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憎悪

「ふざけるなっ!!」


恋々美を捨ててから三日後。竜太にその事がバレた。数分前に竜太がウチに突然来た。「恋々美の様子を見に来た」と。

最初は施設に預けていると嘘をついたが、どこに預けたのかを問い詰められた結果、上手く返せず呆気なく真実を吐露してしまった。


「捨てただと!?連れて帰って来い!今すぐに!」

「…いない」

「あぁ!?」

「恋々美を置いてから…すぐに我に返って、迎えに行ったさ。でも、もう居なかったんだ」


これは本当だ。本当に恋々美はダンボールごとどこかへ消えてしまっていた。恐らく既に誰かに拾われた…保護されたのだろう。


「…クソ…クソクソクソクソクソクソ!」


竜太は頭を抱えてその場にうずくまった。その背中は俺達に訴えかけてるように見えた。

お前らのせいだ…と。被害妄想かもしれないが、確かにそう聞こえてしまったのだ。


「何だ…俺達だけの責任なのか…?」


俺は気づけば竜太の胸ぐらを掴んでいた。


「俺らは少ない年金暮らしなんだ!生きるのでやっとなんだよ!そこに仕送りも無しに「娘を預かってくれ」だと?施設に預けろだ?お前こそふざけるな!」

「お父さん!?やめて!」


京子の声で我に返った。が、竜太を離すより先に腹に激痛が走った。実の息子に、竜太に腹を思い切り蹴られたのだ。


「オヤジ…アンタに何が分かる?」

「ゲホゲホッ…ガハッ!?」


痛みに悶えていると再び腹に激痛。それもさっきの一撃よりも重いものが。竜太の顔を見る。冷たい。息子が親に向ける視線とはとても思えない冷たい視線だった。


「やめて…やめなさい!竜太!警察呼ぶよ!?」


”警察”という言葉を聞いたからか、竜太の目の色が変わった。そして怒りを向ける矛先も。

竜太は京子の腕を掴み、強引に家の台所へ連れて行った。嫌な予感がして腹の痛みに耐えながら俺も台所へ向かう。


「何するの!?竜太!話しー」


何か聞いた事の無い音がして、京子の声がピタリと止んだ。何が起こったのか分からない。俺は未だ地を這っていて二人の元へ駆けつけられずにいる。

そうこうしてる内に竜太が台所から出てきた。京子の姿は無い。竜太一人だ。竜太の足元に何かがピチャピチャと上から垂れている。赤い…何だろう。少し鉄臭いような気がする。


竜太の顔を見上げるより先に、俺の意識は途切れた。




「駄目だ…早く探さなきゃ駄目だ…早く…」


あの娘は人を殺している。それも自分の母親を父親の前で、だ。もし恋々美がその事を誰かにバラせば会社の信用が損なわれてしまう。恋々美が規格外の身体能力を手に入れたのはサプリメントの効果だろうからな。ただでさえ経営が厳しいんだ、これ以上余計な損失を出す訳にはいかない。


「…口封じしなければ」

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