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2 プロローグ②

公爵家での私への待遇は良いものだった。


表向きは──


勿論、アーティー様は私には優しいし、両親である公爵夫妻も私にはとても優しくしてくれた。


ただ、彼らが居ないところでは、私は周りからは常に見下されていた。



『アーティー様の番が貧弱な人間だなんて…跡継ぎが生まれても微妙だな』

『しかも、男爵令嬢でしょう?』

『ご立派なアーティー様にとって、唯一の汚点にならなければ良いけど』


ー獣人にとって、番とは大切にされる存在ではなかったの?ー


確かに、獣人は人間よりも身体能力が優れていて、獣人が人間を見下すと言う事はよくある事だ。そんな理由で100年程前迄は、獣人と人間は争いを繰り返していた。平和条約を結んだ後、少しずつそう言う風潮も無くなって来てはいるが、完璧に無くなった訳ではない。それは特に、貴族の中では未だに残っているのだ。



それでも私が耐えれたのは、アーティー様の優しさがあったからだ。でも、私はどうしても…アーティー様を好きになる事ができなかった。


ーアランー


本当なら、卒業後に結婚して子爵家で暮らす筈だった。大好きなアランと一緒に。


「アラン………」


最後に挨拶がしたかった──


「そんなにも…アラン(あの男)が気になるのか?まだ、あの男の事を…」

「っ!アーティー様!?ちが─」

「エリナは私の番だ!誰にも渡さない!」

「アーティー様!!」



それから、私はアーティー様と結婚する迄の3ヶ月の間、公爵家の地下にある部屋に閉じ込められた。勿論、牢屋ではなく、男爵家での私の部屋よりも豪華な部屋で、毎日豪華な食事が出された。ただ、その部屋から出る事は一切禁止された。

それは、獣人の番への執着心の表れだった。


それからは、ただその部屋で過ごして、その部屋にやって来るアーティー様と食事をしたりお茶をしたり…アーティー様と私付きの侍女以外の者が、その部屋にやって来る事は一度もなかった。



それから3ヶ月後。予定通り、結婚式が執り行われ、アーティー様と私は夫婦になった。その日から1週間は地下の部屋で2人だけの時間を過ごし、1週間後にようやく地上にある部屋へと移る事ができた。



それから更に3ヶ月後に妊娠した事が判明し、アーティー様も公爵夫妻も喜んでくれた。


ただ、私の心は少しだけ……穴が空いたままだった。


それから、生まれて来たのは双子の兄妹だった。


その子達には獣人特有の耳と尻尾があった。



『流石は()()()()()()()()だ。立派な獣人になるでしょう』


これは、私への褒め言葉でない。寧ろ、私を見下しているのだ。



“アーティー様の子()()()立派な獣人になる”



それでも、アーティー様と公爵夫妻はとても喜んでくれて、更に私を大切にしてくれるようになった。


「ポレットはエリナに似て可愛いらしいな。ユベールは……私に似ているな」


アーティー様は、双子をとても可愛がってくれた。

正直、出会いは本当に最悪だった。公爵家(ここ)に来てからも最悪だった。“番”を免罪符とした人攫いだと思っていた。本当は、今でも逃げられるならここから逃げ出して、お父様とお母様と……アランの元に帰りたい。

自分が生んだポレットとユベールを愛おしく思ってはいるけど、耳と尻尾を見ると、自分だけが違う人間なんだと思い知らされるのも事実で……辛くないとは言い切れない。


「エリナ、本当に、我が子を生んでくれてありがとう」

「……アーティーさま………」


それでも、ただただ、このアーティー様が私に向けてくれる笑顔と言葉だけは信じられるようになった。きっと、これからも辛い事があるだろうけど


ーアーティー様と子達の為に頑張ろうー





******



「どうして父上の番が人間だったんですか!?」

「どうした?ユベール」


それは、子達が学校に通い出してから1週間程経った頃の事だった。


「学校で、父上の番…母上が人間だから、僕は立派な騎士にも公爵の跡継ぎにもなれないと言われました!人間の血が入っているから、獣人としては欠陥品だと……」

「ユベール!!お前は何と言う事を!」


ーここ数年は穏やかだったから、すっかり忘れていたー



獣人にとっての特別な存在だと言われる番で、跡継ぎを生んでも、結局私は……私でしかなかったのだ。



番だからと言って、私に何があった?


我が子が周りから見下され、その我が子から疎まれてしまった


私は一体、なんの為にここで頑張って来たのか


頑張る意味は──あるのか?




そこからは()()()()





******



「お母様…もうそろそろお庭のお花が綺麗に咲くわ。咲いたら、また一緒に庭でお茶をしましょうね」

「そうね……」


ベッドで横たわっている私の手を握って話し掛けてくれるのは、20歳(はたち)になったポレット。そのポレットは、目にいっぱいの涙を溜めている。


私は、自分の存在意義が分からなくなり……底なし沼に嵌ってしまったように…病んでいった。

もう、この半年は起き上がる事もできなかった。


ユベールは学校卒業後は騎士団に入団し、そのまま騎士寮に入る事となり、殆ど顔を合わせる事はなかった。


ーそれで良いのよ……ー


「お母様………」


ポレットとアーティー様には申し訳無いけど、これでようやく──


「ポレット……愛しているわ………」

「お母様!」

「エリナ!」



アーティー様『愛してます』と言えなくてごめんなさい


嫡男のユベールが家を出てしまってごめんなさい


ポレット、約束を守れなくてごめんなさい


私が人間でごめんなさい


私が……番で………ごめんなさい




番なんて──────




そうして、私─エリナは40年に足らない人生を終えた。



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