表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
棲めば地獄  作者: 納戸
2/29

1.おばけなんてないさ-01

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。

 昔々、私たちが知り得ないようなずっと昔に、地獄と極楽は戦争をしたことがあるらしい。


 事の発端は極楽に住まう阿弥陀如来(あみだにょらい)が「閻魔王を追い落として、極楽を地獄に移す」と言ったことにあり、これに文殊菩薩が「昔は地獄も極楽も同じ領土であった」と同意したのが決め手であった。


 西方の大将に阿弥陀如来(あみだにょらい)、東方に薬師如来(やくしにょらい)、南方に宝生如来(ほうしょうにょらい)、北方に釈迦如来(しゃかにょらい)が就き、さらにはこれに密教の両界曼荼羅(りょうかいまんだら)も味方した。


 これを伝え聞いた閻魔王は地獄の存在意義を問われているとし、一線を交えることを決意するに至る。


 両者は激しい争いを繰り広げ、それは七日七晩に渡っても終わりの見えない始末であった。

 そこで大日如来は自らが統治する密厳浄土よりさらに兵を遣わし、結果閻魔王庁は炎上、地獄は仏たちに制圧されることとなる。


 こうして仏たちは地獄に対して多額の賠償金を求め、極楽浄土の維持費や仏の生活費を地獄の経費で賄うようにと取り決めた。

 それはもう仏とは思えないような搾取の有様だったらしく、こうして閻魔王の裁定により地獄での徹底した倹約が始まったのである。

 例えば、それまでは低級役人たちが懐に入れていた六文銭も閻魔王庁に収めることが義務とされ、極楽へ至る船は維持費が高くつくので陸路のみとなった。

 獄卒たちのトレードマークである虎の着衣も贅沢であるため猫の皮で代用されるようになったという。


 ここまでがあの世の話。

 そして、ここからはこの世の話。


 日本では第二次世界大戦後、1947年に第一次ベビーブームが巻き起こる。この年に生まれた世代を団塊の世代と呼び、さらにその後巻き起こった第二次ベビーブームに生まれた世代を団塊ジュニアと呼んだ。

 ベビーブームはここで終わらなかった。

 第三次、第四次、第五次と、とにかく日本の人口は増え続けた。小さな国はその小さな体に見合わない人口を抱えて飽和寸前に追い込まれてしまったのだ。


 浄土の維持費を支払うため多くの税を得たい閻魔王庁と、有り余る人口を抱えた日本国家の利害はここに一致したのである。


 私たち日本人は地獄への移住政策を決意した。


 どうやって契約を結ぶに至ったかを説明するのは割愛するが、とにかく時の総理大臣と閻魔王は「冥界特別戸籍移管条約」を結ぶに至った。


 この条約の基本的な性質は以下に上げる五つである。


 一つ、現世から移管された戸籍は鬼籍(きせき)と呼ぶ。

 一つ、鬼籍を得る者は特別な処置により現世での肉体を失うが、現世と冥界の行き来を許可される。

 一つ、鬼籍を得る者は居住地として現世を選択することはできず、またこの世のどんなものにも触れることは不可能となる。

 一つ、鬼籍を得たものも平均寿命に応じて死を迎える。ここに示す死とは現世との交流の停止、及び冥府での審判その後の転生手順への移行を示す。

 一つ、鬼籍を得る者は必ず自己の意志でその戸籍を移す必要がある。親族に関わらず、これを犯してはならない。


 私たち日本人はおよそ50年にわたりこの条約に則って苦難を乗り切ってきた。


 そう、これは遠い未来の、もしくはあったかもしれない現在の、世界と世界の約束の話である。


参考文献:加須屋 誠,地獄めぐり,講談社

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ