22 結星
「恵には友達が居ないから、入れてあげても良い?」
「本当に結星は優しいよね。あんな子放っておけば良いのに…」
「そんな事言わないで。恵は本当の両親が早くに死んじゃって、寂しい思いをして可哀想な子なの」
「だからって、我儘し放題は駄目でしょう?本当に──」
恵は、本当に可哀想な子だった。両親は早くに病死して、育ての親はマトモに恵の世話をするような人達ではなかった。実の子が1人居て、その子はいつも綺麗な服を着ていたけど、恵はいつも着古したような色褪せた服を着ていた。見た目も私と同じ年齢の筈なのに、痩せ過ぎていて小さかったから、私よりも年下に見えた。
ー何て可哀想な子なんだろうー
それから、私は恵を誘っては私達の輪の中に入れてあげるようにした。
「結星は優しいよね」
そう言われるのも嬉しかった。
******
「九十九さんって、よく見たら可愛いよな?」
「分かる!あの小ささがまた可愛いよな」
「…そうだね………」
確かに恵は可愛い…と思う。思うけど──
ー何かが気に入らないー
恵が可愛いと言ったのは、私が良いな─と思っていた男子だった。
「恵は異性に慣れてないから、あまり話し掛けたりしないであげてね。何となく…男の子が怖いみたいなの」
「そうなんだ。怖がられてるなら近付かないようにしとくよ。上条さんは、気が利くよな」
「……ありがとう」
嘘は言っていない。だって、恵が男子と話している所を見た事がないんだから、恵はきっと、男子が苦手なんだ。それに、毎日が色々大変で恋愛なんてする暇はないだろうし。何より、彼に恵は不釣り合いだ。恵に似合うのは、おとなしい感じの子だ。
ー私が恵に合った子を選んであげないとー
それでも、たまに恵が可愛いと言う男子が居た。それがまた、女子から人気がある男子だったりして、ますます気に入らない。何故恵ばかりが可愛いと言われるのか──
******
そんなある日、下校途中で私の前を歩く恵を何となく見ていると、恵の足下が光出して、恵がその光に包まれて行くのを見て、何故か咄嗟に駆け出して、私もその光の中に飛び込んだ。
「恵!」
「えっ!?結星!?」
「「きゃあ───っ!!」」
あまりの眩しさに目をギュッと閉じて、お互い抱き合ったままその場にしゃがみこんだ。
そして、次に目を開けると、そこは日本でも地球でもない別の世界だった。
ーあの時、咄嗟に駆け出した自分を褒めてあげたいー
恵だけが聖女と言う事には納得いかないけど、私は私で良い待遇を受ける事になったから良しとする。
それに、この世界には本物の王子様が存在するし、私の周りには日本のイケメンが霞む程のイケメンが沢山居る。貴族の殆どがイケメンだ。そのイケメン達は、優しいし私の話やお願いをよく聞いてくれる。
だから、相変わらずなメグの為に、メグが過ごしやすいように、後見人であるアラール様に色々とお願いをしてあげた。
学校の友達にも、メグは人付き合いが苦手だから近付かないで─とお願いしておいた。
城に居ても、私がメグと一緒に居る事は殆どない。最近では、週末の聖女の訓練をしていならしいけど、その週末でさえ、私がメグと顔を合わせる事はない。きっと、メグは聖女の訓練に疲れて、今はリュシエンヌやモニカと遊んでいるんだろう。
ー私を除け者にしてー
メグはこの世界に来てから、自分が聖女だからと少しお高くなって来ている。日本で私がメグの為にどれだけ気を使ってあげたのか…忘れてるんじゃない?
「ユラ、少し話があるんだ」
「アラール様!何ですか?」
アラール様は、この国の第二王子で、私のお願い事は何でも聞いてくれるイケメンだ。
そう思っていたけど──
何故か、私は聖女メグの侍女と言う肩書きが無くなり、ただの付き添い人扱いとなった。事情が事情だけに、城から放り出される事はないし、働かなくとも楽に暮らせていける事に変わりはないけど。
ただ、それ以降、アラール様が無条件に私の言葉を信じてくれる事がなくなってしまった。私の言葉を信じてくれるのは、学校の友達だけになった。リュシエンヌとモニカは、相変わらず私とは距離を置いている感じがする。
何より気になるのが…アラスター様だ。
少し冷たい印象のある青色の瞳と、葵色の髪がよく似合うイケメン。どうにかして、彼に近付く事はできないかなぁ?リリアーヌなんかより、私の方がよっぽどアラスター様にお似合いだと思うのに─そんな風に考えながら歩いていると、城の廊下の先に、そのアラスター様の姿が見えた。声を掛けようと近付いて行くと──
「─────ね」
「──────だろう?」
アラスター様だけではなく、リリアーヌも一緒に居るようで、私は2人に気付かれないように身を隠して耳を立てた。
「それで、これからどうするの?」
「勿論、必ず毛並みの綺麗なシロを手に入れる」
「自信満々なのね」
「何よりも欲しいモノだからね」
“毛並みの綺麗なシロ”
それは一体何なのかは分からないけど、アラスター様がどうしても欲しい─手に入れたいと言うモノなんだろう。
「………」
もし、それを私が見付けてアラスター様にあげれば…
「ふふっ……」
メグの事は取り敢えず置いといて、私はこれからの事を考えながらその場を離れた。




