11 メグとユラ
「メグ様もユラさんも成績は優秀で、問題無くリュシエンヌとモニカと同じAクラスの編入となったから、2人の事はお願いね。ただ、メグ様は大丈夫なんだけど、もともと、言語は全く異なるようで、会話は特に問題無いのだけど、ユラさんは読み書きはまだ基本的な事しか分からないから、その辺りは気を付けてあげて欲しいの」
2人のその違いは、もともとこの世界の人間だった筈のメグと、巻き込まれただけの人間との違いなのかもしれない─と言う事なんだそうだ。
メグは光属性が発現したばかりの平民で、聖女となった為に“ツクモ”と言う家名を付けられたと言う設定。
ユラは、メグの幼馴染みで、今回聖女となったメグの為に一緒に王都へとやって来た付き添い人と言う設定で、既に子爵家との養子縁組が済んでいるそうだ。聖女の付き添い人─侍女的な立場になるなら、子爵以上の令嬢であった方が良いからだろう。
2人とも、王都から離れた領地から来ている為、王城で暮らす事となり、学校へは王城から通う事になった─と言う設定。王城と学校は徒歩でも行ける距離だけど、警護の都合上で馬車での登下校となっている。だから、私とモニカが2人をサポートするのは、基本は学校内だけとなる。
放課後については、警護担当者や第二王子に申請すれば、街で買い物やお茶をする事もできるそうだ。
「聖女としての務めもあるから、毎日遊ぶ事は難しいでしょうけど、1人の女の子としては、色々遊んだり楽しんでもらいたいわよね」
異世界では、良い待遇ではなかったと言っていたから、これからは楽しい事が増えれば良いな─と思う。食事に関しても、特に嫌がっでいる事もないようだから、美味しい物を食べ歩くのも良いかもしれない。
「そうそう。ここ最近は別件で忙しくて今日もここには来れなかったのだけど、アラスターもリュシエンヌに会いたがっていたわ」
「そう…なんですか?」
ーそれが本当になら嬉しいけど…ー
「アラスターを見掛けたら、声でも掛けてあげてね」
「…はい」
そう言ってニッコリ微笑むリリアーヌ様だけど、本心ではどう思っているのか……
それが本心か建て前なのかは分からないけど、私から声を掛けるのは控えた方が良いだろう。
この部屋に、微かに残っている香
それは、ヴェルティル様から頂いた手紙の香と同じ香だ。この部屋で、リリアーヌ様とヴェルティル様が一緒に居たと言う事なんだろう。それが2人きりだったかもしれないし、数人居たのかもしれないけど。お互い心を許し合っているような2人だ。そろそろ婚約の話も出て来るのかもしれない。
ー今以上、必要以上には近付かないようにしようー
獣人が故に、微かに残る香に気付いてしまう自分を恨めしく思いながら、私は紅茶を一気に飲み干した。
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メグとユラの学校生活は、最初こそは“聖女様だ!”と大騒ぎになったけど、リリアーヌ様とスタンホルス様の統率のお陰で数日で騒ぎも落ち着き、1週間も経てば平穏な日常に戻っていた。メグの控え目な性格のせいか、是が非でも─と言って突撃して来る者も居ない事は良かったと言える。そのメグとは反対に、ユラはいつも明るく元気で社交性もあるようで、クラスメイトとは気さくに話をしたりしている。ユラが、聖女ではなく子爵令嬢だから─と言う事もあるだろう。
「ユラはあっと言う間にクラスに馴染んだわね」
「楽しそうで良かったわ」
今もユラは、声を掛けて来た男子達と楽しそうに話をしている。
「元の世界でも、ユラは人気者だったから…ユラの周りには、いつも色んな人が集まっていて、いつも気を遣ってくれて、私もその中に一緒に入れてくれてたんだけど、私はなかなか打ち解けられなくて……それがまた申し訳なくて…」
打ち解けられないのは、仕方無いだろう。ユラはメグを気遣ってくれていたのかもしれないけど、どうしたって合う合わないはある。どんなに頑張ったところで、合わない人とは合わないのだから。
「ユラの心配りは良い事だと思うけど、ここではメグが無理をする必要はないわ。無理をして付き合ったところで、自分の心が疲れるだけだもの。心が疲れると魔力も乱れて病んでしまう事もあるから」
「そうなんですね……魔力持ちも色々大変なんですね」
そう、魔力持ちは大変だ。魔力が乱れると病む事もあるし魔力暴走を起こすと生死に関わったりもする。殆ど魔力を持たない獣人は、2回の成長期さえ乗り越えれば人間よりも健康的な身体を得られるのだ。
「あ、そうそう、忘れてたんだけど、今日の放課後、ヴェルティル様が学校に来るそうよ」
「ヴェルティル様が!?」
ヴェルティル様が学校に来るのは、本当に久し振りの事だ。最後に会ったのが、あの医務室迄運んでくれた時だったから、今の私の容姿になってからはまだ一度も会っていない。
ー遠くからでも良いから、見られたら良いなー




