記憶を失くした幼女
「ごめんなさい。なにもおぼえてないです」
…まいったな。記憶喪失ってやつか?
「何か覚えてる事はないかな?」
とりあえず今はこの子に関する情報が欲しい。親を探すには手がかりが少なすぎる。
「…ここみ」
「お?」
「わたしのなまえ…ここみ」
「ここみちゃんか…あとは無いかな?」
「…6」
「6?」
「さい」
六歳って事か。名前と年齢だけでも大きな手がかりだよな。あとは、そうだな…。
スリーサイズ…?
パシンッ
「わっ、おにーちゃんどうしたの?じぶんのかおたたいて…」
「びっくりさせちゃってごめんね、ここみちゃん。お兄さんに悪い人格がいたから叩いて潰しただけだよ」
「そう…なの…?」
ここみちゃんが心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでくれている。
やべぇ。何これやべぇ。ロリコンに目覚めそう。ぐ、ダメだ。理性を保て。俺。ハァハァ…。
「おにーちゃん。なんでフライパンもってるの?」
「ここみちゃん。まだ俺の中に悪い人格がいるみたいだから…大丈夫。ちょっとお兄さん動かなくなるだけだから」
「だっ、ダメだよぉ!だいじょーぶだよ!おにーちゃんのむし、きっともういないよ!」
ここみちゃんに必死に止められたため、悪い人格の駆除は中止してフライパンを片付ける。
さて茶番はここまでにして、真面目にこの子をどうしようか。俺が学校に行ってる間は見てられないからなぁ。誰かに預かってもらう訳にもいけない…ん?
あ、そうだ。何でこんな簡単な事に気がつかなかったんだろう。
「警察に突き出せば良い話じゃないか」
「つき…だす?」
「ごめんここみちゃん。お兄さんの言い方が悪かった」
六歳の子供の近くでは言葉使いに気をつけよう、と思う今日この頃。
よし。話を戻すか。
そうだよ。わざわざ俺が単独で親探しをしなくても警察の人たちとかに任せればそれで全て済むじゃないか。
「うん。ここみちゃん出かけるよ」
「…どこ?」
「警さ…お巡りさんの所だよ。そこでここみちゃんを預かってもらうんだ」
そう言うとここみちゃんは顔を伏せて、右手を口元に持ってきて考えるような素振りを見せた。五秒ほど経つとここみちゃんは顔を上げ、再び俺と目を合わせる。
「おにーちゃんとは…会えなくなるの?」
「え、うん、そうだね」
よし。そうと決まれば早速警察に
「…ん?」
ふと、何か小さな力でワイシャツの袖が引っ張られている事に気づく。袖の方を見ると、俯いているここみちゃんがその小さな手で俺の袖を掴んでいた。
「…やだ」
「え」
「おにーちゃんと、はなれるの…いや」
「…」
(何この子めっちゃ可愛い)
親戚の子って事にしてしばらく養う事にしました。