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リリステラとフレアの行方


 城の中や城の周囲、そして王都などの大規模な捜索を行ったが、リリステラとフレアの行方はわからなかった。


「アルベール、大丈夫か?」

「はい。問題ありません、父上」

「無理はするな。ルーゼの力を譲渡された皇帝にとって、最愛を奪われるのは己の半身をもぎとられたようなもの。その苦痛を、私は知っている」

「……これほど辛いものとは。母上を亡くしたときの父上の気持ちが、今の俺には全てではないのでしょうが、わかります」


 父が心配をして俺の元を訪れてくれる。

 父は執務室にいる俺の元に「少しは眠れ」と声をかけて出て行った。

 

 リリステラとフレアを捜索している者たちからあがる報告は、悪いものばかりだ。


『姿を見たものはいない』

『誰も見ていない』

『部屋にずっといたはずだが、一瞬のうちにいなくなった』


 そんなことがあるだろうか。そもそもリリステラの部屋や王宮は、魔獣が入り込めないようにルーゼの加護をあつくしている。

 もしなにかしらの魔性の気配があればすぐに気づくはず。

 悪心をもつ誰かの仕業だとしても、誰にも見られずに王宮に侵入して二人を連れて出ていくなどできるはずがない。


 俺のようにルーゼの背に乗り、飛ぶことができるならともかく。


「人手をさいて探し回っておりますが、リリステラ様もフレア様もどこにもいません。アルベール様、もう夜になります。夜の捜索は危険です、街の外には魔獣が多く出没するようになりますから」

「あぁ、そうだな。……ジオニス、どう思う?」

「そうですね。死んだラウルがリリステラ様の前に現れて、聖炎が消えて、魔獣の大規模な発生が起こり、リリステラ様やフレア様が消えた。作為的な何かを感じますね」

「やはり、そう考えるのが妥当なのだろうな」


 夜の帳が下りて、ジオニスが戻ってくる。

 捜索を続けさせたいが、城にも王都にも、そして周辺にもいないというからには、誰かにさらわれたと考えることが妥当だろう。


 フレアを連れたリリステラが歩いて行ける距離には限りがある。いなくなった時間を考えると、二人きりであった場合には王都からは出られない。

 もし遠くに行っているとしたら、乗合馬車などを使っているだろうが、そうすればすぐに情報が入ってくるはずだ。


 恐らくは誰かにさらわれたのだろう。

 それはラウルの可能性が高い。奴は魔獣を操っていたという。だとしたら、一連の騒動は奴の仕業かもしれないが、ラウルはただの人間だった。

 その筈だが──。


「リィテもフレアも、もうフェデルタにはいないかもしれない」

「このような短時間で、誰にも見られることもなくフェデルタを出ることができるとは思えません。フェデルタと旧エルデハイムの国境には、身元確認のための関所もありますが、誰も通ってはいません」

「馬車も馬も使っていない、別の方法で、リィテとフレアは連れて行かれたのだろう」

「アルベール様ではあるまいし、そのようなことができますか?」

「さぁ、わからん。だが、そうとしか思えない。一端、捜索は打ち切りに。兵たちも、魔獣の討伐後で疲弊しているはずだ。よく労ってやれ」

「アルベール様も、少しお眠りください。ルーゼや幻獣の力を多く使ったでしょう。リリステラ様がご不在ですから、餓えを満たすことは難しいでしょうが、何か召し上がって眠れば、多少は回復するかと」


 なにか食事を持ってきましょうと、ジオニスが言う。

 俺は傷むこめかみを指でおさえて、天を仰いだ。


「──ジオニス、食いたくない」

「子供みたいなわがままを」

「リィテとフレアにもしなにかあったら、二人をさらった者を、死よりも苦しい目にあわせてやる」

「そうですね。そのときにはお手伝いいたしますよ。私も、頭にきています」

「珍しい」

「当然です。フレア様のようなまだ幼い子供を、そしてリリステラ様のような心根の優しい皇妃様をさらうとは、どうせ、塵のような輩です」

「お前も、中々口が悪い」

「うつりましたね、アルベール様の癖が」


 ジオニスは肩をすくめた。それから「肉でも食べてください。姫を救いに来た王子が寝不足と栄養失調でやつれていたなど、笑い話にもなりません」と真剣な声音で言う。

 心配をしてくれているのだろう。

 それぐらい今の俺は憔悴して見えるのかもしれない。


「……わかった。肉と酒を頼む。それから」

「はい」

「ルーゼの神域で見た光景が何度も目に浮かぶ。死んだ少女はリィテによく似ていた。もしリィテを失ったら、ルーゼは二度も愛する者を奪われたということになる」

「……ルーゼ様がなにか、語りかけてくるのですか?」

「いや。ルーゼは言葉を話さない。感情を俺に伝えることもない。ただ、俺はルーゼの導きでリィテに出会った。もちろん、俺は俺として、俺の感情でリィテを愛しているが、ルーゼにとってリィテは特別なのだろう」

「特別ですか。今までの、皇帝の寵姫たちとは違いますか?」

「おそらくは。あれほど、よく似ていた。そして今回の変事だ。きっと意味がある」

「アルベール様がそう言うのなら、そうなのでしょうね」


 俺は天井を睨んでいた視線を、ジオニスに向ける。

 昔から兄のように俺の傍にいる腹心は、無表情な顔と冷静な瞳の奥に、気遣いを滲ませていた。


「リィテの命が奪われるようなことになれば、ルーゼの力が暴走しかねない」

「そうなると……どうなりますか」

「フェデルタも、そしてこの大陸も、滅ぶだろう。ルーゼの力が暴走すれば、ルーゼの力によっておさえていた他の幻獣たちの力も暴走をする。多くの人が死ぬだろう。星見の塔の見解が確かならば、ルーゼは空から来た。大地を滅ぼし、空へとかえる。人を護るために存在している獣ではないのだ」


 この大地を傷を癒やすゆりかごにするために、ルーゼは空からきたのかもしれないと、俺は思っている。

 そうでなければ、過去の言い伝えがおかしいのだ。

 ルーゼが人よりもさきに産まれた大地の神だとしたら、人々はルーゼや幻獣をうやまうべきだろう。

 そうではなく、忌避し、おそれていたというのだから。


 空からきた獣が土地を汚染し魔獣がうまれたと考える方が道理が通る。

 だから人々は──ルーゼを恐れ嫌ったのではないか。


「俺はそう思っているというだけで、真実はわからん。だが、二人を必ず救わなくては。俺のためにも、皆のためにも」

「……力の暴走を抑え、国を護ることも大切でしょう。ですが、フェデルタの者たちはリリステラ様やフレア様のことを好ましく思っています。二人が失われるのは、ただただ悲しく、そして憤りを感じます。皆も同じ」

「あぁ、そうだな。……ジオニス、今の話は内密にしておけ。あくまで、俺の考えている可能性でしかない。それを多くの者に伝えて、いたずらに怖がらせる必要はない」


 ジオニスが出て行き、しばらくするとレベッカが肉と酒をもって部屋に入ってくる。

 レベッカはスタルーグを連れていた。

 星見の塔にも連絡が行き、血相を変えて王宮に駆け込んできたらしい。

 

「陛下、リリステラ様は……!」

「スタルーグ、落ち着け。慌てても、リィテがみつかるわけがない」

「は、はい、そうですね……ですがいてもたってもいられず。星見の塔に興味を示し、僕の話を熱心に聞いてくださったことが、僕はとても嬉しかった。ですから、とても心配で……」

「スタルーグ様。アルベール様のほうが、よほどあなたよりもリリステラ様を心配していらっしゃいます。取り乱すのはやめてください」


 レベッカにぴしゃりと叱られて、スタルーグは「レベッカ、すまない」と小さくなった。


「……申し訳ありません。陛下にご報告があり、参上いたしました」

「そうか。話せ」

「リリステラ様がラウルという男を見たという森の中を、調べていたのです。土地に残る幻獣の力を測る測定器の数字が、その男が居た場所はあり得ないほどの高値を示しました」


 スタルーグの報告に、俺は頷いた。

 その測定器の本来の用途は、魔晶石の採掘場所を特定するためのものだ。

 魔性の力を多く受けている岩山から、魔晶石は採掘できる。

 星見の塔がつくった機械で、採掘所ではよく使われていた。


「幻獣か……」


 ──少女を殺し、その遺体を操っていた。

 ネクロムという幻獣の姿が、脳裏に思い浮かんだ。



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