14 番から逃げる準備を始めました
「モニカおはよう。昨日はありがとう」
「おはようリュシー、大丈夫なの?」
翌日、いつもより早目の時間に登校すると、昨日のうちに連絡をしておいたモニカが既に教室に居た。
「うん。取り敢えずは大丈夫。また詳しい話をしたいんだけど、今日、学校が終わったらウチに来てくれない?」
「大丈夫よ。それに、明日は週末で休みだから、久し振りにお泊りしようかな?」
「あ、それ良いわね!モニカならいつでも大歓迎よ」
と言う事で、今日の学校が終わったら我が家でお泊りをする事になった。
登校するのは緊張したけど、今日はリリアーヌ様とヴェルティル様は学校には来ていないらしく、少しだけホッとした。
*クレイオン邸*
急なモニカのお泊りでも、お母様は喜んで受け入れてくれた。お父様とお兄様は仕事で不在だったけど、お母様とお姉様達と5人で夕食を食べた。
そして、夕食後はお菓子とお茶を用意してから、モニカと2人で部屋へと戻って来た。
「えっと…どこから話そうかな……」
「今日は学校に来ていたけど、大丈夫だったの?ヴェルティル様が休みだったから良かったけど…」
「あ、先ずはそこからよね。私、今は番を認識できない状態になってるの」
「認識できない??」
モニカがキョトンとしているのは、仕方無い。私だって、聞いた時は信じられなかったから。
私が番に対してトラウマがあると知ったお父様が、もしもの時の為に、知り合いの人間の魔法使いに番を認識できなくなるような魔法は無いのか─と、相談していたそうだ。それから、お父様とその知り合いの魔法使いは、色んな魔法を創作しては失敗を繰り返し、5年程掛けてようやくその魔法を完成させていたのだ。
ただ、その魔法は一時的な使用に限られている。
番の存在は本能で感じられるものである為、無理矢理抑え込み続けると、どうしても体や精神にも不可が掛かってしまうらしい。
『だから、結局はこの魔法を使っている間に、その番から逃げる!しかない』
と言う事になった。そもそも、この魔法は、“番を認識できる獣人”ではなく、“番を認識できない人間”が番に認識されないようにする為に使う魔法を元に作られた物なんだそうだ。そう、エリナのような人を護る為に作られた魔法だ。300年前にあったなら、エリナもアランと幸せになれただろうか?
「それでね、私、第二次成長期を終えて、大人になったでしょう?」
私の第二次成長期は、獣人の平均的な年齢よりも4年程早かった。それでも、早く大人になったとしても、大人は大人だ。全てに於いて成人した者と見做されて、独り立ちが可能になる。
「だから…学校も後来年度の1年あるけど、この2年生で卒業するわ」
もともと、学校を卒業した後の進路は決まっていた。ただ、それが1年早くなっただけだ。家族は勿論知っているし、モニカも知っている事だ。
「もう、決めた事なのね?」
「うん…ごめんね…メグとユラの事も、途中で放棄する事になるけど」
「謝る必要はないわよ。好きな人が番だったなんて言う奇跡を手放すんだもの…余程の覚悟がないとできない事を、リュシーはするんだもの。ただ、いつでもすぐに会えるって事ができなくなる事が寂しいけど」
「私も、それだけは寂しいわ」
モニカとは、10歳からの付き合いだ。お母様に連れられて行ったお茶会で知り合って意気投合して、お互いの家を行き来して遊んでいた。同じ年だったから学校も一緒でクラスも一緒でずっと一緒に居た。
「よし、残りの学生生活の数ヶ月は、いっぱい思い出作りをしよう!」
「賛成!!」
「あ!そうそう。メグ達の事があったから、お父様と番の事は話さずに第二王子に会って来たんだけど…私が2年で卒業する事は、他言しないようにって言われたの。それで、モニカだけは─ってお願いして。だから、リリアーヌ様やヴェルティル様やスタンホルス様にも内緒でお願いね」
「そうなの?何故かしら?」
それは、私も不思議に思った事だ。リリアーヌ様達にはメグ達の事があったから、迷惑を掛けない為にも伝えておいた方が良いと思っていたのに。今後の進路の話をした時、第二王子の顔色が心なしか悪くなって引き攣っていたのも気になる。まぁ…メグ達のサポートを途中放棄する事に対して、良く思ってないからだろうけど。兎に角、後見人である第二王子の許可が得られて良かった。ただ、リリアーヌ様達に直接挨拶をする事ができないのは申し訳無い事だけど。
「それじゃあ、今からお菓子を食べていっぱいお喋りして夜更かしして、明日は遅起きしてから街に出掛けるわよ!」
「それ、良いわね!」
そうして、モニカと私は夜遅くまで喋り倒し、翌日はお昼前に起きて、そこから街で食べ歩きながら買い物を楽しんだ。
こうして、私─リュシエンヌ=クレイオンは、大好きな番─アラスター=ヴェルティル様から、逃げる準備を始めました。




