妹ができました
「おーい亮太ー。今日この後ゲーセン行かね?」
クラスメイトの一人、笹橋将が唐突に誘ってきた。コイツとは中学からの仲でクラスの中では一、二番目に仲が良い。ノリが良くてムードメーカー的なキャラである。
勉強の鬱憤晴らしに久しぶりに行きたいと一瞬思ったが。
「わり。今日はパス。妹が家で待ってるから」
「お?お前、妹なんかいたっけ?」
「んじゃーなー」
将の疑問気な反応を無視してその日は下校した。
☆●◇■△▼*▽▲□◆○★
「ただいまー」
タッタッタッタッタッ
「おにーちゃんおかえりー!」
「おーす。帰ったぞー心美ー」
心美がわざわざ走って玄関まで出迎えてくれた。
あの日から心美との同居生活が始まった。というか始めた。
ちなみに「心美」という漢字は俺が適当に考えた。ひらがなでも良かったけど漢字の方がしっくりきたのでこの前からコチラを使わせてもらっている。
「そうだ!おにーちゃん。なにかたべたいものなーい?わたし、がんばってつくるよ?」
「わー、ホントに?嬉しいなぁ。例えば何を作ってくれるのかな?」
「えーと、たまごやきー」
「おぉ!」
意外にリアルな料理で安心した。玉子焼きなら六歳児でもなんとか作れるレベル…
「ーのコーラづけ!」
「ん!?」
一瞬おぞましい光景が脳内をよぎったのと同時に危険アラートが脳内で鳴り響く。頭に浮かんだのは、食卓の器に注がれたシュワシュワの黒い液体の真ん中に浮かぶ黄色い物体。
なぜだろう。自然と冷や汗が噴き出てきた。
「さけのしおやき」
「い、良いねぇ」
「ーいりのフルーツポンチ!」
「お、おう」
「エビグラタン」
「すごいなぁ!」
「ーの、みそしる!」
「!?」
うん。本当にすごい。その世界観。
一体どこで覚えたんだろうか、そのレシピ。圧倒的なミスマッチ。幸いにも材料が無いので心美が今言った料理は作ることができない。ってかグラタンとか幼女一人で作れる品ではない気がするのだが。
「う、うん。心美ちゃん。今日は俺が作るね」
「えー」
俺のアンサーに心美が不満げな声を漏らす。
これだけは譲れない。下手したら味覚の生死に関わる問題だからな。頬を膨らませて拗ねる心美を尻目に台所へ向かおうとする直前。
「…その代わり、明日は心美ちゃん一人…じゃ危ないし、俺と一緒に作ろうか」
「…うん!」
心美と約束を交わし、機嫌が良くなったのを確認してこの話はひとまず幕を下ろした。傷ついた女の子のフォローは大事なことだからな。うん。俺エラい。良い兄貴。にしても…助かった。
☆●◇■△▼*▽▲□◆○★
「とは言ったものの、俺も料理に関しては素人なんだよなぁ…」
そんな弱音を吐きながら今晩のおかずになりそうな食材を冷蔵庫から探す。中に入っていたのは卵が二つ、牛乳と水が少量、そして申し訳程度のパック詰めの野菜が少々。
ご飯は炊いてあるので今晩一食分くらいは何とかなりそうだが、ほとんど毎日コンビニ弁当やカップ麺で済ませていたのが仇となった。これからの事を考えると圧倒的に食材不足だ。
「今日は目玉焼きと簡単なサラダでやり過ごすか…」
明日は土曜日、学校に関しては週によって学校のある週、無い週があって、今週は休みの週だったはず。心美一人で留守番をさせるわけにはいかないので、明日は一緒にスーパーの買い出しにでも行くか。
「心美ちゃん。明日お買い物に行くよー」
「んー?おかいものー?」
俺が声をかけた途端、なぜか心美は上を見ながら唸る。やがて「あっ」と声をあげた。
「おにーちゃんはやすんでていいよ」
「え?」
どういう事だ。休んでよい、というのは明日の買い出しの事だろうか。それとも…なんて、そんな疑問は次の心美の言葉で全て吹き飛んだ。
「わたしがいってくる!」
…。
「なん…だと…!?」
次回。心美ちゃん、初めてのおつかい。