凄い人
バイト店員の勤務時間が終わり、俺達は彼女の家に案内された。
クソほど汚かった。
そこそこ立派な大きさの家なのに、所々の壁は剥がれ落ち、割れていたり付いて無かったりで綺麗な窓は一つも無い。床には倒れた本棚やひっくり返ったソファ、色褪せた書類とゴミの入った袋が散乱していて床が見えない。廃墟と何ら変わらなかった。
「こっちなのです」
これまた汚い台所に案内された俺達。バイト店員が辺りに落ちてたバールのような物で床収納をこじ開ける。すると地下へ続くハシゴが現れた。
下に降りると、上の階とは比べ物にならない程綺麗な真っ白い空間が広がっていた。たくさんの棚と机が配置されており、難しそうな分厚い本があちこちにある。机上にはよく分からない色の液体や植物が入れられたビン。そして大量のフラスコや試験管。これはまるで…
「実験室…?」
「御明答なのです!」
バイト店員を見るといつの間にか白衣を着こなしていた。何かの博士か先生だったのだろうか。だが、見た感じ歳は俺と同じか、俺より若く見える。背も小さい、中学生くらいか。
「月神さん、この人ってもしかして子供なんじゃ…」
「あぁ、彼女は背が小さいうえに童顔だから、よく中学生くらいに間違われるんだ」
「そうですよね。ってか仕事してるんだから中学生な訳…」
「君と同じ十六歳なのにね」
「なっ!?同い年!?」
「そうなのです!!」
「うわっ!?びっくりした…」
バイト店員が俺達の会話に急に首を突っ込んで来た。
「私は僅か十六歳にして、裏では警察や特殊部隊のサポートをする天才科学者なのです!色んな薬をここで作ったり、逆に未知の物質を分解、分析したりもできる凄い人なのです!」
バイト店員は自慢げに胸を張って言い放つ。ってか、さっきから本当にあのバイト店員なのか疑わしくなるほどキャラが違うのですが。まるで二重人格だ。
「その通り。彼女は二重人格でね。表ではバイトに励む気弱な学生だけど、裏ではマッドサイエンティストとして活動しているんだ」
「へー、そうなんですねというかナチュラルに人の心読むのやめてもらっていいですかね」
俺達が話している間、バイト店員が部屋の端でカチャカチャと中身の入ったフラスコを弄っているのが目に入った。何か作ってるのだろうか。頼むから爆発だけはさせないでくれ。
というか、この人が超重要人物と言われるのが未だに分からない。何かの捜査に必要な人材なのか、それとも…
「グビッ…グビッ…」
(さっきのフラスコの中身飲んでるし…)
「プハーッ」と一息ついたバイト店員。空になったフラスコを置いて、再び何か混ぜ始めた。
実験に熱中する、楽しげな彼女の横顔。何だろう、どこかで見た事あるような。そんな気がする。
親じゃない。友達でもない。最近までもっと身近にいた…顔。
「さて、諸々を説明する前に。察しの良い君ならもう分かったんじゃないかな」
彼女の横顔が、遊びに夢中になっている時の心美の横顔と重なった。
「…まさか」
若くて発展途上。二つ。
竜太の言葉が脳裏にフラッシュバックする。
「そう彼女が…彼女こそが。篠原竜太に言っていた”協力者”。そして…」
「篠原亜美。篠原家の長女だ」




