺境地の騎士団に入団する予定だったんです。ただ…予定よりも早くに第二次成長期を迎えてしまったので、それを機に、入団を早めたんです」
嘘ではない。番であるヴェルティル様から逃げたかったから─とは絶対に言わないけど。
「あぁ、確かに、平均的な年齢よりも早く迎えてしまってたね。本当に、それには驚いたけど……」
「私の夢が、より早く立派なギルウィットの騎士になる事でもあったので…両親に相談して1年早く卒業する事にしたんです。メグの後見人でもある第二王子から許可が得られなければ我慢するつもりだったんですけど、許可が得られたので……」
「なるほど…アラール殿下が………」
ーあれ?マズい事を言ってしまった?第二王子、すみませんー
「でも、まさか自分が交換訓練生として、シーフォールスの辺境地に行くとは思ってもみなかったので、ここまで疎遠?になるとは思ってなくて……本当にすみませんでした」
「あー…もう謝らなくて良いから。俺も…大人気ない態度をとってしまって申し訳ない…」
と、ここでようやく圧の無い笑顔のヴェルティル様になった。
「いえ………あの……リリアーヌ様は…お元気ですか?」
「ん?リリアーヌ?元気にしてるよ。毎日幸せそうだし……」
「そうなんですね」
「リリアーヌは────」
「アラスター様!!本当に居たんですね!」
「「っ!?」」
半開きとは言え、ドアをノックする事も声を掛ける事もなく、大声を出しながら部屋に入って来たのはユラだった。
「ここの使用人から、葵色の髪のイケメンが居ると聞いて、まさか─と思って来てみたけど……本当にアラスター様だったんですね!」
「ユラ…………」
ユラは相変わらずのようだ。
この世界に来てから1年以上経つのに、この世界ではなく元の世界と同じ様に過ごしている。
ーん?ー
ユラも、リューゴ商会の一員として来たのであれば、何故今迄ヴェルティル様の存在に気付かなかったのか?
「…………」
ーまさか………ー
ヴェルティル様に視線を向けると、圧のある微笑みを浮かべていた。




