苦悩
「すまない…亮太」
「いいよ、もう。何となく分かってたし」
机に倒れふす将。哀れだ。
将の背中をさすっていると、後ろの方でガタッと大きな音が。いつの間にか来ていた男性客が勢いよく席から立ち上がったのだ。
「賑やかだな…こんな時に。やはり悪魔を飼い慣らしていたヤツは違うな」
…。
………悪魔?
………………。
「?…この子達、お客さんの知り合いですかい?」
…嘘だろ。
「あぁ、ちょっとした…な」
…そんなまさか。
「全く…面倒な事をしてくれた」
…お前は
「呑気なものだな…」
「俺達がどんな思いをしたかも知らないで」
憎むべき相手。探していた男。
篠原竜汰。ヤツが座っていた。
「お前…篠原竜汰…クッ!」
「…ハッ!?待ておい!早まるな!」
反射的に殴り掛かりそうになった俺を将が制止する。飛び出しかけた俺の体を将が羽交い締めする。
「ふん…。そっちのガキの方がまだ利口みたいだな。お前ら、表に出ろ」
「ハッ、早速殺ろうってのか?上等だ。返り討ちに…」
「違う」
「話してやる…俺達の過去。あの娘が、どんな化け物なのかを」
店を出てすぐ近くにある公園。人がいないことを確認して俺達は篠原竜汰の話を聞くことにした。
☆●◇■△▼数年前▽▲□◆○★
「それじゃあ、行ってくるよ」
「はい。行ってらっしゃい。あなた」
「行ってらっしゃいパパー!」
平日の朝。今日も愛する家族のため会社へ向かう。こう見えても俺は社長だ。と、言っても弱小企業だが。
篠原食品。
主に健康食品を売りにしているのだが、ここ最近は赤字続きで経営難にある。理由は簡単。他の企業が強すぎるからだ。一昔前は大したライバル会社はおらず、それなりの顧客を獲得してのんびり経営していた。できていたのだが、現代科学の進歩は恐ろしいものだ。世の研究が進む度、他企業の技術があっという間に飛躍した。
「はい…はい…え!?そんな…契約が来月までって…」
徐々に減る顧客。
「すみません社長…これを…」
そして他企業へ移る従業員達。
「クソッ…俺だって…俺達だって頑張ってる。研究も進めてる…なのに…何が…何が違うんだよ畜生…」
新しい方向へ手を出すか。企業全体の在り方を考え直すべきか。考え、切り詰め、また考える。日々苦悩に頭を抱えていた。そんな時、一つの転機が訪れた。
「ぉ…おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ!」
「おめでとうございます!元気な女の子です」
恋々美の誕生だ。
「あぁ…よくやった。頑張ったな!唯!」
篠原 唯。
俺の愛する妻。そして…
後に恋々美の犠牲者となる女の名前だ。




