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13 喜びと恐怖

「それで…クレアお姉様から、何をお願いされていたの?」

「リュシーが、ヴェルティル様が番だと気付いた時、何も言わずに家まで連れて帰って来て欲しいって。リュシーは、番の存在を怖れているだろうからって」

「クレアお姉様………」


あの8歳の時のパニック行動の時に、咄嗟についた嘘─


『番に閉じ込められて独りぼっちになって、怖くて逃げ出した』


と、大泣きしながら話した。だからだろう。その日以来、クレイオン家で番の話が出た事は一度も無い。外で番と言う言葉を耳にするだけでも、私の体が強張ったりしていたのも、気付かれてもいた。


「番の存在が怖いと言っても、相手がヴェルティル様なら怖くないんじゃないか─って思ってたんだけど…」


モニカの言葉に、頭をフルフルと横に振る。


「番がヴェルティル様だからこそ、私は余計に怖いわ……」


ヴェルティル様は伯爵家の次男で、私は侯爵家の令嬢だ。クレイオン侯爵(お父様)が『アラスター=ヴェルティルは、リュシエンヌの番だ!』と言って婚約を迫れば、伯爵は断る事はできない。そうなれば、リリアーヌ様とヴェルティル様の仲を引き裂く事になる。





『エリナ』

『アラン』




結婚目前だった。とても幸せな日々だった。



『見付けた!』



その一言で、全てが変わってしまった。


確かに、アーティー様には愛されていたと思う。でも、エリナ()はいつも孤独だった。泣く事も逃げる事もできずに、狭い世界でだけで過ごした日々。何とか踏ん張っていたモノは、我が子の一言で崩れ去り、そこからはあっと言う間の人生だった。


今世で獣人だった事はショックだったけど、家族や友人に恵まれて、獣人のリュシエンヌ(自分)を受け入れられたのに。私はただ、普通に恋愛をして結婚して、幸せになりたかっただけなのに。


ー“番”に縛られたくないー


「モニカ…ごめんなさい。私……暫く学校を休むわ。何とか……番に反応しないようにする方法を探してみるわ」

「リュシー……分かったわ。リュシーが居ないのは寂しいけど。メグとユラの事なら大丈夫よ。もともと、ユラは私達のサポートは必要無さそうだし、メグも全く問題無いからね。だから、リュシーも無理だけはしないでね」


モニカがギュウッと私に抱きついて、背中を優しくポンポンと叩くその優しさが、心を落ち着かせてくれた。







******



「リュシー、大丈夫?」

「クレアお姉様!」


モニカが帰った後、自室のベッドに潜り込んでいると、仕事から帰って来たクレアお姉様が、私の部屋に来てくれた。


「モニカから連絡があって…」

「クレアお姉様、ありがとう」


あの時、モニカが居なかったらどうなっていたのか─


アーティー様のように、強制的にヴェルティル様を連れ去ると言う事はできなかっただろうけど、本能のままに行動してしまっていたかもしれない。


「番と出会えるなんて、獣人としては喜ばしい事なんだろうけど…相手が人間となれば複雑ね…それに、リュシーは番に対してトラウマがあるから…でも、実際、番を認識してどうだった?やっぱり駄目?」


実際、番を認識してどうだったか?と訊かれれば、正直、認識した瞬間は心は喜びで満たされた。でも、それは一瞬にして恐怖へと変換された。


大好きだったアラン(婚約者)とは、お別れも言えないまま婚約解消になった。私がアーティー様の番だっただけで。どうして私が番だったのか─と、最期は自分を恨みさえした。


それなのに──


今世では、私がアーティー様の立場になってしまった。ただ、ヴェルティル様(好きな人)を見ているだけで良かったのに。ヴェルティル様がリリアーヌ様と幸せになってくれたら─と願っていただけなのに。


「私は、ヴェルティル様が好きだけど、リリアーヌ様との仲を裂いてまで一緒になりたいとは思わない。番だから─と言う理由で手に入れたいとも思わない。でも、ヴェルティル様に会ってあの香に反応してしまったら、本能を抑えられるかどうか…自信がない…いっその事…学校を辞めるとか……」

「リュシー、ちょっと落ち着きなさい」

「はい…………」


取り敢えず、夕食の時間になった為、先にご飯を食べる事にして、これからの事は食後に家族皆で話し合う事にした。




******


「アラスター=ヴェルティルが番だった!?」

「第二次成長期を終えて、大人の準備が整ったから、番を認識できるようになったのかもしれないわね」


食後、皆でサロンへと移動して番の話をすると、お父様は叫んだ後固まり、お母様は固まったお父様の背中を撫でている。


「私、番だからって、恋仲だとされている2人を引き裂いてまで一緒になりたいなんて思わないから…だから、いっその事学校を………」

「辞める必要はないよ」

「え?」


さっきまで固まっていたお父様が、ようやく我を取り戻したようで、驚くべき話をしてくれた。



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