記憶
「そろそろ本格的に心美の記憶を戻そうと思う」
「わー」
「パチパチー」
委員長に心美の存在を知られた次の日の放課後。俺の部屋には将と委員長、お昼寝中の心美、俺を含めた四人がいた。
「はいっ」
「どうぞ、将」
「どうやって失った記憶を取り戻すのでしょうか」
「うむ…これから考える。次!」
「はいっ」
「どうぞ、委員長」
「記憶を戻す事はそんなに重要な事なのでしょうか」
「?…いや、だって、可哀想だろ。ずっと何も覚えてないまま…家族の事とか、友達の事とか忘れっぱなしなんて」
「そうかな…元の記憶が良い物だったのかは分からないし、もしかしたら凄いトラウマのせいで記憶を失った…としたら?」
「う~ん…」
確かに、もし委員長の言う通り何かしらの強いショックで記憶を失ったのだとしたら、それを思い出した時に心美はどうなるだろう。
「しかし、このままずっと俺が預かるのもな…」
「わ、私はずっと心美ちゃんがここにいるならそれでも良ー」
「発情委員長は黙っててくださーい」
俺の言葉に委員長はショボンと俯いてしまった。いつも真面目で冷静沈着な学級委員長が、どうして幼女を前にするとこうなってしまうのだろう。
ドンッッッ
「うわっ!?なんだ今の音!?アパート揺れたし!」
「あぁ、心美の寝返りだよ。よくあるよくある」
「幼女の寝返りで地震!?」
皆で心美の方を見る。心美が寝返って拳が当たったであろう場所の畳が少し凹んでいた。
「え、凹んでね?寝返りだよな?」
「よくあるよくある」
「パワー系ロリ…悪くないっ」
気を取り直して会議続行。
「そういえば心美ちゃんの捜索願いとか出てないの?小さな女の子が行方不明とか、ニュースになってもおかしくないのに」
「それが全くそれらしい物が無いんだよ」
俺はスマホのニュースアプリを開く。そこに掲載されているトップ記事一覧の内容を適当に読み上げる。
「明日の天気…○○県銀行強盗…有名人の薬物乱用…数人のバラバラ遺体の発見…とまぁ、こんな感じで"誘拐"とか"行方不明"って記事は無いんだ」
「手がかり無しか…」
「名前で検索してみたら?」
「あぁ、色々出てきたよ。と言っても名前しか分からないからな。検索に引っかかったのは別人ばっかりだった」
どん詰まり。最終手段は警察に引き渡して調べてもらうのが手っ取り早いが、そうすれば今の生活は幕を閉じ、俺は誘拐やら監禁の容疑をかけられるだろう。それだけはごめんだ。
「どうしようもない事考えてても疲れるだけよね。ちょっと息抜きしましょうか。ちょうど良い物持ってるのよね私」
そう言って委員長はカバンの中を漁り始めた。また心美を着せ替え人形にして遊ぶつもりなのかと思ったが、委員長が出したのは細長い紙きれ。
「じゃーん!某有名な遊園地のチケット!この前うちの親が福引で当てたのよ!」
「この歳になって遊園地か~」
「何よ!この歳って、私達なんてまだまだお子様じゃない。ね、佐神くんは行きたいわよね?」
「んー…心美も喜びそうだし、良いかもな」
「でしょー?」
「遊園地かー、なんか餓鬼のイメージ強いんだよなー」
「不満なら別に笹橋くんは来なくても良いわよ?チケット三枚しか無いからね~」
「おいおい行かないとは言ってないだろ?俺だけ仲間外れはよしてくれよー」
『あははははははは』
『はは…は…』
…。
《三枚しか無い…!?》




