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残酷

今回はR15かもしれないのでご注意ください。

「ママ…」


実験体が唯の頬に触れる。流れ出す雫に触れようとした。それだけだった。そのはずなのに。


「ぎゃあああああああああああ!!」


実験体の手は唯の頬を引きちぎっていた。

無くなったのは左頬。そこからおびただしい程の出血が始まる。唯は「痛い痛い」と泣き叫ぶしか出来ずにいた。あっという間に唯の真下の床は血で染まった。


「ママ…?ママ…!」


あまりの激痛にうずくまる唯。実験体は再び唯に触れる。今度は腕。唯の右腕だ。


「ここ…みぃい!?痛い!!痛い…!!」


実験体が今度は唯の右腕を引きちぎった。


「ぁ…ぁあ…」

「痛い痛い痛い!…助けて…痛い…」


実の母親を心配する娘。

助けを求める唯。


「ママ…ママ…!」

「恋々美…」


泣いた娘を見たが故の母性本能なのか、酷く錯乱していたのだろう。そこには利が一致する二つの意思が生まれていた。

泣いている娘を抱きしめたい母親と

苦しんでいる母親を助けたい娘。


二人は互いを抱き合った。

心配させないように。

安心させてあげられるように。

そして次の瞬間、唯は実験体に抱きしめられた事によって頭部を粉々に破壊された。


「マ…マ…?」


グチャッとみずみずしい音が響き、肉片が辺りに散らばる。実験体が問いかける。それに答える者はもういない。そこにあるのは片腕と頭の無い女性の死体だけ。肉体の切断面からは大量の血が飛び散って、死体を度々痙攣させている。


「ーーーーーーーーーーーーーーー」


それは声にならない叫び。嘆き。悲しみ。

少女の中の何かが崩壊する音が聞こえた。そんな気がした。声を枯らし切った実験体は一つの方向を見つめだした。ただ何かにすがるように、ハイライトの消えた瞳は絶望を象徴しながら光を求めている。

全身が返り血で染まり、吐き気を催す臭いを放つ。

小刻みに全身が震えているように見える。

実験体の唇がぎこちなく動いた。


「パ…パ…」


そして俺はその一部始終をただ目の前で観察していた。






☆●◇■△▼*▽▲□◆○★






「という訳でこの娘をしばらく預かってくれ」


俺は実験体の血を採取し、さっそく会社で詳しく検査する。体内の成分バランスがどう変化したのか。その間、とある人物達に実験体を預かってもらう事にした。怪しまれないようにシャワーを浴びせ、服も着替えさせてから。唯の死は一先ず隠蔽した。


「久しぶりに顔を出したと思ったら。何だ、急に」

「そうよ、せめてご飯でも食べて行きなさい?」


俺の実の両親。篠原正男(まさお)と篠原京子(きょうこ)だ。


「いや、いい。仕事が立て込んでるんだ。面倒なら施設に預けるなり、託児所使うなりしてくれ。それじゃ」

「お、おい!待たんか!」


父が何か言っていた気がするが、今は構っていられない。一刻も早くこの血を調べなければ。人の体をいとも容易く破壊するほどの怪力。エネルギー。これはきっと会社にとって大きな一歩となるだろう。

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