レッツクッキング
「ただいまー!」
「おう、おかえりー、お疲れ様」
レジでしっかりとレシートを貰うまでの心美の勇姿を見届けた後、心美にストーキングの事を悟らせぬため、一足先に自宅で待機するために全力ダッシュでアパートまで帰宅したおよそ五分後。膨らませた買い物袋を片手にぶら下げて心美が帰って来た。
「はい!お兄ちゃん、ちゃんと買ってきたよっ」
「お、どれどれ~?」
心美から買い物袋を受け取り、商品と一緒に入っていたレシートの内容を見ながら中身をしっかり確認する。
「…うん、しっかり全部あるね。よくやったぞ~心美ぃ~」
「えへへ~♪」
初めてのおつかいで失敗一つもせずに任務を遂行できた心美の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。ソレに対し心美は気持ち良さげに目を細め、ご機嫌良さげな声を漏らす。
あっは、やっべ、めっちゃ可愛い。もうこのまま寿命が尽きるまで撫で続けたい。
しかし勿論そういう訳にもいかないので、食材を持って台所へ向かう。
「さて、何を作ろう…」
現在手元にある食材は
・卵
・キャベツ
・牛乳
・豚バラ肉
・ニンジン
・納豆
・ネギ
…ざっとこんなもんか。あとは白飯があるくらいだな。調味料と調理器具は一通り揃っているのでその辺で困ることはとりあえず無い。
うーむ…とりあえず「納豆」はもうしばらく日持ちするだろうし、本当に何も無い時のための非常食にでもしよう。「牛乳」に関しては普通に飲む事にしよう。って事で残り材料五つ。
「…よし、決めた」
ここは無駄に見栄を張らず、簡易的な料理でやり過ごそう。という訳で
・卵
を使って適当に「オムレツ」でも作ろうと思う。そしてもう一品。
・キャベツ
・ニンジン
・豚バラ肉
あとはこの辺を使って美味しい野菜炒めでも作ろう。
焼いたり、炒めたりするだけの簡単な献立だ。いくら料理が下手なヤツでも食えないほど不味くなる結果にはならないだろう。と、信じたい。
☆●◇■△▼*▽▲□◆○★
「さて、とりあえず卵を解きほぐす」
カンッ
パカッ
カッカッカッカッカッカッ
ふむふむ実に順調だ。
「そしてぇ次にぃ!」
なぜかテンションが異様に高ぶった者の拳が天に向かって一つ。
「つっぎにぃーっ!」
二つ。
「ふぁっ!?」
「へ?」
いつの間にか背後…いや、正確には右斜め後ろに心美が立っていた。その姿勢は俺と同様、ガッツポーズをとるかの如く握りこぶしを天井向けて強く突き出している。
「い、いつの間にコッチに…」
さっきまでリビングのソファでゴロゴロしていたはずなのだが…。なんて気配を絶って背後に近づくのが上手い六歳児なんだ。
「わたしもつくるー!」
「…え」
「つーくーるー!」
「あー、わかったわかった一緒に作ろうか心美」
「やったー!」
正直若干不安ではあるが、少し手伝わせるくらいはしないと心美の気は収まりそうに無いようだ。ちょっと、いや、かなり早いが花嫁修業の一貫だと思えば良い。うむ。つまらない事で駄々こねられても困るしな。
「ふぅ…それじゃあ、そうだな…そこの塩と胡椒取ってくれ」
「うんっ!」
「あとは、そうだな…コレとアレをー」
そんなこんなで心美との共同作業が始まったのであった。
■△▼約十分後とか言っとけば良い▽▲□
「…あー…えーと」
「お兄ちゃん…卵ぐちゃぐちゃだね」
「これは…その…アハハ」
なんてことでしょう。
卵を使って美味しそうなふわとろオムレツでも作ろうかと思って、調理場に立ったのだが。現に出来上がったのはよくわからない暗黒物質。いや、そこまで黒くは無いので黄色物質とでも言ったところか…。
「うぅ…おかしいな。オムレツなんて簡単にパッと作れるモノかと思っていたが…火加減のミスか?…それとも」
「これがオムレツ…っていうの?」
ビクッ
うぅ…心美が若干恐怖を宿した瞳で皿の上のソレと俺を交互に見てくる。そんなに酷い見た目ですか畜生。
「あー、えっと…ナイショ!」
「えー!なにそれー!」
はい。無理矢理誤魔化しましたとさ。
この日は結局、あんなぐっちゃぐちゃに焼き上がった元ヒヨコの素なんかを心美に食べさせる訳にはいかず、(安定でクソほど不味かった)なんとか食べられる範囲内で仕上がった野菜炒めと白飯で時をやり過ごした。