君の名は
「ハハッ…限界だ」
俺の隣で眠った心美を横目にスマホを取り出す。
一人では無理。俺は…
ネットの力を借りる!
ブラウザで心美に関する情報をひたすら探しまくる。俗に言うエゴサーチだ。前に探した時は何も出てこなかったが、話が大きくなってきたんだ。そろそろ出てくれても良いだろう。
「恋々美」「ここみ 六歳」「六歳 女児 行方不明」「女の子 六歳 失踪」。分かっているのは「ここみ」という名前と年齢のみ。それだけを頼りに検索をかける。
「小さい頃自分の名前検索して遊んでたなぁ…」
たわいも無い昔の記憶を思い出しながら情報を探す。すると検索とは関係ないとあるネットのトップ記事が目に入った。
「とある病院にて女子高生殺害…もう上がってんのか…」
記事によれば”お見舞いに来た同級生”が彼女を殺した事になっている。それに加えその同級生は幼い女の子を連れており、妹に殺人を強要させた。もしくは妹では無く、その女の子は誘拐した子の可能性。圧倒的に俺の事だ。社会的には横塚を殺したのは俺という事になっているようだ。
「…あれ?」
俺は気がつけば泣いていた。トップ記事の見出し、「女子高生殺害」。それを見てようやく委員長が死んだのだと、もうこの世にはいないのだと実感した。
「クソ…クソッ!今は泣いてる場合じゃ…」
溢れ出る涙を拭っている最中、零れた一粒の雫がスマホの画面に落ちてどこかのリンクを踏んだ。画面に映っていたのはとある会社のホームページ。「篠原食品」という会社の記事だった。
(なんだよこれ。全く関係ねぇじゃん。会社も聞いた事無いし…)
そう思いブラウザバックをしようとした瞬間、見切れている関連記事の見出しが目に入った。
【篠原食品社長の娘。僅か六歳の子が消息ー】
「…まさかな」
俺は恐る恐る記事のリンクを開いた。
【篠原食品社長の娘。僅か六歳の子が消息不明。
○月に違法薬物乱用で逮捕された篠原食品の社長、篠原竜汰氏に一人娘がいた事が記者の調べで発覚。篠原竜汰氏は実の娘に関して「知らない。施設に預けた」と供述しており、篠原恋々美ちゃん(6)は現在もー】
「篠原…恋々美…!」
そう心美では無く、恋々美。読みは同じだが漢字は違う。あの書類通りの名前の表記。年齢は六歳。そして何より、この記事がネットに上がったのは俺が心美を拾ってから僅か二日後である。間違いない。
〈逃げろお前らああああああああ〉
〈あの男は少女の父親だ〉
〈結構最近に最愛の妻を亡くしている〉
〈来るな化け物おおおおおおおお〉
〈ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…〉
〈名前は…藤原竜汰〉
色んな事が起こりすぎてグシャグシャだった俺の脳内に、たった今一つの答えが浮かび上がった。
藤原竜汰。
ヤツが全ての元凶だと。
「待ってろよ…篠原竜汰。絶対探し出して、俺はお前を…」
大きな殺意を胸に、今すぐにでも飛び出したい衝動を噛み殺してその日は眠った。




