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25 交換訓練生1年

「何言ってるのよ。リュシー本人の努力があってこそよ」

「ま、色々大変だっただろうけど、トルガレントに馴染んでくれて良かった。取り敢えず、1年お疲れ様」

「ベリンダ、ワイアット、ありがとう」


それから私達は、夜遅くまで食事をしながら会話を楽しんだ。





******


「それじゃあ、また来週からよろしく」

「帰りは気を付けてね」


店を出た後、ベリンダとスタンと別れて歩き出す。


「送ってもらわなくても大丈夫よ?」

「うん、それは十分分かってるよ。ただ…俺も伯爵家の一員として教育を受けたから、侯爵令嬢を1人で夜道に放り出すなんて事はできないからな」

「──で?その実は?」

「あの仲の良い2人と一緒に居るのが居た堪れない

んだ!」

「なるほど、それなら仕方無いわね…ふふっ」


ベリンダとスタンとワイアットは、幼馴染みと言う事もあって家が近い。私はユーグレイシアから交換訓練生として来ている為、トルガレント辺境伯が所有している別邸に滞在している。そこには、私を含めて5人いるが、組んでいるメンバーではない為、一緒に行動する事があまりない。時間が合えば一緒に食事はするし話をしたりもするが、お互い組んでいるメンバーと過ごす時間の方が多い。

その私が滞在している別邸とワイアット達の家は、今出て来たお店から真反対の位置にある。『もう遅い時間だから、送って行くよ』と、ワイアットはよく私を送ってくれる。送ってもらわなくても大丈夫な程私は強いけど、ベリンダとスタンが、2人きりになれる事が嬉しい─と、全く隠す素振りも見せず嬉しそうな顔をするから、スッパリ断る事もできずにいた。でも、どうやらワイアットも()()()()()ようだ。


「本当に、あの2人は仲が良いわね。昔からなの?ワイアットは…寂しかったりしないの?」


3人と言う数は微妙だ。どうしたって、1人になってしまうのだから。


「あの2人は昔から本当に仲が良かったな。喧嘩をすると派手にやるけど、その分また仲が深まってる感じだな。んー…寂しいと思った事はないな。ベリンダを女性と意識した事はないし、スタンも俺に対する態度は変わらないから」

「そうなのね。ワイアットには恋人や婚約者は居ないの?」

「婚約者は居ない。恋人も、学生の時は居たけど、卒業と共に別れたし、その子はもう結婚してる」

「えー……」


それはつまり、ワイアットの学生時代の恋人には、婚約者が居て、卒業と同時に捨てられた─って事だよね?


「泣いて良いわよ?独りにした方が良い?」

「泣かないし、そんな配慮は要らないからな!」

「ふふっ…冗談よ………ふふっ…」

「納得いかないが……そう言うリュシーはどうなんだ?侯爵令嬢ともなれば、婚約者が居てもおかしくないだろう?」


確かに、ユーグレイシアでは、高位貴族であれば居てもおかしくないけど、私にはトラウマがあったりやらかしたりもしているから、両親は私には婚約の話を進める事は一度もなかった。勿論、兄や姉には婚約者は居るけど、その相手は兄達と恋仲になった人達だ。


「幸いな事に、私の両親は恋愛結婚主義だから、婚約者は居ないわ。これから先の事は分からないけど、今は恋愛よりも訓練に集中したいかな?」


そう口にしながら、チラッと頭の片隅に現れたのはヴェルティル様だ。遠く離れて1年経っても、まだ私の中で存在しているようだ。


「後2年か………」

「ん?何か言った?」


ワイアットがボソッと何かを呟いたけど、うまく言葉を聞き取る事ができなかった。どうやら、ヴェルティル様が絡むと、意識が散漫になるようだ。


「いや、何も……ところで、週末は休みだけど、何か予定はある?」

「うん。この週末はやる事だらけで大変なのよ」

「そうか……あー、合宿明けで体は疲れてるだろうから、無理はするなよ」

「ありがとう」


丁度、このタイミングで私の滞在する別邸に辿り着き、ワイアットにお礼を言うと、ワイアットはまた来た道を戻って行った。


ーあの2人の間に入りたくないとは言え、本当に律儀だよねー


私を送って行くフリでもして、ズラして帰れば済むのに、本当に態々送ってくれるのだ。


自分よりも強い女性を───


ワイアットがモテるのがよく分かる。男前だし(まだ見習い生だけど)騎士だし、優しい。でも、私の心が動く気配が無い。


「………もう…枯れた?いや、そんな事はない!筈!」

「何1人で叫んでるんだ?」

「うわあ──っ、ハーヴィーさん!な…何もありません」


私と同じ交換訓練生の1人で、私より五つ年上の先輩騎士だ。


「あ、3日間の合宿お疲れ様。ほら、迷惑かけないように邸に入ろうか」

「はい!!」


クスクスと笑うハーヴィーさんと一緒に、私は邸の中へと入った。




******


「そうそう。今日、団長から聞いたんだけど、来月、ユーグレイシアの商団が来国するらしくて、俺のグループが出迎える事になったんだ」

「どこの商団ですか?」


友好国であるから、商団が海を超えてやって来る事は珍しくはない。


「名前は聞いてないけど、母国の商団だから、買い物ができるように取り計らってくれるらしいよ」

「えっ!?それ、すごく良いですね!」

「だよな!!」


どこの商団が来るのかは分からないけど、久し振りに母国の物が買えるのは、本当に嬉しいし楽しみだなぁ!






なんて、その時は素直に喜んでいた私が……確かに居た。



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